「それが人に物を頼む態度か」
「いいじゃない。カルトスの護衛はレノンさんがいれば十分でしょ。
紫玉はヤンの方が専門だし。この場所ではエドワードは役立たずなのよ」
「人を愚弄してくれたな。…万死に値するぞ、貴様」
一瞬、2人の間にピリッとした沈黙が流れたが、くすっと笑うとカルトスが口を挟んだ。
「まぁ、それまでにせよ、エド。何があってもを守るのだ」
「…は。王もお気をつけて」
そうしてカルトスとレノンとヤンは洞窟へ向かった。
「…本当にお前はろくな事を言わない奴だ」
「だって本当の事だもん」
(…なんて、酷い事言っちゃったなぁとは思ってるのよ。 でも、2人きりになりたかった…なんて言えないし。
こんな事言ったら、エドワードは私の事を嫌いになるかもしれない……)
は俯きながら湖の淵を歩く。
「おい、むやみに歩き回るな」
エドワードがの肩を強く掴むと、彼女のポケットからナイフが零れ落ち、湖に沈んでいった。
「あ……もぉ、エドワードのせいだからね!」
実際はそこまで気にしていなかったが、何となく言葉が見つからなくて憎まれ口しか出てこなかった。
そんな自分に反省しつつは腕まくりをし、浅瀬に沈んだナイフに向かって手を伸ばす。
「おい、お前がそんな事しなくても私が…。 …聞いているのか?」
『ドクン』
急にの目の前のナイフが二重に見えた。
そして次第に視界の色が消えて目の前の世界が白黒になっていく。
ナイフを拾い上げると彼女はそれを見つめて固まっていた。
「どうした」
エドワードの声がの耳を通り抜けていく。
「レジェンス…ごめんね。助けられなくてごめんね」
目から涙が零れた。
「…お前、紫玉の影響で混乱しているのか」
レジェンスという名を聞き、エドワードの眉間に皺が深く刻まれた。
恐らく彼女は幻覚に似た症状を引き起こしているのだろう。
「お城から助け出したかった。なのに私…」
はおもむろにナイフの鞘を抜く。
「レジェンスに貰ったこのナイフでリンゴ剥いてあげたよね」
「何を考えている!?」
ブツブツと呟くと、彼女はそのナイフの先を自分の胸元に向けた。
「馬鹿者、やめないか!」
エドワードは慌ててナイフを取り上げる。
するとは何かに取り付かれたように彼に飛び掛った。
「何よっ、放して!約束が守れないなら私――」
「――死なせてたまるか。私の事も忘れたままで!」
エドワードはナイフを遠くに投げるとの両手を強く掴み、押し倒して馬乗りになる。
「…お前はそんなにあの王子の事を想っているのか?」
呟くような彼の声に彼女の動きは止まった。
『ドクン』
「…バラの…香り……?」
は静かに目を閉じる。
「…エドワード…?」
そうして眠るように気を失った。
「…全く、手のかかる奴め」
仕方なくエドワードはを抱きかかえ、先程投げたナイフを拾うと洞窟と反対方向に歩いていく。
「…エドワード…」
「何だ」
彼女の顔を見ると、すやすや眠っている。
「…寝言か。本当に色気のない女だ」
それでもエドワードはを起こさないようにゆっくりと歩を進める。
「…役立たずなんて言ってごめんね」
再び寝言を言う。
「2人きりになりたかったの…」
「っ!?」
驚き彼は歩を止める。
「……」
その後、木陰に腰を下ろし、自分の腕の中で穏やかに眠るの顔をエドワードはずっと眺めていた。
「――ん…」
(…う…なんだろう、気持ち悪い)
「起きたか」
「・・・わっ!? 何で私、あんたに抱きしめられてんの!?」
はエドワードの腕の中で目覚めた。
「お前が寝言で気持ちが悪いというから背中をさすってやっていたのだ」
「…寝言…?私、寝言なんて言ったの?」
「覚えていないのか」
「…うん。ナイフ落としたトコから記憶がない」
「そうか。…まだ顔色が悪い。王たちが帰ってくるまで寝ろ」
エドワードはの頭を自分の胸に押し付ける。
「…ん…」
ドキドキしながらも、彼のバラの香りに包まれると幸せな気持ちで再び眠りについた。
*第7話の続きへ