ナヲミが消えて三日目の朝が来た。
今抱えている仕事は後回しにして今日は朝からナヲミを探しに行くと決めたは、
主任であるミュウと、打ち合わせをする予定であったミカサにメッセージを送ろうとする。
しかし、携帯端末を操作するの手は止まった。
ミカサの連絡先もこれまでやり取りしたメッセージや通話の履歴も全て消えているのだ。
自分が気づかぬうちにおかしな操作をして消してしまったのだろうかとは一瞬考えはしたが、
ミカサのものだけ綺麗に消してしまうなんて無意識に誤ってしてしまえるものではない。
これはおかしい、と思うと同時に、昨日のミカサとミュウのやり取りを思い出す。
もしかしてミュウに「必要ない」と言われた為に、ミカサが怒ってそのまま研究所を辞めて
出て行ってしまったのではないだろうかとは考え、急いで四階のミカサの部屋へ向かう。
するとミカサがいる筈のブースは空っぽで、彼が使用していたコンピュータも商品の模型なども全てなかった。
使用する人がいなくなったから片づけたというよりも、そもそもそんなものは最初からなかったようにも思える。
手前の共有スペースの壁に貼り付けられたディスプレイの行動予定表にもミカサの名前は見当たらない。
本当に彼は昨日付けで退職してしまったのかもしれない、とは不安な気持ちに襲われる。
そうだ、ミュウなら何か知っているかもしれない、と思ったは反射的に彼のブースへ走った。
ノックと同時に衝立の横をすり抜ける。
「ミュウ!ミカサを知りませんか?
私の携帯端末から情報が全部消えているし、部屋にも行ってみたのですが荷物も何もなくて」
息を切らせながらも詰め寄るにミュウは涼しい顔で振り返った。
そして「ああ、そんなこと」とこともなげに言うのだ。
「ミカサはもういないよ」
「どういうことですか?」
「遠くに行っちゃったよ。
…もうここには戻らない。二度とミカサには会えないと思うよ」
ミュウがいつもの無邪気な顔でそんなことを言うのでは鳥肌が立つ思いだった。
これまであんなに仲良く大切にしていた弟が急にいなくなったのに何故、ミュウは嬉しそうに笑っているのか。
最適な答えが見つけ出せないは、ナヲミがいなくなったことで混乱し、
ミュウの精神状態がおかしくなってしまったのかもしれない、と考えることにした。
そうでなければ悲しすぎる。
「――。君、今日は朝からナヲミを捜すんだって?
忙しいだろうに、疲れが溜まってるんじゃない?大丈夫?」
俯いたにミュウは近づき、両手で彼女の腕を掴んで顔を覗き込んだ。
その姿は純粋に心配しているように見える。
「…私のことなんてどうでも。
それよりも早くナヲミさんを見つけないと。
ミカサのことだって――」
「確かに彼女のことも心配だけど、君も無理しないでね。
に何かあったら困る…」
そう言ってミュウは少し寂しげな表情を浮かべての頬にそっと触れた。
は彼の気持ちが全く分からなかった。
ミュウは何がしたいのか、何を求めているのか、何を知っているのか。
昨日ミカサが必死に叫んでいたことは何だったのだろうか…。
……そもそも、ミカサとは誰だ?
ミュウが頬を撫でるたびに思考が鈍くなっていく。
*それでもは、ナヲミを見つけ出せばミュウを幸せにできるという希望だけは捨てなかった。
*次第にはミュウが自分を見つめてくれることに喜びを感じ始めた。
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