『コンコン』
はククルの部屋のドアをノックする。
「…か。どうしたんだよ」
「話でも、と思って。 ……っていうか、何してんの?」
「ん?ま、まぁちょっとな」
部屋に入ると彼は何かを後ろに隠した。
(怪しい…)
「何隠したの?」
「何も隠してねーって!」
(ますます怪しい…)
はムムムと考えを巡らし、ピピっと閃く。
「ねぇ…、ククル。――お願いがあるの」
「ん、何だ?」
「さっき転んじゃって、痛いんだけど診てくれない?」
そう言い、スカートの裾をキワドイ所まで捲くりあげた。
(どうだ、お色気作戦!)
「んなっ!? お、おいっ!?」
見事にククルはその作戦にはまり、動揺しまくっている。
(今だっ!)
「隙ありっ!」
そう言い、は彼から何かを取り上げる。
「お前っ!? こら、返せ!!」
「隠すなんて怪しいのよ」
そう言ってククルの手をかわしてそのブツを見ると、それは手紙だった。
「…これ、お姫様からの?」
「…そうだよ」
その手紙はレイラからククルに宛てた物だった。
(…そういう関係…って事?)
途端にの胸は締め付けられる。
「その姫さんは好奇心旺盛でな、人から聞いた噂とか新しい情報とかが入ると
いちいち俺に言わなきゃ気が済まないんだよ」
「…言い訳?」
「ホントの事だっつーの」
「お姫様が好きなら好きってはっきり言えばいいじゃない!」
「…は?んなわけないだろ!何言ってんだ?お前」
ヒートアップするに対して、ククルはケロリとしている。
「…嫉妬してんのか?」
「じょ、冗談言わないでよ!誰がククルなんかに!!」
核心を突かれたような気がして、慌てて背を向けた。
「“なんか”って何だよ!?」
部屋から出ようとしたの腕をククルが掴むが、その手を急いで振り払う。
「――何よ、この前キスしようとしたくせに!!」
「お前、断らなかっただろ!?」
「突然の事で固まっちゃっただけよ!」
「だったら事前に言えばいいのかよ!?」
「そういう問題じゃないの!!
ホントに、ククルってばどうしてこう、ムードのかけらもないわけ!?
荒々しいし、強引だしっ、少しは紳士のレジェンスを見習ったらどう!?」
『プチ』
ククルの中で何かが切れた音が聞こえたような気がした。
彼の顔がピクっと固まったからだ。
しかしその後、ククルは俯いて黙ってしまう。
「…」
(…もしや…キレた…?ど、どうしよう。
さすがに私じゃ腕っ節の強いククルに勝てるわけないし。に、逃げた方が良い…?)
今までの怒りの勢いが一気に吹っ飛び、冷や汗がどっと出てきた。
「…じゃあ、そろそろ…部屋、戻るね」
は恐る恐る後ずさる。
「…待てよ」
(ヒィッ!?)
ガシリと腕を掴まれてビクリと身体を震わせた。
「…」
いつもより優しい声色のククルに思いがけずは驚く。
「…さっきは怒鳴ったりしてすまない」
「!?」
(何!? 何なの!?)
「あ…、うん。べ、別に…」
突然のよく分からないこの状況に戸惑う。
「お前の前だと、何か調子が狂うんだ」
「え…」
「俺、お前の事…」
『ドキッ!』
真剣な表情の彼にの心臓は大きく鼓動する。
(べ、別に好きって言われた訳じゃないんだから落ち着けっ、私!)
しかし、そんな彼女の動悸の激しさに拍車をかけるようにククルは口を開く。
「…は俺の事どう想ってる?」
の頬に手を伸ばすククル。
「ど、どうって…」
彼の視線が堪らず顔をそらすが…。
「ちゃんと俺を見ろよ」
そう言いククルはの左右の頬を押さえ自分の顔の方を向かせた。
そしてあの祭の時のように顔が次第に近づいてくる。
(え!? え!? え!?そ、そんな事されたら、そんなにアップで迫られたら、私…っ!)
「…ばーか。何泣きそうな顔してんだよ」
(え…?)
「どうだ?ムードあっただろ?」
ククルはいつもの調子に戻っていた。
(こ、こいつ…っ!)
「お芝居だったのね!? さいってー!!」
は彼に平手打ちを食らわせようとするが、手首を掴まれて未遂に終わる。
「だってお前が――!?」
ククルは彼女を見て驚いた。
涙をボロボロと零していたのだ。
「…ククルなんて大嫌いっ!」
(人の気持ちも知らないでっ!!)
「お、おいっ…!?」
戸惑うククルを残し、は走ってククルの部屋から出て行った。
(悔しい、何か私ばっかりドキドキして…!)
『コンコン』
「はーい?…あ…」
「…よぉ」
先程言い合いをして別れたククルがの部屋を訪れた。
「…」
「…」
2人ともお互いの顔を見れずに戸口に立ち尽くす。
「…どうか、した?」
「…いや、別に」
「…らしくないわね。ククルがモゴモゴ喋るなんて」
ついこんなツンツンした言葉が出てしまう。
(…私の馬鹿馬鹿。
わざわざ会いに来てくれて嬉しいって素直に言えばまだ可愛げがあるっていうのに…)
「…ごめん」
「…え?」
ククルの突然の謝罪には驚く。
「お前を傷つけるつもりはなかった」
「…」
「…それだけ」
「…うん」
「じゃ」
「うん…」
そう言ってククルは静かに背中を向ける。
もそれ以上、彼を引き止める話題がなかったのでそっと扉を閉めた。
「――」
「?」
が扉に背を向けたとき、向こう側からククルの声が聞こえた。
「次はムードがあってもなくても止めないからな」
「…え…」
思わず近づくククルの顔を思い出して赤面する。
「おやすみ」
「お……おや…す…み…」
彼の足音が次第に小さくなるのとは反対に、胸の鼓動が大きくなっていく。
「ちょ、ちょっと…ど、どういう事!?」
はこの状況を理解しきれず、ヘナヘナと扉の前に座り込んだ。
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