「ちゃん、大丈夫!?」

天摩がの肩に触れる。
その大きくてゴツゴツした感触が何となく懐かしいような気がして、は彼の方を向いて微笑んだ。

「ごめんね。何か変な夢見ちゃってさ。もう大丈夫だから」
「そう…?ならいいけど」

を抱き寄せて心配そうに天摩が頬にキスをする。

「明日のことが不安?」
「…ちょっとだけね」

そう言うと彼はそっとの頭を撫でた。

天摩といると安心する。
…この人を失いたくない。

は心からそう思った。

明日、もし天摩に何かが起こりそうになったら、命を懸けて彼を守ってみせる。

グッと心に誓い、は天摩の肩に頭を乗せた。


 「ちゃん、ちょっと外に出ない?」

母屋で昼食を取った後、にそう言って天摩は自分の庵にある小さな庭へと彼女の手を引いた。
そしてちょっと待っててと言うと急いで自分は庵の中へと入っていく。

「お待たせ☆」

と言って戻って来た天摩はカメラを持っていた。

「…写真、撮るの?」
「うん!恋人になってから写真撮ってないから記念に、ね☆」

そう言って自分たちの背程の大きさの石にカメラを置いて彼は入念に位置を確認する。

「天摩って写真好きなの?」

部屋のアルバムのことを思い出し、は天摩に尋ねた。
すると彼はうん、と笑顔で頷く。

「今までの写真は全部隠し撮りだったからね。
 今は堂々としかも2人一緒に取れる関係になったんだから、撮っておきたいじゃない」
「え、隠し撮り…?」

はその言葉に固まる。

もしかして…。

「あのアルバムって私の隠し撮りの写真が入ってるの…?」
「うん、全部そうだよ☆」

デシッとは笑顔の天摩を殴った。

「何でそんなことするのっ!? そんな犯罪者じみたこと!!
 大体天摩はいつもいろんな女の子と一緒にいたじゃない! 何で私なのよ!?」
「だって好きな人とはいつも一緒にいたいじゃん。 
 でもちゃんには婚姻の儀の前まで手を出しちゃいけないって言われてたから…」

そう言って天摩は殴られた頭に手をやって少し拗ねる。
そんなことを言われてしまっては怒るに怒れないし、と思いながらはふぅと溜息をついた。

「第一、ちゃんは何か誤解してるかもしれないけどね、俺はそこら辺の女の子とは手も繋いだことないんだから!!」
「…は?」

そこら辺の女の子とは、恐らくあのノートに載っていた沢山の女の子たちのことだろう。

「…どういうこと?」

はとりあえず話を聞くことにした。

「多分、葉月クンとか他の人たちもそうだろうけど、
 俺たちって許婚に決まってからはちゃん以外の女の人と深い関係になっちゃ駄目って言われてるの」
「うん、それは知ってる」
「でも自分の一族がちゃんに選ばれるのか、っていろいろ大人たちは心配しちゃうわけ。
 やっぱり当主と親族関係になったら次の臨邪期までは結構良い待遇されるからね」
「…うん」
「だからね、俺たちには専属の女の人がつくんだよ」
「…」
「それでその人に何もかも習うの。他の人に負けないくらいのテクニックとかをね。
 …まぁ、習うっていうか軽く犯される感じだけど…」
「…」

は暫く沈黙し

「さいってい!! 何考えてんの、大人たちはっ!! 人を何だと思ってんのっ!!」

と大きな声で叫んだ。

「…俺もね、そう思うよ。でもその女の人も高額の報酬貰ってるから割り切ってたな。
 それが余計に辛くてさ。自分からは絶対抱かなかったけどね」

そう言って天摩は縁側に座る。

「多分、他の人たちもそういうこと強制されてた筈だよ。大人の考えることは一緒だから」

苦虫を噛み潰したような表情で天摩は下唇を噛んだ。

「それが嫌で俺は実家から離れて山奥で修行してたんだ。
 でも基本的に女の子と話すのは好きだからガールフレンドはいっぱいいたけど」

そう言って明るく笑う。

…天摩も…他の皆も被害者だ。

は許婚たちについていた女性たちと共に許婚たちのことを気の毒に思った。

私なんかよりずっと辛い思いをしていたのだ。
大人たちの陰謀に飲み込まれて、彼らは…。

の表情が暗くなる。

「あ、ごめん。こんなこと話すつもりじゃなかったのに…」

天摩は立ち上がり、の肩に手を置いた。

「…軽蔑する?」
「…」

自分の顔を哀しそうな表情で覗き込む彼を見て、は静かに首を横に振った。

「…私、変えたい。こんな馬鹿げた掟とか決まりとか…」

は天摩の顔を見上げてそう言った。

「…もし私が成人してちゃんとした当主になったら、きちんと現実と向き合っておかしな所は変えてみせる。
 これ以上、天摩たちみたいな思いをする人が出てきて欲しくないもの」
「――ちゃん」

グッと天摩がを抱き締める。

「…ごめんね、天摩。私のせいでごめんね」

は必死に謝っていた。

私の許婚になっていなければ、天摩はずっと自由で幸せに生きて来れた筈だ。

ちゃんのせいじゃないよ。 ――俺さ、いろいろあったけど許婚でよかったって思ってるよ。
 許婚じゃなかったらちゃんに会えなかったかもしれないし」

天摩はしっかりとの瞳を見つめる。

「だからこの運命に感謝してる」
「…天摩…」

の目から涙が零れた。
それをそっと拭うと天摩は優しいキスを落とす。

「さ、笑って☆ラブラブな写真撮るんだから!!」
「…うん」

そう言ってもう1度、彼はに唇を重ねた。


 『パシャ』

カメラのフラッシュが光る。
天摩は再びカメラをセットしに行った。

「まだ撮るの?」
「うん!今度はキスしてるトコ撮る☆」
「い、嫌よっ!! そんなの恥ずかしい!」

そう言っては逃げようとするがギュッと後ろから抱き締められる。

「ちょっと天摩――」

『パシャ』

と向こうから音がした。

「あはっ、ギュってしてる素の写真が撮れちゃったね☆」
「あはっじゃない!! もう恥ずかしいでしょ」

がプイっと横を向くと天摩は微笑んで彼女の耳にキスをした。

「…もぉ」

そう言いながらは天摩の肩に頭を乗せて彼の顔を見上げる。
そんな自分も笑顔だった。

「これからもいっぱい写真撮ろうね。結婚式も、新婚旅行に行く時も、勿論ただの日常風景でもさ。
 それでね、子どもができたら子どもの写真もいっぱい撮って、
 子どもが大きくなった時に俺たちの写真を見せていっぱい惚気るの☆
 お父さんは昔からお母さんが大好きだ〜ってね」

子どものように無邪気な笑顔の天摩。
は彼の言った情景を想像して思わず笑う。

「…子どもには普通の写真を見せてよね。今撮った奴は却下だから」

そう言っては天摩の横顔にそっとキスをした。











この間、ちゃんと日数を計算してみたんですよ。
そしたらあと3日くらいあるだろうと思っていたらあと1日しかないことが判明し、焦りまくった私です。

さて、今回話が長くなってしまった天摩ですが、
「性処理」という現在でも充分人権侵害な話ですが、設定上重要と思われるので出しました。
でなきゃ天摩が物凄く遊び人のように思われてしまうと思って。
葉月や伊吹が本命と言う方もここを是非読んでもらいたいですね。

ちなみに私はそのようなことを助長するわけでもないし、容認しているわけではありません。断固反対。

ところで、やっと写真の話が出ました。
「思い出は胸にとっておく」タイプの方も多いと思いますが、
天摩のバカッぷりを出したかったので、ここでは写真を取りまくっています。
でも子どもに惚気る親なんてちょっと嫌…。

さぁ、ボチボチ決戦になりますが、果たして1話で終わるか、自分でもまだよくわかりません。
でもどれもベストな終わり方にしたいと思います。たとえそれがベタでも、無理矢理でも…っ!!
温かい目でどうか見守ってください。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!


吉永裕 (2006.2.19)



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