7.妖しき紫玉



―玉座―

蒼玉(そうぎょく)と黒玉(こくぎょく)、そして銀玉(ぎんぎょく)を手に入れたバーン国は
最後の宝玉、紫玉(しぎょく)を入手しようとしていた。

「バーン国最後の宝玉、紫玉はワッカ湖付近の洞窟にあると聞いています」
「湖!?  わ、行ってみた〜い!」

とヤン、レノンとエドワードはカルトスのいる玉座に集まっている。

「遊びに行くのではないのだぞ」
「わかってるってば」

互いをムッと見合っている2人の後ろからレノンが口を開いた。

「…王、その洞窟付近は人間はおろか魔物ですら正気を失うという噂があります」
「じゃあ近づけないの?」

パッと後ろを振り向くと、レノンの隣にいたヤンがニコッと笑ってみせる。

「その点は大丈夫です。1週間頂ければ、紫玉のエネルギーを無力化できる装置を作ります」
「すごっっ!ヤン、やるねぇ」
「見直しました? さん」
「うん、うん!」

そんな2人のやり取りを静かに見つめる他、3人。

「…では出発は10日後にする」
「了解!!」

「オーッ」と右手の拳を上げてやる気満々のに視線が集まった。

――お前、行くつもりなのか?」
「うん。勿論よ!」
「…そうか。お前の事は守るが、あまり無茶をするなよ」
「あ、もしかしてカルトスも行けるの!?」
「あぁ」

その言葉にの瞳に光が灯る。
皆で外出なんて珍しいし嬉しいな、と喜んでいたが、次に発せられたエドワードの言葉に彼女は固まってしまった。


「――王が自由に出歩けるのは宝玉が集まるまでだからな」
「…そんな…」

その場にいるカルトス以外の者の表情が曇る。

「宝玉をラスティア山に持って行き願いが叶ったら、俺は本格的に王の仕事をしなければならないのだ。
 それまでは、宝玉に関する場所ならば外出しても良いと大臣からも許可されている」

(…そうか、これからはカルトスは永遠に“王”に縛られるんだ…)

「…カルトス、楽しもうね!旅行だと思ってさ」

は精一杯、カルトスに今の自由を満喫して欲しかった。
そんな彼女の言葉に全員が微笑む。

「そうだな。道中、楽しむとしよう」

そうしてその10日後、 、カルトス、エドワード、レノン、ヤンの5人はワッカ湖に向けて旅立ったのだった。



―ワッカ湖―

「ここがワッカ湖?綺麗〜!」
「あまり飛び跳ねるな。落ちるぞ」
「へーきだもん!」

はこの1ヶ月間、ずっと城と研究所の往復しかしていなかったのでこのような自然を目にしたのは久しぶりだった。

「ここから東に1kmほど歩いた場所に洞窟があります」
「では、そろそろ紫玉の遮断装置を渡しますね。これを身につけてスイッチを入れれば大丈夫です」

そうしてヤンは皆にその装置を渡していく。

「これはその人の魔力を機械に取り込み、バリアとして身体の回りに防護シールドを張る装置です」
「凄い…」

は彼らの腰についている小さな装置を見て感心し続けていたが、自分も欲しいと思いヤンに手を伸ばした。

「…さん。貴女はここで待機してください」
「え!? 何で? 私の分、ないの!?」
「貴女には魔力はないのです。この装置は生体エネルギーを還元する事はできません」
「ぶ〜!!」

はブーイングする。
ここまできて何もできないなんて意味ないではないか。

「紫玉が何よ!! 私の気合で変な力なんてぶっ飛ばしちゃうんだから!!」
「…まぁ、そう言うな。お前の安全の為だ」
「…」

そう言われては何もいえない。
だいたいここには、無理を言って連れてきてもらったのだ。

「では、こやつを護衛する人間が1人必要ですね」
「そうだな…。――に任せるとするか。 お前が選ぶが良い。お前の命を預ける人間だ」

(命を預ける…って、そんなに危ないの、ここ?)

一瞬ゾクっとしたが、辺りはのどかな風景が広がっている。
心配性のカルトスの事だから、最悪の事態を考えて言っているのだろう。
恐らくそこまで危険な思いはしないはずだ。

(だったら一番傍にいて欲しい人を……なんて、ダメかな)

「…そうだな……じゃあ…」


「カルトス、お願い」

「エドワード、残ってよ」

「レノンさんがいいな」

「ヤンにしとく」