第3章 第8節
「……絵は一つだけじゃないようだな」
アステムはざっと周りを確認する。
どうやら大きさは違うが壁画は複数あるようだ。
一番手前の壁画の前に全員が集まる。
所々塗料が剥げたり表面が欠けたりしているが、壁面は青と緑と白の塗料で描かれていた。
海の上に浮かぶ大きな緑色の大陸。その大陸の周囲は薄く白で塗られていて何やら靄か霧で包まれているようにも見える。
「……地図か?」
「そのような気がするね。おや、下に文字みたいなものが彫られたプレートがあるよ。題名のようなものかな?
――あぁ、これは当時の文字のようだね、私には分からないなあ」
カイトとリットンがランプを掲げて文字の彫られた石版を照らす。
それをじっと見つめてレディネスは口を開いた。
「……こういうのは考古学者の仕事じゃない? しかもここはずっと閉じられてた空間だし、何があるかわかんないよ。
あんまり長居しない方がいいかと思うんだけど」
「え? ちょっとキャスカ、今まで歴史に興味持ってたのに急にどうしたの?」
「いやさ、ここ入口が一つだけの洞窟じゃん? 最初は気にしてなかったけど、なんか段々閉塞感で息苦しくなっちゃって」
「何だ、気分が悪いなら早く言えよ。じゃあ回収も済んだことだし宿に戻るか」
「そうだね。結構時間も経った気がするし、暗くなる前に帰ろう」
カイトとリットンがそう言うと、レディネスは頷きキャスカの姿に変身する。
「大丈夫?そんなに具合悪い?」
「うな」
小さく鳴くキャスカをそっと撫でるとは肩に乗せた。
そうして一行はその場を立ち退くことにする。
「――不思議な場所。ここには昔の空気が残っている気がする。懐かしい土の匂い……」
ふと後ろ髪を引かれる想いでは壁画の方を振り返った。
暗い中、壁画に埋め込まれた青や緑の石がランプの光を吸収してひっそりと浮かび上がって見える。
なんだかその光が自分を呼んでいるような気がしたが、カイトたちが歩を進めていく音が聞こえたので慌てて追いかけた。
何はともあれ、チップの除去に向けてまた一つ近づいたことには喜びを感じる。
チップを除去すれば安心してこれから先も皆と一緒に傭兵の仕事ができる。
レディネスが戻してくれると言っていたし、いつか失った記憶も取り戻せる筈だ。
――そんな気持ちではカッシート遺跡を後にした。
その後、カイトが明日1日だけ自由な時間が欲しいと言うので、明後日までカッシート遺跡に近いマリーという町に留まることになった。
次の日、目を覚ましたはカーテンを開けて窓の外を眺める。
空はよく晴れていて気持ちの良い透き通った青と水色の中間のような色をしていた。
今日は1日自由行動していいことになっている。
「カイトさんのところへ行こう」
「……アステムさん」
「リットンさんと一緒にいたいな」
「キャスカの具合、良くなったかな」