第3章 第13節
静かに扉を開け目が合ったレディネスが力なく首を振るのを見たカイトは重いため息をついた。
隣の部屋ではリットンが祈るように懐中時計を握り締め、庭のアステムは暗い表情で日が昇ったにもかかわらずカーテンの閉められた窓を見つめている。
「……まだ目覚めないのか。もう二日経ったっていうのに」
「チャクラムでつけられた傷は何故か治癒してるけどそれ以外にも外傷はないし熱もない。
呼吸も脈も正常。目覚めない原因が全く分からない。
マラダイ一の医者でもお手上げだってさ。
ともあれ精神的に疲労してる可能性が高いから、そろそろ目が覚めるかもしれないとも言ってた」
「そうか。早く目覚めるといいんだけどな。――また、の力に助けられちまった」
「そうだね」
のベッドに浅く腰かけていたレディネスの隣にカイトも腰を下ろした。
レディネスは膝に肘をついて頭を抱えている。
「――やめて、……やめてよ!
これ以上、悲しみと憎しみを増やさないで……っ!」
レディネスはレラの村での出来事を思い返していた。
黒い魔獣が自分たちに襲いかかろうとした次の瞬間、彼女の身体から白い光が発せられ、
目を開けた時には魔獣もの複製の女も消えていたのだ。
その後、気を失ったを連れてマラダイの町に戻った彼らはギルドに連絡し、宿屋で彼女の目覚めを待っている。
「――クソ…っ」
レディネスは小さく悪態をつき、部屋から出て行った。
そんな彼の後姿をカイトは苦しそうに見つめる。
皆、自分の無力さとの回復の目途が立たない絶望感に打ちのめされているのだった。
しかし、カイトも部屋を出て行った一時間後、それまで死んでいるかのように静かに眠っていたはゆっくりと目を開けた。
そのままフラフラと、だがひとつも音を立てることなく誰にも気づかれずに宿屋を出る。
茫然と歩いた先に現れたのはマラダイの中心地にある噴水であった。
彼女は噴水の縁に腰を下ろし、水面に映る雲の流れを見つめる。
暫くそうしていると「」と呼ぶ声が聞こえたので声のする方を向いた。
その視線の先にいたのは――
息を切らせて走ってくるカイトだった。
酷く哀しげな顔をしたアステムだった。
青白い顔をしたリットンだった。
不機嫌そうな表情のレディネスだった。