リットンとはいつも一緒にいるものの、2人きりで町を歩いたり出かけたりすることは用事があるとき以外はない。
丁度、今日は一日自由行動を許されているし、滅多に来ることのない町に来ているので
もし彼の都合が良いなら町の中を一緒に見て回りたいなぁと思いつつ、は先程カーテンを開けた窓を全開して伸びをしながら外を眺めた。
すると微かにカイトの後姿が見える。
こんな朝早くから出掛けるなんて余程大事な用があったのだろう、と思いながらは彼から視線を逸らして天を仰いだ。
吸い込まれてしまいそうなくらいに晴れ渡った美しい青い空。
「うん、外出しなきゃ勿体ない」
もしリットンに断られても、気分転換を兼ねて町に出てみようと決め、は宿の食堂へ向かう。
その日はカイトを除いたメンバーで朝食を取った。
何だかカイト一人がいないだけで静かになってしまったな、と思いながらは黙々と食事を口に運ぶ。
彼の用事を他の皆は知っているのか、誰もカイトの行き先について尋ねもしないし言いもしない。
そんな中、も聞くようなことはせず、全員は静かに食事を終えた。
その後、部屋に戻ろうとしたが呼び止める声がしたのでは笑顔で振り返る。
そこには同じく笑顔のリットンが立っていた。
「。良かったらこの後、一緒に町へ出てみないかい?」
「はい、喜んで!」
何だか気持ちが通っている気がして嬉しい気持ちになる。
彼女のそんな様子に、リットンもクスッと嬉しそうに笑った。
「では用意ができた頃に部屋まで迎えに行くよ」
そうして2人は自分の部屋へと戻る。
その後、用意を済ませたはリットンと一緒に宿を出た。
町を歩いていると、リットンが装飾品の店の前で立ち止まる。
「少し見ていってもいいかな?」
「はい、入ってみましょう!」
そう言って2人は店へ入る。
店内には指輪やネックレスの金属類だけでなく天然の素材を利用した羽飾りなども飾られており、
いつも食料品店以外では道具屋や鍛冶屋にしか行かないは目の前の綺麗な装飾品に目を輝かせた。
「カッシート遺跡にも細かい装飾がなされていたけど、この地域の人たちは加工や装飾技術に優れているようだね」
彼女を見てにっこりと微笑み、リットンは透明のケースに入れられているネックレスに目を移す。
ケースの中の装飾品はどれも繊細な装飾がなされており、使われている宝石だけでなく全体がキラキラと輝いている。
そうしてリットンは暫く店内をゆっくり見て回り、指輪のコーナーの前で立ち止まった。
「、君はどんなデザインが好きなんだい?」
「え、私ですか?」
今まで実用性重視で洋服や装備品を選んでいた為、あまりお洒落というものに気を配っていなかったものの
綺麗なものには興味のあるは、うーんと唸り声をあげながら目の前に並んだ指輪を見比べていく。
「……うーん、やっぱりどこか実用的というかあまり仰々しくないものに惹かれますね。
あまりに繊細で華奢なデザインだと壊しちゃうんじゃないかって肩に力が入りそうですし」
は苦笑しながらプラチナに小さな青い石が三つ埋め込まれている指輪を指差した。
するとリットンは笑顔で頷く。
「そうか、はシンプルなものが好きなのだね。君のように美しい人は何をつけても似合うと思うけれど、今のように飾らないは何よりも美しく尊いと思うよ。
私はそんな君が好きさ」
さらりと凄いことを言われて赤面して硬直状態のの手を取り、リットンはその指輪をそっと左手にはめた。
「うん、もう一つ小さいサイズがいいようだね」
独り言のようにそう言って彼は彼女の薬指から指輪を外し、店員のところへ向かう。
そんな彼の後姿を見つめながら頬の熱を冷まそうとは両手で顔をパタパタと煽いだ。
その後、店員と話を終えたリットンが戻ってくる。
「石はあのままでいいかい?」
「え? はぁ、あの石の色合いとか好きですけど……」
彼からのよく分からない質問に首を捻りながらは答えると、リットンはくすくすと楽しげに笑った。
「あの石はミルキーアクアマリンと言って、“幸せな結婚”を象徴するそうだよ。
さすが、婚約指輪に相応しいものを選んだね」
「えっ!? こっ…こっこっこっ」
「、鶏のようになっているよ」
動揺した彼女の様子を楽しみながらリットンは肩を揺らして笑っている。
先程の赤面を漸く収めたと思ったのに、それ以上の恥ずかしくて嬉しい出来事にの顔は紅潮したまま戻らない。
「――嫌かな?」
彼女の答えは予想がついていながらもリットンは少し意地悪に尋ねてみる。
そんな彼に向かってはブンブンと首を振った。
「嫌だなんて!!! すっごく嬉しいですっ」
喜びの涙で瞳を潤ませながらが笑顔で顔を上げると、優しく微笑んだ彼と目が合う。
「のサイズに合う指輪ができて手元に届く頃には、きっと君は不安から解放されて幸せな未来しか考えられなくなっている筈さ」
リットンの言葉に頷く。
すると彼はふっと無邪気に笑ってみせる。
「君が私に与えてくれる幸福以上に君を幸せにするつもりだから、期待していてくれたまえ」
「はいっ」
いつもの調子で幸せな未来を誓う彼の手を取り、は元気よく頷いた。
他のキャラに比べるととんでもなくほわわんなルートですみません^^;
リットンは前半にイベントを持ってきてしまったので、他のキャラのようなあまり深刻なエピソードは語られないので
設定的には悲劇の人物なのですけれども、そこまで暗さを感じさせないですね。
その分、甘さの弱いこの物語において唯一の甘味処と申しますか。
そういう役割を担っております^^;
さて、今回出てきた石、ミルキーアクアマリンですが、
私もあまり詳しくないのでこんなことを言ってしまっていいのかちょっと不安ですけれども
簡単に言うと、アクアマリンの透き通ってない版という感じです。
澄んだアクアマリンも綺麗ですが、ミルキーは優しく温かな美しさがあります^^
というわけで、いつも更新が不定期で心苦しいですが、読んでくださった皆様ありがとうございました^^
吉永裕 (2009.1.28)
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