「…酷いです、そんな言い方」
「え?悪気は全然ないよ。ほら、ピンチになったらヤンがいろんな機械出してくれそうだし面白そうだなって思って」
「…そんなに持ち歩いていませんから」
「…とにかく、この女の事はヤン、お前に任せる」
「はい」
「では、行ってくる。の事は任せたぞ」
「はい!」
そうしてカルトスとエドワードとレノンは洞窟に向かった。
「嬉しいです。さんと研究所と城以外で2人きりになれるなんて」
「ふ、2人きり…?」
(私もそんな気持ちが無きにしも非ずだったけど…意識されると照れちゃうじゃないの…!)
「あ、あっちに花がある。行ってみようよ」
恥ずかしさを隠す為、言い終わる前には走り出す。
「さん!そっちは駄目です!! もうここが限界点なんですよ!」
ヤンが止めるのも聞かずに、彼女は白い花が水際に生えている所までやってきた。
(あ、あの花、ヤンなら名前知ってるかな?
押し花にして持って帰って、今日の記念に栞でも作ろう)
そう思い、は水際の花に手を伸ばす。
『ドクン』
その時、目の前の花が白黒になり歪み始めた。
「さん…?」
花に手を伸ばしたまま静止している彼女の様子がいつもと違う事に気づき、ヤンは少しずつ近寄っていく。
「…ククル?そこにいるの?」
はボソリと呟きザブザブと湖の中に入っていく。
どうやらククルの幻覚が見えているらしい。
「待って! さん、正気に戻ってください!!」
ヤンも慌てて彼女を追い、湖の中に入る。
「ククル…!」
彼の幻像に向かって右手を伸ばすの左手をヤンが強く掴む。
「ククル・イッキの事をそんなに想ってるんですか!?」
ヤンの声が湖に響くが彼女の耳には届いていない様子だ。
掴まれた左手を振り払おうと必死で腕を振っている。
「私を…っ、私を見てください!」
ヤンは一歩踏み出すと、を強く抱きしめた。
腕の中の彼女はジタバタと抵抗するが、構わず腕に力を込める。
「…誰であろうと、貴女を渡すものか。神にだって…渡さない。
貴女を縛り上げても、ここから連れ出してみせます」
『ドクン』
「…ヤン…?」
次第にの身体から力が抜けていく。
「さん…」
ヤンはもう1度強くを抱きしめた後、彼女を抱え、湖から出て洞窟と反対の方向へ向かった。
「…ヤン…。どこ…?」
虚ろにヤンを呼ぶ彼女を見て彼の表情は穏やかになる。
「ちゃんとここにいますよ。っていうか貴女を運んでいます。
目が覚めたらちゃんと貴女にお返ししてもらわなきゃ、ですね」
聞こえないとわかっていながらもヤンはに向かって答える。
「…傍にいて…」
「言われなくても」
うわ言を呟く彼女に微笑んだ。
「…貴女が朦朧としている時に思い出してくれたのが私だという事が私をどんなに嬉しくさせるか、わかります?」
ヤンはそっとの額にキスをした。
「――ん…」
(…気持ち悪い)
目を開けると上下が逆になったヤンのアップがあった。
少し頭が冷たい気もするが、どうやら彼に膝枕をしてもらっているようである。
「具合はどうですか?」
「ちょっと頭がクラクラする…」
「そうですか。…自分がどうなったか覚えてます?」
「ううん、全然…」
「結構さんって大胆なんですね」
「え?」
「私を押し倒したんですよ〜」
「え…。っ嘘!?」
バッと起き上がろうとしたが、途端に眩暈のようなものがしたので
再びふにゃふにゃとヤンの膝の上に頭を下ろした。
そんな彼女の頭を彼がそっと撫でる。
「冗談です。錯乱して湖に飛び込んだんですよ」
「…え…。じゃあヤン、もしかして…」
「さ、もう少し眠ってください。顔色悪いですから」
「…うん」
は微笑み、瞼を閉じた。
「…複雑ですね。貴女の心にはククル・イッキと私がいる…」
複雑な表情でヤンはすやすや眠る彼女の頬にそっと触れるのだった。
*第7話の続きへ