恋人最後の日だと思っていた日は、本当の交際最初の日となり、翌々日から学校が始まった。
新学期となり久しぶりにシオの顔を見た私は事の次第を包み隠さず彼女に話すことにした。
私の遺伝情報コンプレックスもブリズナー兄弟とのことも。
 軽蔑されるかもしれないと不安ではあったが、シオには全て話してしまいたかった。
私の心の中だけに留めておくのはとてもつらかったのだ。
だから嫌われても呆れられてもシオに知っていてほしかった。
 ――全てを話した後、シオは私を叩いた。拳でぽかぽかと子どものように。
そして私の為に泣き、もっと早く話して欲しかったと漏らした。
もし話してくれていたら私に危ない遊びなんかさせなかったし、私が望むなら一緒に父親の情報を調べようとしたのに、と。
 私は泣きながら笑った。そんな私にシオは綺麗なハンカチを渡してくれた。
そのハンカチには何故か私のイニシャルが刺繍されていた。
彼女は夏休みの間、手芸教室に通い刺繍の仕方やレース編みの方法を学んだのだそうだ。
というのも今年の冬には妹が生まれるのだそうだ。歳が離れている分、凄く楽しみにしているらしい。
そして彼女へプレゼントする前の練習として私用にハンカチを刺繍してくれたのだ。
もっと上手になったらまたプレゼントするから、とシオは恥ずかしがっていたが私は十分上手だと思ったし、
何よりも夏休み中に私のことを思い出してくれたことが嬉しかった。

 一方、レナードとは…正直顔を合わせづらかった。
何故ならあの後、キスのもっと先まで進展してしまい、翌日もずっとだらだらとベッドの上で過ごしてしまったからだ。
柵がなくなった途端、弾けるように相手を求めるなんて我ながら若気の至りだなと思うが、
これからはもう少し節度を持って交際しようと思っている。
…と、会いに来たレナードに言うと口を尖らせブーイングしていた。
 そういえば、私の企てたゲームについてレナードが他の兄弟らに話したところ「流石ちゃんだ」と呆れられたらしい。
自分らのルールを見破られたことに対してなのか、それとも自分らでゲームをしていたことに対してなのかは不明だが、
それでもそんな私ならレナードにお似合いだと口を揃えて言われたとのことだ。
私はどんなふうに思われているのだろう。
とはいえ、彼らが騙していた私に怒りも向けずレナードとの交際を受け入れてくれたことに感謝している。

「…ねえ、レナード。
 私がこれから先、嫉妬したら嫌いになる?」
「うーん、そうだな…」

 私たちは昼食を食べようと屋上に来ていた。
私が作った弁当の蓋をレナードが嬉しそうに開ける。

「…私、昨日貴方に指を触られたりキスされた時、ふと他の人にも同じようなことをしてたのかなって思ったの」
「ほう」
「その時凄く胸が苦しかった。これはれっきとした嫉妬でしょう?
 貴方の行動を邪推することは今でもないけど、でも、私にも嫉妬心はあるの。
 ――こんな私、嫌いになる?」
「いいや、君の嫉妬する顔は可愛いからいいよ」

 そう言うとレナードは唇を重ねた。そして「いただき」と微笑む。私も笑って彼の頬にキスをする。
そんな姿を教室にいたシオに見られていたようで「ばっちり見えてるから!あんたら個人個人でも注目されてるんだから尚更気を付けなさいよ」と
携帯端末にメッセージが送られてきた。
 そのことをレナードに話すと、彼はにやっと笑って自分の弁当箱のおかずを私に突き付けてくる。
どうやらわざとシオに「あーん」としているところを見せ付けたいらしい。

「レナードは結構幼いところがあるのね」
「男は基本、皆子どもだよ。好きな子の前だと特にね。
 …というわけで、僕にも食べさせて」
「分かった」

 苦笑しながら私は彼のリクエストに応え、きんぴらごぼうを細かく切って具材にした鶏の肉団子を差し出した。
楽しそうに食べるレナードの姿に私は幸せを感じる。
携帯端末が震え、「もー見せ付けてくれちゃって。勝手にやってちょうだい」とシオから再びメッセージが届き、私は思わず微笑んだ。
 シオとレナードがいる限り、私は心から笑える日々を送れるだろう。
今の私は怖いものなど何もない、無敵の存在なのだ。




-THE END-


久しぶり(?)の新作です!ネープル帝国が舞台の話はこれが初…ですかね?
共感型ヒロインが多い拙宅では珍しいドライ派ヒロインです。

この話に出てくる遊び人の三つ子のネタは学生時代からあったのですが、
遊び感覚で付き合う男を果たして皆様は好きになれるのだろうか?と思い、長い間寝かせていたネタだったりします。
ちなみに、その段階でのヒロインの設定(口調)とヒロインの友人の設定は
『不器用な彼女』のヒロインと夏香に既に流用していました。三つ子の話はもう書きそうにないなと思っていたので^^;
とはいえその時点でもヒロインの性格は全然違ってましたが。

最近になって急にこの三つ子の話を書く気になったのは、ある番組で
「パートナーはいないが妊娠を希望する女性がネットで無料精子提供している男性と会って精子をもらい、
 女性が注射器で膣に注入して妊娠する、という状況が増えてきている」
というのを見たからです。
(その時はまだ事実婚では体外受精が認められなかったのでこういう手段に頼る女性が多かったのでしょうが、
 現時点では減っているかもしれません)
その問題点として、番組では相手が病気を持っている可能性や、生まれた子どもの知る権利にこたえられない、などをあげていたのですが
私はそれよりもまず先に「それって子ども世代になったら、街中に自分の知らないきょうだいがいる状況にならない?」と思ったのでした。
そこでその時に抱いた恐怖というか不安感を今回のヒロインさんに負ってもらいました。
なので父親の情報が分からない恐怖を前面に出したかったので、色々と荒のある世界観というか強引な設定になっております(;´▽`A``
そしてそんな背景を持つヒロインはゲーム中毒者になり自分の世界に閉じこもっているわけですが、
同じくらいゲーム好きな攻略対象とゲームするうちに、心を開放して人を好きになれたらいいな、という思いから
遊び人の三つ子のネタを思い出したのでした。

さて、レナードについてですが、内容で散々言っている通り、嫉妬深いくせに自分は嫉妬されるのが嫌いなタイプです。
叔母に嫉妬する母の顔を見てしまったことで嫉妬という感情の愚かしさや醜さを知っていて憎んでいます。
言霊とか言ってましたが基本、見えるものしか信じないタイプで言葉や態度で表してくれないと不満を抱きます。
付き合うと結構面倒なタイプな気がする(笑)

今回は心のまま妄想を吐きだすように一気に書きあげたので、かなり展開を端折ってはおりますが
楽しんでいただけたら幸いです。
レナードを許し、愛してくださったお客様、ありがとうございました!



裕(2014.7.30)


追記(2014.8.24):読み返してみたらルゥとレナードの最終日を一日間違えていました(;一_一)すみません。
           とりあえずルゥは強引に一日ずらしてみました。レナードはそのままです。




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