ナヲミ――
 容姿や仕草、声までもナナミによく似た21歳の女性。
 身内はいないようで、医療手当を申請して入院している。
 治療の難しい病気を患っているが、明るく振舞う健気で可愛らしい人だ。

 ナヲミはナナミとは違う。分かっている筈なのには嬉しかった。
ナヲミが笑いかける度にナナミが生きていればあんな風に魅力的な女性になっていただろうと思う。
 ミュウもそう思っているに違いない。何故なら彼が急に医学の勉強を始めたからだ。
ナナミと同じ顔のナヲミまで失いたくないと思ったのだろう。彼はこれまで以上に必死だった。
 一方、ナヲミと会ってもナナミの記憶が戻らなかったミカサはと一緒の時以外は彼女に近づこうとはしない。
失った記憶を何らかのきっかけで取り戻すのが怖いのか、それとも赤の他人と急に親しくするのが苦手なのか、
はたまたそのどちらでもなくただ興味がないのかもしれないが、には分からなかった。
 はナヲミがナナミに似ていようがいまいが関係なく自分を頼って来たナヲミを救いたいと思っている。
それがミュウの新しい願いなら尚更だ。
 自分に人間としての息吹を注いでくれたミュウとミカサ、そしてナナミにはどんなに礼を言っても足りはしない。
は彼らの役に立つことが自分の生きる意味だとも思っている。

「…、どうかした? もしかして忙しいのに来てくれたの?」

 ナヲミが心配そうにを見上げている。
は頬の力を抜いて首を振った。

「いえ、大丈夫です。適度に休憩を入れるようにしていますし、今は休憩中ですから」
「それならいいけど。私のせいで貴女が倒れでもしたら大変だもの」
「ありがとうございます。貴女は自分よりも人を優先して気遣う方なのですね。尊敬します」

そう言うとナヲミは驚いたように目を丸くし、そして笑った。

「そんなことないよ。には特にお世話になってるし」
「私は特には……。
 あ、もうこんな時間です。貴女とお喋りするのは楽しいですが、そろそろ休んだ方が」
「そうね、じゃあ休ませてもらうわ。また遊びに来てね」
「はい、また来ます」

 ナヲミに手を添えて介助し彼女が横になったことを確認するとは頭を軽く下げて病室を出る。
喋り疲れたのかもしれない、ドアが閉まる時にはナヲミは目を閉じていた。
はリハビリのつもりだったけれど彼女の負担になるのならば頻繁な面会は控えた方がいいかもしれないと考える。
 ステートを変更するついでに時間を確認すると時間は13時半だった。
研究所では13時から14時までが既定の休憩時間である。
しかし、開発部門や研究部門の人間にはあまり関係なく、基本的にその部門に所属する者は仕事の区切りがついた時に休憩を取っているし、
それをいいことにぶっ続けで仕事に没頭するミュウやミカサのような者もいる。
 は健康面と仕事の効率の面から休憩時間を守るようにしており、時々ミュウやミカサを休ませる為に顔を出すようにしていた。
ステートを確認してみると、案の定その二人は仕事を続けているようである。
仕方のない兄弟だと思いながらは自動販売機に立ち寄り、携帯端末をかざす。


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