「俺…か」
「うん!やっぱり戦いのプロに守ってもらいたいし」
「わかった。…宰相殿、ヤン殿、王を頼み申す」
「任せてください」
「王の事は任せよ」
「お願いいたします」
そうしてカルトスとエドワードとヤンは洞窟に向かった。
「…ごめんね。つき合わせちゃって。レノンさんの仕事はカルトスの護衛なのに」
「…王の決めた事だ。それに…」
「…何?」
(私がカルトスと同じくらい大切だって…言って…?)
はレノンを見つめるが彼は彼女からすっと目をそらした。
(…やっぱり無理、か)
分かっていた事だが、それでも少し切ない。
彼にとって意味がある存在は“王”と“王を守る自分”だけなのではないだろうかと思えてきたのだ。
自分はきっとその他大勢で、王の敵でなければさほど関心も抱かないような……と、
次第に後ろ向きな考えが浮かんできたので、これはいけないとは首を軽く振った。
「あ、向こうにお花が咲いてる。行こう、レノンさん!」
気分を変えようとは強引にレノンの手を引く。
「あまり向こうには行かない方がいい」
「少しくらい大丈夫だよ」
「…」
レノンはため息をつくがどこか楽しそうだ。もしかしたら自然が好きなのかもしれない。
そんなレノンを見て嬉しくなる。
しかしが水際の花に手を伸ばしたその時――
『ドクン』
頭の中を黒い霧のようなものが覆った。
「…シャルトリューさん…」
の見つめる水面にはシャルトリューが映っていた。
「…?」
レノンは突如様子を変えた彼女の方を静かに見つめている。
「すぐに行きますから…」
は立ち上がり洞窟の方へ走り出した。
「待て!?
どこに行く!」
レノンが慌てて彼女を追う。
「紫玉の影響か」
の前に立ち、彼は焦点の合わない彼女の瞳を見つめた。
「…シャルトリューさん…、どこ…?」
レノンに目もくれずキョロキョロしているに彼の表情は曇る。
「…そんなにシャルトリューとやらが良いのか」
そっと彼女の頬に触れた。
すると動きが止まる。
「…殿…」
『ドクン』
「…レノンさん…?」
次第にの目に輝きが戻り始めた。
「早くここから離れた方がいい」
レノンがの両肩を掴んで言い聞かせるが、彼女は未だにぽわっとどこか虚ろな表情をしている。
「レノンさん…」
「!?」
次の瞬間、はレノンの胸に顔を埋めた。
「…は、離れてくれ。――歩けないのなら…俺が抱える」
彼女の肩を持って自分の身体から少し離すと、顔を上げた彼女と目が合った。
「――レノンさんは、私の事…好き?」
「なっ…!?」
突然の彼女の言動にレノンは戸惑う。
そんな言葉を失った彼の服をキュッと掴むとは再び口を開いた。
「…私は――」
しかし言葉の途中で彼女は気を失う。
「…」
レノンはそんなをそっと抱えると、その場から離れた。
「――ん…」
(…なんだか…気持ち悪い)
目を開けるとそこは木陰だった。
どうやら寝かされている状態らしく、視界の中にある木の枝が風で揺れている。
「…大丈夫か」
声の方を見るとレノンがの手を握ってくれていた。
「私…、どうしたの?」
「…覚えていないのだな」
「うん。でも頭がクラクラする…」
「そうか。もう少し休め。王たちはまだ戻ってきていない」
「うん…」
何が起こったのかは分からないが、気分が優れないので再び眠る事にする。
「あ、レノンさん」
「何だ」
「…ずっと手、握っててくれたの?」
「…あぁ。迷惑か?」
「んーん。嬉しい。ありがとう」
ホッとしたようには微笑み、眠りにつく。
「…」
そんな彼女を見て、レノンは静かに微笑んだ。
*第7話の続きへ