第10話 決戦を前に汝は何を思う





 ――声が聞こえる。
夢の中で裕は泣いていた。

何がそんなに哀しいのだろう。

前に見たサルサラの夢のように、泣いている自分を遠くから裕は見つめていた。
裕の前には長細い大きな石と白い花束が置かれている。
どうやら誰かのお墓のようだ。
その前で夢の自分は膝をついて涙を流し続けている。
それを客観的に見ているだけで裕は胸の詰まる想いがしてきた。

あれは誰の墓なのだろうか。
あんなに泣いているということは、とても大切な人に違いない。

―― 一体誰なの?

裕の心に不安が過ぎる。
明日が結界を張る日である為、もしかしてその時に誰かを失ってしまうのかもしれないと最悪のケースが一瞬頭をかすめたが、
裕はブンブンと頭を振り、そのネガティブな思考を追い払った。

サルサラを救えない上に誰か他の人も失うことになったりしたら…。

裕はその墓が誰のものなのかとても気になり、恐る恐る近づいてみる。
その石に名前らしき文字が薄っすらと書かれていた。
ゴクリ、と喉をならして足を進めると誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
その瞬間、ぐっと腕を掴まれてその場から引き離されていく。

待ってっ…っ!!!  もう少しで名前が見えるのに――っ!!


 「――っ!」

裕はガバリと起き上がった。

…何、あの夢…。

溜息をつきながら額に右手を当てた裕は、誰かの気配を感じる。




「…葉月」

「…伊吹兄」

「…真織」

「…天摩」

「…サルサラ」

「…アゲハくん」