期限内に納品を終わらせ、文字通り一仕事終わったはステートを“移動中”に変更して三階の食堂へ向かう。
食堂には注文したものをその場で食べる十分なスペースと、弁当やパンを売る売店がある。
また隅の方には電磁調理器やポットが置いてあり持参したものを調理することも可能で、
糸がピンと張りつめたような静かな職場で唯一和やかな雰囲気のある空間だ。
部屋の中央付近のテーブルには数人の女性が座って話をしている。
医療部門は研究部門や開発部門とは違い規定で昼休みの時間が定められているので、恐らくそこに所属する者たちだろう。
もしかすると、前にミカサの持っていたデータカードの出席票の中に名前が書かれていた人物もその中にいるかもしれない。
しかし、基本部屋に閉じこもりミュウとミカサとしか関わっていないには彼女らの顔は見覚えがなかった。
仕事の依頼はシステムエンジニアのミュウ経由で回ってくるし、
仕上がったプログラムもミュウが最終的にチェックするのでそこから先も彼に任せている。
勿論、依頼者とは要望や意見等仕事に関することをメールでやり取りするけれども顔を合わせて対話をすることはない。
我ながらもう少し社会性を身につけた方がいいだろうと思うが、現在の仕事を進める上ではあまり必要性を感じないことも事実だった。
それでも、いい加減に医療部門の外科部長の名前や総合受付の女性の名前くらい覚えなければ、と
肩書きばかりが先行して人の名前を覚えない自分には呆れた。
「いらっしゃい、ちゃん。今日はどうするんだい?」
「こんにちは。今日も同じものでお願いします」
名を知らない売店の女性は「同じもの食べてると栄養が偏るよ」と彼女に忠告し、
は「はい、すみません。気をつけます」と言いながら携帯端末をレジスターにかざして商品を受け取った。
このやりとりはほぼ毎日繰り返されている。
時々、変更することもあるのだがサンドイッチは片手で食べられるので文字通り仕事の片手間で食事を済ますことができ合理的なのであった。
それにあの女性もが今日も同じものを注文すると分かっていて、
の姿が見えるとその時一番新鮮なサンドイッチと野菜ジュースを見定めて注文が入ったと同時にそれを袋へ詰めているのだから、
彼女の忠告からの受け答えまでがもう挨拶の一部と言っていいだろう。
「あ、そういえばちゃん。悪いんだけど頼まれてくれないかい?」
「はい、何でしょう」
「さっきお弁当を買って行ったお客さんが忘れ物してってね。
ほら、ちゃんと仲がいい……」
*「ミュウですか?」
*「ミカサですか?」
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