「俺か?わかった。では紫玉は皆に任せる」
「しかし、王を護衛する者がいないというのは…」
「俺は大丈夫だ。自分と彼女の身くらいは守る力はあるつもりだ。
心配をするなら、早く紫玉を持って戻って来い」
珍しくカルトスが少年のように無邪気な表情を見せると、エドワードたちももう説得できないと悟ったらしい。
「では、行って参ります」
苦笑してはぁ、とため息をつきながらエドワードとレノンとヤンは洞窟に向かった。
「ごめんね、王様なのに護衛なんてさせて」
「女性を守る事に王など関係ない。気にするな」
「…ありがとう」
(そういえば私、気がついたらいつもカルトスの傍にいるな…。
カルトスも嫌な顔せずに一緒にいてくれる。 …私の想いは強くなるばかりだ…)
「どうした?」
「ううん!ね、もうちょっとあっちに行ってみない?お花が綺麗だよ」
そう言い、は湖の淵を歩いていく。
「あまり行くと紫玉の影響が出るぞ」
そう言いながらカルトスも穏やかな表情で彼女について行った。
辺りは静かで鳥の鳴き声が微かに聞こえるくらいだ。
本当に今回、彼と一緒で良かったと思う。
城にいる時のカルトスはどこか追い詰められているような苦しげな表情をしている気がするのだ。
年齢で言えば、外の世界に沢山興味があって色んな事を試したり手を伸ばしてみたりしたい年頃だろう。
それなのに、彼は――
「この白いお花、可愛いね」
「そうだな」
はカルトスにプレゼントしようと、水際の花に手を伸ばした。
『ドクン』
瞬間、目の前の花が二重に見える。
そして次第に視界の色が消えて彼女の見える世界は白黒になっていく。
「……#$☆…」
カルトスの言葉も段々聞こえなくなっていった。
「、どうした?」
彼は必死に話しかけるがからは返事がない。
「…」
無言のまま、彼女はふらふらと東の洞窟の方へ向かう。
「!」
思わずカルトスはの腕を掴んだ。
すると振り向いた彼女はゆっくりと口を開く。
「…ランくんが…呼んでる」
はランの幻覚を見ていたのだ。
「ラン…?」
カルトスは顔もわからない男の名前に無性に焦りと苛立ちを覚えた。
「、ここにランなんていう男はいない!」
彼女の前に回り、両腕をしっかりと掴むカルトス。
今まで一緒にいた彼女が、一気に自分の手の届かない所へ行ってしまう気がして、必死に彼は彼女の名前を呼んだ。
「――俺を忘れたのか、…?」
何も反応のない彼女をカルトスは抱きしめる。
「…お前を渡したくない。 俺の傍にいてくれ。離れないでくれ…っ!」
『ドクン』
「……貴方は…カルトス…?」
の瞳が次第に光を取り戻してきた。
「そうだ、カルトスだ」
カルトスは自分の額を彼女の額と合わせた。
すると、すっと彼女の指が彼の頬に触れる。
「…悲しまないで……私の大切な…、大好きなひ…と――」
「!?」
そうしてはそのまま気を失ってしまった。
「――ん…」
(…なんだだろう…気持ち悪い)
目を開けるとそこは木陰だった。どうやら自分は寝かされているらしい。
大きな木に茂る葉の緑と、そこからの木漏れ日が綺麗だと思った。
「目を覚ましたか。よかった…」
ホッとした表情でカルトスが優しくの髪を撫でる。
「…私、どうかしたの?」
「覚えていないのか?」
「うん、全然。でも何か頭がクラクラして気持ち悪い…」
「そうか。もう少し休むといい。まだエドたちは戻ってきていないからな」
「うん、ありがとう」
そうしては目を瞑る。
「…妖しの力か。それともあれはお前の本心なのか…?」
カルトスは複雑な表情をしながら、再び眠りについた彼女の瞼に軽くキスをした。
*第7話の続きへ