6.霧のカムイ


―カムイ―

 マジェスで緑玉を手に入れた17日後、海沿いの町、カムイに一行は辿り着いた。
カムイは濃い霧に包まれている神秘的な町で、マジェスに比べると住む人たちは比較的物静かであった。

「ここ、何だか静かだね」
「えぇ。ここは霞がかった神秘的な風土と相まって気質が穏やかな人が多いんです」
「そっか。確かに、少し白みがかって夢の中にいるみたいな雰囲気だし、
 こんな中で騒ごうとは思えないよねぇ…」

は周りをキョロキョロする。
町を歩く人たちは皆、奥ゆかしい雰囲気だ。

「私もこんな所で育ってたら、奥ゆかしい乙女になってたのかな」
「想像できねぇ…」

『バシっ!』

笑顔でククルを殴る

「いってぇ!? この暴力女!」
「なによ!」
「2人とも、目立ってますから勘弁してください!」
「あ、ごめん」
「あ、すまん」

ランに叱られ、2人は謝る。

「ははっ、ランに叱られるとはな。では、行くとするか」

そうしてレジェンスらは町の一番高い所にある屋敷へ向かった。


 「…これはこれはレジェンス王子にシャルトリューさん。お早いお着きでしたのねぇ」

屋敷の庭で花に水をやっていた年配の女性が笑顔でやって来る。

「明日に来られると思っておりましたもので出迎えもせず、申し訳ありませんでした」

そう言って深々と礼をする。

「いや、気にせずとも良い。…バーグの具合はどうだ?」
「最近調子がいいんですよ。王子がおいでになると聞いて嬉しいのでしょう」

そして夫人は部屋へ案内してくれた。

「アナタ、レジェンス様がいらっしゃいましたよ」

夫人がそう言うと、ベッドで寝ている年配の男性は起き上がると微笑んだ。

「おぉ…。これはこれはレジェンス様。
 ようこそいらっしゃいました。このような姿で失礼致します」
「よい。無理をするな」

レジェンスはバーグの隣に行き、そっと手を握る。

「私の仲間を紹介しよう。そなたの弟子のシャルトリューも一緒だ」

そう言ってたちに手招きする。

「お久しぶりです。お師匠様」
「おぉ、シャルか。立派になったの」
「いえ、まだまだですよ。さて、私はこのくらいにしましょう」

そう言い、シャルトリューがククルと位置を変わる。

「ククルです」

「ランといいます」
です」

そう言い、はバーグの手を握り挨拶をする。

「貴女の手は…温かいですね。春の太陽のようです」

そう言い、バーグは微笑んだ。

「貴女のような女性が旅するのは大変ではありませんか?」
「大変なのは皆さんなのかも。いつも助けられてばかりです」
「ほっほっほっ。…貴女からは無限の可能性を感じます。未来を切り開く強い意志を持っておられる」
「え…」

優しい表情をしつつも真剣な瞳でこちらを見つめる彼の言葉は、何故かズンと胸を突く。

「さぁさ、お茶に致しましょう」

一通り挨拶が済むと、夫人が呼びに来たのでレジェンスたちは場所を移動した。


 「そうそう、レジェンス様。レイラ姫からお手紙を預かっておりますのよ」
「レイラから?城に何かあったのだろうか」

そう言い、レジェンスは手渡された手紙の封を開く。

「親愛なるお兄様。 お元気ですか?
 お兄様がククルとシャルトリューとランを連れて行ったから、城は大人ばかりで私は毎日退屈です。
 早く戻ってきてください。お土産も忘れずに!     レイラ。
 ――相変わらずの妹だな」
「…妹さん、いたんだ」

文面から何となくお転婆でお茶目なイメージが膨らんでいく。

「王子とは正反対のじゃじゃ馬な姫さんでな、昔からいろいろイタズラに付き合わされたぜ」
「おかげでククルはいつも大臣に叱られていましたね」
「今でもククルさんはお姫様に頭が上がりませんもんね」
「うるせ」

はそんな会話を聞いて笑う。

「会ってみたいな、そのお姫様に」
「お前とあの姫様が一緒にいたら城が壊滅しちまうよ」
「お2人とも、好奇心旺盛ですからね」
「気が合いそうですし」
「騒がしくなりそうだな」


そんな話をしながら一行は楽しくお茶を頂いた。


 「では、そろそろ本題に入りましょうか」

バーグ夫人がゆっくりと箱を持ってくる。
そして箱を開けると、そこには黄色い玉、黄玉(こうぎょく)が納められていた。

黄玉。

「これで私たちの肩の荷もおりますわ」
「今まで管理してくれた事、感謝する」
「勿体無いお言葉です。
 さぁ、今日はこの町一番の宿を手配しております。今夜はそこでお休みください」
「ありがとうございます」

そうして5人はバーグ家を後にし、宿へと向かった。


 「さてと、夕食も食べたし、でも、まだ寝るのには早いし。

 誰かとお話でもしようかな…」


レジェンスと

ククルと

シャルトリューと

ランと