不器用な彼女 最終話




 いつもと変らぬ日常、いつもと変わらぬ友人たち――そんな風に意識しないからこその“いつも”なのだと美景は実感している。
何故ならいつもと同じようでいて、いつもとはどこか違う気がしながらここ数日、過ごしている為である。

夏香、緑、匡の3人の態度に微かな違和感を抱き始めたのは、夏香の誕生日会の翌日からだった。
それでも、集まって学食で食事をする時などは普段と変わりなく楽しくお喋りをしながら笑いが溢れる関係のままだし、
自分が違和感を感じるだけで、誰かと誰かがギクシャクしているというわけでもない。
ただ自分の中で何となくいつもとは違うような気がするだけだ。
そんな変化を感じているのは恐らく自分だけだろうと美景は思っているし、もしかすると違和感を出しているのは自分かもしれないとも思っている。
誕生日会の夜というよりも明け方だったが、あの日、幹にこれまで聞きたかったことを全て直接ぶつけ、
尚且つ彼は真っ直ぐそれに答えてくれたことで、美景の心にあった不安や心配の塊でできたゴミ山のような存在が綺麗に片付いたような気がしたのと、
漸く中学時代の彼と自分を痛みなく思い返せるようになった為に、限りなく爽快な気持ちで日々を過ごせているのだ。
そんな心の軽さが態度にも表れているかもしれない。
友人らにとってはそんな美景自身が不思議に見える、ということもあるだろう。

「――というわけなんだ。春日は何か気付いたことはないか?」

英語の予習で分からないところがあった為に部屋に来ていた幹に茶を出しながら
美景はここ数日考えていたことを第三者である幹に尋ねた。

「うーん、俺はお前みたいに毎日会ってるわけでもないしなぁ。
 ……でもまぁ、そう言われるとどっかいつもと違うような気がしてくる」

そうして幹はうーんと言いながら腕を伸ばして首をコキコキと鳴らした後、腕を組んで首を傾けた。

「――考えられるとすれば、あのグループの中の誰かと誰かが喧嘩したとか、
 もしくはその逆で付き合い始めた、とか……かな」
「なるほど……。だがピリピリとした空気は感じないがな。寧ろ皆、優しくなったというか」

自分で持って来た茶を手に取って手の中でぐるぐると軽く回し水面を揺らしながら美景は友人らのことを考える。
腕を組み、胡坐をかいて座り首を垂らして物思いにふけっている目の前の幹が何だか土偶のように思えて、
美景は口元を隠すように百円均一で買った大きめのマグカップを口に着けたままクスッと笑った。

「もしかして誰か付き合ってんじゃない? 理由はわかんないけど公にしたくなくて隠してるからどっか下手に出ちゃう、みたいな」
「うーん……あながち有り得ないことじゃないな。しかし、それでは確実に夏香が誰かと付き合っていることになる」
「あー……。
 ――実は俺、観月さんと付き合ってるんだ」
「……」

チラッと顔を見た後、美景は首を振った。

「――本当だったら申し訳ないが、お前たちが付き合うなんて有り得ないと思う」
「うーん、さすがにこんな嘘だと人の良いお前でも気付くかぁ」

幹は残念そうに肩をすぼめている。
まったく、いつも人をおちょくって楽しむのだから……と美景は呆れて脱力した。

「でも、ホントに皆から何か聞いてないの?」
「全く聞いていない」
「「うーん……」」

二人の唸り声はシンクロし、部屋に響く。


 幹が帰った後、美景は夕食の用意をしながらまたしても友人らのことを思い浮かべていた。
本当に、どうして幹以外のメンバーはいつもと違うのだろうと考えつつ、美景は特に気になる人物を思い浮かべる。


「高田くんからピリピリした空気を感じることがあるけど、何かあったのかな……」

「匡がやけに肩に力が入ってる感じなんだよな……」

「最近、夏香が大人しい気がするんだが……」