6.真相
―城―
「よし、綺麗になった!」
バーン国に来てから約1ヶ月。は城の中を掃除していた。
カルトスは客人として扱うと言ってくれたし、城の人たちとも仲良くなったが
さすがに何もせずに世話になるわけにもいかないので、
強引に召使いのするような仕事をさせてもらっているのだ。
「さて、この部屋も頑張って掃除しちゃうぞ!」
そう言ってドアを開けるとそこには重々しい台座があり、その上には青と黒、そして銀の宝玉が置かれていた。
「これ…伝説の宝玉…? …私が一緒にいた時、レジェンスが手に入れたのは朱玉1つ。
次のマジェスにもう1つあるって言ってたからもう1つ、手に入れてるって考えても、バーン国の方が一歩進んでる」
「…お前、レジェンスの連れだったのか」
突然後ろから声がしは驚いて振り向く。
するとそこにはカルトス、エドワード、レノン、ヤンの4人が立っていた。
「…うん。特に聞かれなかったから」
咄嗟に嘘をついた。
「…やはり向こうも宝玉を集めているのだな」
「うん。この大陸を守る為に…」
「…大体の事は知っているようですね」
「旅に同行させてもらう時、一通りの事は聞いたから」
彼らの深刻な表情や、低い声に、いつもとは違う一面を見た気がする。
「――まぁよい。お前のような奴にスパイのような真似はできないだろうからな」
「失礼ね!!」
「だが、後々役に立ちそうだ。お前を人質にすれば奴らは集めた宝玉を渡すだろう」
そんなエドワードの言葉には耳を疑った。
「…本気で言ってるの?」
「当たり前だ」
「バーン国の目的もアーク国と同じでしょ!? だったら協力すればいいじゃない!」
「…」
彼女の言葉を聞くと、全員の表情は曇った。
「――我らの目的はバーン国の繁栄だ」
「それって…。アーク国の人たちは見殺しにするって事!?」
「そうだ」
頭を酷く殴られたような衝撃がする。
(自分たちだけ良ければ、他はどうなってもいいの?そんなの…)
「…そんなの最低な人間のする事だよ!!」
「…」
はしゃくり上げて泣き始めた。
(そんなの、悲しすぎる。酷すぎるよ…!)
「…貴女はこの大陸の歴史を知らないから」
ヤンが俯いたまま口を開く。
「この国は、奴隷の作った国なのです」
「…奴隷…?」
はヤンやカルトスを見上げた。
「昔、この大陸にはアーク人とバーン人がいました。
アーク人がもともとこの大陸に住む原住民で、バーン人は違う大陸から移住してきたんです。
さらにアーク人は光の属性の魔力を持ち、バーン人は闇の属性の魔力を持っていました」
次にエドワードが口を開く。
「闇はどうやっても光には勝てない。
だからアーク人はバーン人を奴隷として従わせるようになった。
…何百年もな」
「…そんなに長い間、歴史は変わらなかったの?」
「そうだ。だが、王の祖先が科学に魔力を取り込む事に成功し、
バーン人はアーク人に対抗する力を手に入れ、アーク人に対して反乱を起こしたのだ。
そしてこの大陸にアーク国とバーン国の2つの国が生まれた」
「…」
「ですから、今も私たちの対立関係は続いているのです。
人の中の差別がなくならない限り」
「そんな…」
(バーン国がつらい思いをしてるのはわかったけど
でも、だからと言って復讐みたいに争いを繰り返したら永遠に終わらない気がする)
「、お前が平和を望み、両国が協力すればいいという考えは正しい。
…しかし、簡単には変わらない。それが国というものだ」カルトスは悲痛な表情をしている。
(…カルトスも…、苦しいんだ。それは痛いほどわかる…)
「バーン国だけ助かればいいとはどうしても思えないけど…」
「…」
「でも、私はバーン国の皆も好きだよ」
これが自分の真実だった。
アーク国で出会った人たちも、バーン国で出会った人たちも、皆優しくしてくれた。
皆、自分の国を愛していた。救おうとしていた。
そんな彼らを私は愛している。
「さん…」
「…変えようと思っても、行動に移さなきゃ何も変わらない。
私は運命だろうが、未来だろうが、自分の力で変えられるって信じてる」
「…」
「カルトスにはその力があるもの。
それに、人が強く思って努力すれば、願いは叶うはずだよ。 その為の魔法でしょ?」
「理想論だ」
「そんなの、わかってる! でも、私はこの世界の事、今は何にも知らない。
だから私にはこの世界の常識や決まりなんて当てはまらないわ!
私は自分の倫理観に基づいて行動するんだからっ!!」
彼女の迫力にエドワードですら固まっている。
「…そうだな。1人の人間として考えてみるとしよう。
世界を変えるほどの力を手に入れてその先に欲するものはどんなものか」
カルトスの表情が和らぐ。
「王はこの女に甘過ぎます」
「よいのだ。今まで、率直にこのような意見を言ってくれる者はいなかった。
正直言って俺は嬉しい」
「王…」
(ザマ見ろ、エドワード!)
は心の中でガッツポーズをしてみせる。
「そう言えば、伝説の事で新たにわかった事があるのです。
今日はその事を報告しに来たのですが、すっかり話がそれてしまいましたね」
そうしてヤンは持っていた本を開いた。
「この古文書には、“世界を変える力”は莫大なエネルギーを得る事ではなく、
“願いが1つだけ叶う事”だと書かれています」
「何だと!? では、具体的な願いでなければならないのか」
「そうです。しかも、1度願いが叶うと150年間、宝玉は力を封印されてしまうそうです」
「つまり、俺たちが生きている間に1度しか機会はないと…」
「そういう事になります」
「…」
バーン国が強大な力を持っても困るが願い事を1つだけというのも不安が走る。
(自分たちだけ助けてくれ、なんて言わないでしょうね…)
はエドワードを見る。
(こいつだけには絶対、願い事を言わせないんだから)
「私もついてく!! 宝玉全部集めて、願い事を叶えて貰う時!!」
「興味がおありなんですね」
「勿論よ!」
その状況になった時、エドワードが独断的な事を口走らないよう見張ろうと考えたのだ。
「邪魔をするでないぞ」
「心に留めておきます」
(約束はしないもんね!)
こうして、はバーン国の宝玉集めにもかかわる事になったのだった。
― の部屋―
「ひとまず丸く収まったけど…」
(いろんな事がわかったなぁ…)
「…お互い、自分の国が正義って思うんだよね。 自分の国が大好きなんだろうなぁ」
はベッドに足を投げ出して座り、天井を見上げた。
ククルはバーン国の人は自分の事しか考えないと言っていた。
ヤンはアーク人の中の差別意識がなくならない限り関係は変わらないと言った。
「私からしてみたら、どっちも同じ人間なんだけど。
…多分、当事者しかわからない事もあるんだろうなぁ」
こういう時、自分が情けなく思う。
この国の事も、アーク国の事も、この大陸の歴史も何も知らない。
「よし、勉強だ!!」
そう思い立ち、は城の図書室へ向かった。
―図書室―
「よっ…」
本を見つけて取ろうと手を伸ばすがちっとも届かない。
「ジャンプしても無理かなぁ…」
が腕を組みムムムと唸っていると、ひょいと突然手が現れてその本を取った。
*「あ、カルトス」
*「げ、エドワード」
*「レノンさん…」
*「ヤンじゃない」