第3章 第5節
最初の1つである紅色水晶の核を回収した後、レディネスは一旦カイトらと別行動することになった。
ティン島の魔王軍領にある施設に石を持って行き、開発中の銃に組み込んで様子を見てから研究員にその後の指示を出すらしい。
「じゃあ、また夜にでも」
「うん、気をつけてね」
そう言うとレディネスはキャスカの姿に変身して、空へと飛び立っていった。
カイトたちもサンティアカに戻ることにする。
紅色水晶を目の前にした時とは違い、ひとまず最初の任務が終了した今、彼らは穏やかな雰囲気に包まれていた。
前を歩く彼らの表情を見てはホッとする。
普段彼らは見せないけれど、それぞれ胸の奥深くに癒えない痛みや傷を抱えている。
自分がそれを完全に癒すことは恐らくできない、とは視線を落とした。
どんなに力になりたいと思っても、最終的に乗り越えるのは本人次第だと思ったからである。
それに先程の様子を見ると、彼らはその傷を積極的に癒すつもりはなさそうだ。
その傷を完治させることを許さずに十字架を背負い続ける彼らは、いったい今までどれくらい苦しんできたのだろう。
唯一、事情を知っているリットンのことを思い出す。
恐らく彼は自分自身の体に流れる魔硝石の力を疎んでいるに違いない。
それでも彼は誰も恨まず憎まず、自分だけを責め続け人を傷つけぬように生きてきた。
「お前たちは憎しみや恐怖に身を任せて魂を汚し人を傷つけるよりも、自分自身が傷を負うことを選んだ。
お前たちは魂が汚れているから苦しいんじゃない。傷ついて十字架の重みに縛られてるからさ。
そうやって生きる人生を選んだ時点で、魂は聖たりうるんだよ」
ふとレディネスの言葉を思い出す。
そう、リットンだけではなくカイトやアステムも十字架の重みに縛られて今も生きている。
だが、それが彼らの選んだ生き方だとしても、たとえ彼らが癒されることを望んでいないとしても、彼らの痛みを少しでも軽くしてあげたい。力になりたい。
――それが大切な人なら尚更だ。
はゆっくり顔を上げる。
『どうしたらカイトさんの心の痛みを減らしてあげられるんだろう』
『アステムさんは一体どんな傷を抱えているのかな…』
『これからも傍にいます、リットンさん』
『頭の良いキャスカなら何かアドバイスくれるかな』