「どうした?」
伊吹はの顔を覗き込むと抱き寄せる。
「…何か不思議な夢…見た」
彼の肌から伝わる温もりで徐々に動悸が落ち着いてきた。
「大丈夫か?」
「うん。もう平気」
そう言って微笑むと、伊吹は抱く手に力を込める。
「明日までの辛抱だからな」
「…うん」
この人を失いたくない。
明日、もし伊吹兄に何かが起こりそうになったら命を懸けて彼を守ってみせる。
グッと心に誓い、も力強く伊吹を抱き締めた。
着替えた2人は裏山の切り株の所へやってきた。
この木を折ってしまったあの頃に比べて2人の背はずっと大きくなった。
そして伊吹の後ろを追いかけてばかりだった自分は、今ではピタリと彼の隣に並んでいる。
これまでの時間を思いながら、眩しそうには伊吹を見上げた。
優しくて頼もしい伊吹兄。
私をいつも守ってくれた人――
はそっと伊吹の腕に触れる。
すると伊吹はにこりと笑って彼女の肩に手を回した。
「明日はが何もかもから解放される日だ。 全部終わったらパァ〜っと祝おうな」
「うん」
前に前にと自分を引っ張ってくれる伊吹にの顔も笑顔になる。
「今日はその前祝をしようと思ってな」
「前祝?」
そう言うと伊吹はの肩を放してポケットから何かを取り出した。
「…箱?」
「プレゼントだよ。開けてみな?」
白い包装紙と黄色のリボンでラッピングされた箱を渡される。
はドキドキしながら丁寧にリボンを解いて包装紙を開いていく。
中の箱はピンク色をしていた。
「開けるよ?」
「おう」
ゆっくりと箱を開くと、ふわふわした綿の中にキラリと光るネックレスが入っていた。
ハート型の小さな鍵の中に赤い石が輝くホワイトゴールドのネックレス。
「…かわいい」
「気に入ったか?よかった」
呆然としているとは反対に伊吹は嬉しそうに笑った。
「これ、貰ってもいいの?」
「あぁ、勿論」
「…ありがとう。嬉しい」
は嬉しさを噛み締めるように礼を言う。
そんなの頭を優しく撫でて伊吹は額にキスを落とした。
「つけてやるから後ろ向けよ」
「ん…」
は伊吹に背を向けて髪の毛を前にもってくると首を下げる。
すると伊吹がネックレスを回して手早くつけた。
「つけたぜ」
「ありがとう」
そう言っては伊吹の方に身体を向ける。
「やっぱりには赤い石が似合うな」
「そう?」
ははにかみながら胸元のネックレスに目をやる。
そんなを優しく包むように抱き締めて伊吹は彼女の頬や耳にキスを落とした。
「好きだ」
「うん…。私も好き」
何かの呪文のようにその言葉を唱えると幸せに満たさせる。
「伊吹兄が大好き…」
嬉しさでは涙を滲ませると伊吹が瞼にも口付ける。
「明日はさっさと終わらせような」
「うん」
「そしたら指輪、買いに行くぞ。すぐに祝言を挙げるんだからな」
「…祝言って…。もっとロマンチックにさ、結婚って言ってよ」
「わかったよ」
そう言うと伊吹はクッと笑ってみせる。
「――、結婚しよう。 明日、やるべきことが済んだらすぐにだ」
「…うん」
がコクンと頷くと伊吹が唇を重ねる。
そうして2人は思い出の場所で愛を誓った。
この間、ちゃんと日数を計算してみたんですよ。
そしたらあと3日くらいあるだろうと思っていたらあと1日しかないことが判明し、焦りまくった私です。
さて、伊吹は好きな女を飾りたい感じの人間のつもり。
服やアクセサリーをコーディネートして、自分の好みに仕立てて喜びを感じる奴です。
さすがに相手に似合わないモノを無理矢理押し付けたりはしませんが。
「俺の前だけで着てくれよ」とか言ってセクシーな服とか下着とかプレゼントしそう。
さぁ、ボチボチ決戦になりますが、果たして1話で終わるか、自分でもまだよくわかりません。
でもどれもベストな終わり方にしたいと思います。たとえそれがベタでも、無理矢理でも…っ!!
温かい目でどうか見守ってください。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!
吉永裕 (2006.2.19)
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