彼の姿を確認した瞬間、ぼんやりとしていた景色がはっきりと見えてくる。
今にも倒れてしまいそうな顔色をしたリットンと目が合ったの頬に涙が流れた。
目の前にいるリットンをとても愛しく思うし、あんな顔をさせてしまう程に自分を愛してくれている彼の存在を有難いと思うが、
それと反比例するように罪悪感が胸を締め付け、物狂おしい感情が湧き上がってくる。
――自分がいたせいで村は滅びた。村人たちは魔獣に殺され、また魔硝石により狂って傷つけ合い殺し合った。
そのことを受け入れることができず自ら記憶を閉ざしてしまったのだ。
エウリードが記憶を操作したわけではないのに、自分は今までそのことを忘れて生きていた。
なんて酷薄なことだろう――とは悔んだ。
「!突然いなくなるから心配したよ」
「……すみ…ま…せん」
リットンはの両腕を掴むと人目も気にせず自分の額を彼女の額に当てた。
そんな彼には絞り出すようにして応える。
先日、魔硝石で我を失った村人に首を絞められた時のことをふと思い出し、の心に更なる闇が広がっていく。
「とりあえず、目が覚めてよかった」
無事を確かめるようにリットンはの顔に優しく触れた。
彼の手はごつごつしたカイトのものとも細長く節が目立つアステムのものとも違い、
甲に青い血管が見て取れる程色白で、先端に向かって細くなっていく綺麗で華奢な指をしている。
その指が涙を拭う感触はこそばゆいものの申し訳ない気持ちが大きくなっていき、はそっと頭を振った。
「ひとまず宿に戻ろうか。
君は二日間眠っていたのだよ、急に動き回るのは良くないからね」
「はい……」
彼女の様子がいつもと違うことに気付いたリットンは彼にしては珍しく力強くの肩に手を回して彼女をエスコートする。
家族や村人を不幸にした自分には愛される資格などないのに、隣合う彼の温もりにしがみ付いていたいと願うことは更なる罪となろう、とは思う。
それでも約束したのだ。これからもリットンの傍にいると、催眠状態の自分ともエウリードとも戦うと。
そう決めたのだから過去とも戦い、罰を受け入れ生き抜くことで死んでいった皆に償っていくべきなのだ。
部屋に着きリットンから横になるように言われたが、はベッドに腰を下ろして何もかも心の内を吐き出した。
「――だけど辛いんです。私は貴方が傍にいてくれたらそれだけで満たされてしまう。
私が幸せになるのは死んだ皆に申し訳ないんです……っ」
リットンはの話が終わるまで静観していようと思っていたが
肩を震わせて涙を零す彼女を目の当たりにして居た堪れなくなり、宥めるようにそっと抱き寄せる。
「嗚呼、可憐しい。どうか自分を責めないで欲しい。
君はエウリードに利用された被害者なのだ。魔硝石によって狂わされた惨烈なエウリードもまた被害者だろう。
記憶を封じる程に君は苦しんだ。その君を誰が咎めることができるだろう。
頼む、君自身を君の人生を踏み躙るのはやめてくれ。
君は私の命、私の希望だよ。辛いだろうが生きて幸せになるのだ。
亡くなった皆の為にも私の為にも――お願いだよ、」
「リットンさん……。
私、幸せになってもいいんでしょうか? 貴方と一緒に生きてもいいんでしょうか?」
「勿論だよ。誓ったではないか、一緒に戦うと。
何度でも言うよ、。君の心も命も幸せな未来も私が守ってみせる」
「はい……、ありがとうございます……っ」
はリットンの背中に手を回してしっかりと抱き締め返す。
苦しいけれど逃げずに生きていこうと彼女は決意する。
それが今の自分にできる唯一の償いのように思えた。
まさかの約二年ぶりの更新( ・д・) も、申し訳ございません><
カイトとレディネスは書いていたのですがそこからなかなか進まず…。
アステムやリットンと少し書き方が変わってしまっているように思えます。
いやぁ、年を取ると説教臭い書き方になって嫌ですね…。気をつけなきゃ。
リットンルートは短めですね……。
なんていうか、ただの恋人たちが惚気あってるようにしか見えないのは我ながら僻み入ってますかそうですか。
さて、リットンに限らず今回は最大のヒロインイジイジ箇所ですので
正直お客様は萎えまくりだろうなと思うのですが、恐らくここが最後と思います…よ。
第3章も次の節で終わり。最終章に向けてスパートかけていきたいと思いますので
どうぞこれからも宜しくお願い致します。読んでくださいましてありがとうございました!!
裕 (2013.5.2)
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