「勉強か?熱心だな」

カルトスは本をに渡す。

「うん。私、この大陸の事、何も知らないから。 …カルトスも勉強?」
「そんな所だ。
 毎日政治を学んでいるのだがな、昨日まで読んでいた本を読み終わったので選びに来た」
「そうなんだー」
「では、俺はもう行くが…」
「私はまだ本読むね」
「そうか。ではな」

そうしてカルトスは図書室から出て行く。

「よし、読むぞ!!」

そうしては本を読み進めた。


『アークバーンの伝説』

それにはこう書かれていた。

8つの宝玉は己の為に光らず。
両国がひとつになる時、封印は放たれる。

「これって…自分の私利私欲の為に宝玉を集めても、願い事は叶わないって事なんじゃ…」

しかし考えすぎて頭が痛くなってきた。

「駄目だ、ちょっと気分転換!」

丁度、目の前の棚に面白そうな本があったのでそれを読む事にした。

「『forbidden love』かぁ…。 禁じられた恋…。ロマンチック!!」

そうしては物語の世界に引き込まれていった。



 「…?」
「…わっ!カルトス!!」

気がつくとカルトスが目の前にいた。
は慌てて涙を拭く。

「何を読んでいたのだ?」

「あ、これこれ」

そう言い、本を見せる。

「何だかすっごい切ないの、この話。
 ず〜っと昔。戦争中、敵国スパイと軍の大佐の娘が惹かれあって文通を続けるんだけど、
 とうとうヒロインの街にも戦火が広がるの。
 でもヒロインは、スパイの男にずっと待ってるって約束したから火の手が上がる街から逃げずに待ち続けて…」
「…最後はどうなるんだ?」
「ヒロインは家が爆撃された時に落ちてきた瓦礫に埋もれて死んでしまって、
 その亡骸を戦争がまだ終わっていないのに戻ってきたスパイが見つけるの。そこで、その時代のお話は終わりで。
 でもね、急に現代に時代が切り替わって、大学の入学式で生まれ変わった2人は出会うの。
 そしてそれから2人の新しい物語が始まるんだ」
「…そうか。幸せになれたのだな、その2人は」

心なしかカルトスの表情は暗い。

「うん。詳しくは書かれてないけどきっと幸せになれたと思う。 その為に生まれ変わったんだよ」

そうしては本を棚に戻す為に立ち上がった。

「カルトスは…恋とかする?」

ふと疑問に思った事を口に出す。しかし、次の瞬間しまったと思った。
カルトスの瞳から光が消えたからだ。

「…俺には簡単に口にしてはならない言葉がある」

そうして彼はから本を受け取り、本棚の1番上の段に本を戻す。

「あ、ありがとう」
「…
「ん
――

次の瞬間、はカルトスに後ろから抱きしめられ、そっと頬にキスをされた。

(な、何…!?)

思いがけない事が起こった為に、暫く硬直していると彼はゆっくりと口を開く。

「俺は大臣やエドに結婚相手を決められる。 俺には選択権はないのだ」

を放すとカルトスは顔を背けた。

「そんな…。 だってカルトスは王様である前に、1人の人間なのに…!」
「それほど王という役は重大で、民や国に対して責任があるのだ。
 それに…、生粋のバーン人は、年々減少している為、
 俺は王族としてバーン人の血筋を絶やしてはならない宿命にある」

その言葉にの心臓は鈍く痛む。

(…カルトスがバーン人の女の人と結婚する…)

「もし俺が、エドやレノン、ヤンの立場だったら……、お前を――――いや、何でもない」
「え…」

(…何?何を言おうとしたの…?)

続きがとても気になったが、彼の苦しそうな表情を見ては深く聞く事はできなかった。
そうして無言のままカルトスは図書室から出て行く。
その後姿を見送った後、 は彼にキスされた頬にそっと触れた。

(この胸のドキドキは…)

簡単に口にしてはいけない気持ち。

(カルトスが自分の立場上、自由に言えないように、私も相手がカルトスならそれは自由に言ってはいけない)

出来る事なら、この想いはここで止めてしまいたい。
“傍にいたい”という程度のままで。
それ以上になってしまったら、カルトスにそれを求めるようになってしまったら、カルトスが苦しむ事になるのだ。

「カルトス…。どうして王族に生まれたの…?」

は彼の運命を悲しく思わずにはいられなかった。




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