『コンコン』
はランの部屋のドアをノックする。
「あれ?、どうしたの?」
「少しお話しない?」
「うん。いいよ。折角だし外に行く?」
「うん!」
2人は宿の周りを歩く事にした。
「この町って神秘的だよね」
「うん。何か朝になったら跡形もなく消えてそうじゃない?」
「あは、そうかも」
2人は公園のベンチに座って話す。
「ここ、シャルトリューさんの故郷なんだよ」
「そうなんだ!確かに、シャルトリューさんはこの町によく似合ってるし、雰囲気とか合ってる」
「うん。…いいよね、故郷って。
シャルトリューさんの家族はもう城下町に引っ越してるからいないけど、
お師匠さんのバーグさんもいるし、いろんな思い出もあるんだろうな」
そう言うランの表情は少し寂しげだ。
「…そういえば、ランくんの故郷は?」
「ボクが生まれたのはアーク城の城下町。
でも…、ボクの祖先の故郷は…よく分かんないや。 昔から各地を転々としてたらしいから」
「そうなんだ…」
(…悪い事、聞いちゃったかな)
そして2人の間に少しの沈黙が流れる。
「…でもね、祖父の代からホーリー家に仕える事になって初めてちゃんとした家ができたんだ」
「…」
「それでも結局、行商して回るから時々しか帰ってないんだけど。
だけど、やっぱり帰る場所があるのはいいものだね」
「…うん」
は自分の事と重ねる。
(私も…家があるんだよね。この世界のどこかに…)
「…も、いつかは自分の家に帰るんだよね」
「…そうだね」
「寂しいけど…、仕方ないよね。きっと君を待ってる人もいるだろうし」
「そうだといいけど…」
消えた記憶の中の家族や友達の事を思い、彼女は少し不安になる。
(ホントにそんな人、いるのかな…)
「でも、正直に言うとね。ボクはにずっと傍にいてもらいたい」
「え…」
彼の言葉に、瞬間胸がときめいた。
「…ご、ごめん。何か変な事言っちゃった」
ランは顔を赤らめて彼女から目をそらす。
(…傍にっていうのは、仲間として?それとも…)
はマジェスの夜の事を思い出した。
(私は…ランくんにとって特別だって期待してもいいの…?)
「…そろそろ戻ろっか?」
彼が立ち上がろうとするがは咄嗟にその手を掴んだ。
「あ…」
「え…?」
「…もう少しだけ、一緒にいてくれない?」
「…うん」
ランは微笑みの隣に再び座る。
そして2人は暫く何も話さずに手を繋いでベンチに腰掛けていた。
沈黙だったけれど、2人は温かい気持ちで溢れていた。
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