恋人最後の日だと思っていた日は、本当の交際最初の日となり、翌日から学校が始まった。
しかしながらもう一日様子を見た方がいいと母親に心配された為に私は一日遅れで新学期を開始することになったが。
久しぶりにシオの顔を見た私は事の次第を包み隠さず彼女に話すことにした。
私の遺伝情報コンプレックスもブリズナー兄弟とのことも。
軽蔑されるかもしれないと不安ではあったが、シオには全て話してしまいたかった。
私の心の中だけに留めておくのはとてもつらかったのだ。
だから嫌われても呆れられてもシオに知っていてほしかった。
――全てを話した後、シオは私を叩いた。拳でぽかぽかと子どものように。
そして私の為に泣き、もっと早く話して欲しかったと漏らした。
もし話してくれていたら私に危ない遊びなんかさせなかったし、私が望むなら一緒に父親の情報を調べようとしたのに、と。
私は泣きながら笑った。申し訳なくて、でも、幸せで。
顔を歪めておかしな表情をしている私を見たシオは吹き出すように笑う。
そんな彼女をありがたい存在だと思った。
昼休みに中庭のベンチで待ち合わせをしていたルゥにシオとのやり取りを話すと、
彼は私の気持ちを察したのか「良かったな」と頭を軽く叩いた。それが心地よくて私はそっと彼の手を握る。
ルゥは言葉通り、私の企みについて他の兄弟らには話さなかったそうだ。
そして昨日一日、サンディも含むこれまで付き合ってた女子たちにきっちりと謝罪して回ったらしい。
殴られたり罵られたりしたそうだが、それも全て私の為にしてくれたことだということは分かっていた。
これまでとは違い特別な存在となる私を見て女子らを不快にさせないように、
そしてそんな彼女らから私が嫌がらせをされないように、と慮ってくれたのだ。
そんな実直なルゥに私も最後の秘密を話すことにした。
自分の出生の経緯と、それに因る恋愛恐怖症を。
全てを知ったルゥは私の顔を両手で優しく包み、額にキスを落とした。
そして優しい表情で私を見つめて頭を撫でるとすぐに携帯端末で彼の父親に連絡を入れて、
これまでに大学病院や民間企業で精子提供をしたことはないか、そして私の母の名前を挙げて性的な関わりはないか尋ねた。
答えは全てNOだったようで、私はほっとすると同時にルゥがストレートに精子だの過去の交際だのという話題を父親に投げかけたことに驚く。
それを言うと他の兄弟は会話はしないが、ルゥは結構父親と突っ込んだ話をするのだそうだ。
三つ子ではあるが一応ブリズナー家の長男というのも関係しているらしく、仕事や家族のことについて昔から会話することが多いらしい。
「とりあえず父親の話ではと血縁関係はなさそうだが、念の為に遺伝情報データベースで照合してみるか?」
「いいえ、いいわ。貴方のお父様を信じる」
私たちは微笑み合う。
ルゥの懇願を聞き入れた私はこれから先もずっと彼の傍にいるつもりだ。
――けれど、一つだけ気になることがある。
私は不安を抱きながらも、放課後にシオと彼女の友人三人娘をエクレールのカフェに誘った。
かつてルゥと付き合って一方的に振られたサンディは未だに彼を想っているかもしれない。
もしそうならルゥがしたように私も彼女に心から謝らなければならないと思ったのだ。
けれどサンディは「寧ろよくやった」とご機嫌に笑って見せた。
ルゥを本気にさせてこれまでのことを後悔させたのは凄いことだと目を輝かせ、
そして「今度は他の兄弟らを狙ってみようかな」などと冗談を言い、イーリスとアルミナも「私たちも」なんて同意する。
これまで距離を置いていたのは私なのに実に身勝手な話だが、なんだか三人娘とも良い友人になれそうな気がしてきた。
今の私にはもう何も怖いものはない。
これまで味気なく感じていた日常的世界がとても明るく希望に満ちたものに感じられた。
-THE END-
久しぶり(?)の新作です!ネープル帝国が舞台の話はこれが初…ですかね?
共感型ヒロインが多い拙宅では珍しいドライ派ヒロインです。
この話に出てくる遊び人の三つ子のネタは学生時代からあったのですが、
遊び感覚で付き合う男を果たして皆様は好きになれるのだろうか?と思い、長い間寝かせていたネタだったりします。
ちなみに、その段階でのヒロインの設定(口調)とヒロインの友人の設定は
『不器用な彼女』のヒロインと夏香に既に流用していました。三つ子の話はもう書きそうにないなと思っていたので^^;
とはいえその時点でもヒロインの性格は全然違ってましたが。
最近になって急にこの三つ子の話を書く気になったのは、ある番組で
「パートナーはいないが妊娠を希望する女性がネットで無料精子提供している男性と会って精子をもらい、
女性が注射器で膣に注入して妊娠する、という状況が増えてきている」
というのを見たからです。
(その時はまだ事実婚では体外受精が認められなかったのでこういう手段に頼る女性が多かったのでしょうが、
現時点では減っているかもしれません)
その問題点として、番組では相手が病気を持っている可能性や、生まれた子どもの知る権利にこたえられない、などをあげていたのですが
私はそれよりもまず先に「それって子ども世代になったら、街中に自分の知らないきょうだいがいる状況にならない?」と思ったのでした。
そこでその時に抱いた恐怖というか不安感を今回のヒロインさんに負ってもらいました。
なので父親の情報が分からない恐怖を前面に出したかったので、色々と荒のある世界観というか強引な設定になっております(;´▽`A``
そしてそんな背景を持つヒロインはゲーム中毒者になり自分の世界に閉じこもっているわけですが、
同じくらいゲーム好きな攻略対象とゲームするうちに、心を開放して人を好きになれたらいいな、という思いから
遊び人の三つ子のネタを思い出したのでした。
さて、ルゥについてですが、ヒロインも言っている通り分析が難しかった…。
家族関係に悩みコンプレックスを抱えるハリソンとレナードに同情しており、彼らを大切に思っています。
浮気した父親は許せないけれど関係を断つと完全に叔母に奪われて母親が悲しむことになるので家族を続けています。
大切なものは誰にも奪われたくないと思っていて、自分の世界をとても大切にしています。
同じように確固とした自分の世界を持っている人間は彼にとっては同志です。
今回は心のまま妄想を吐きだすように一気に書きあげたので、かなり展開を端折ってはおりますが
楽しんでいただけたら幸いです。
ルゥを許し、愛してくださったお客様、ありがとうございました!
裕(2014.7.30)
追記(2014.8.24):読み返してみたらルゥとレナードの最終日を一日間違えていました(;一_一)すみません。
とりあえずルゥは強引に一日ずらしてみました。レナードはそのままです。
・ハリソン最終話も読んでみる
・レナード最終話も読んでみる
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