恋人最後の日だと思っていた日は、本当の交際最初の日となり、翌日から学校が始まった。
新学期となり久しぶりにシオの顔を見た私は事の次第を包み隠さず彼女に話すことにした。
私の遺伝情報コンプレックスもブリズナー兄弟とのことも。
 軽蔑されるかもしれないと不安ではあったが、シオには全て話してしまいたかった。
私の心の中だけに留めておくのはとてもつらかったのだ。
だから嫌われても呆れられてもシオに知っていてほしかった。
 ――全てを話した後、シオは私を叩いた。拳でぽかぽかと子どものように。
そして私の為に泣き、もっと早く話して欲しかったと漏らした。
もし話してくれていたら私に危ない遊びなんかさせなかったし、私が望むなら一緒に父親の情報を調べようとしたのに、と。
 私は泣きながら笑った。昨夜泣き過ぎたこともあって目が腫れぼったかったのに、
更に涙を流したことで目が充血して目尻の皮膚がひりひりと痛んだ。
そんな顔を見たシオは吹き出すように笑い、休み時間に会いに来たハリソンも心配したり呆れたりした。
 ハリソンは私の企てたゲームについて他の兄弟らには話さなかったそうだ。
話すとややこしくなるのは分かり切っていたし、二人で秘密を共有して優越感に浸りたかったのだそうだ。
まあ、私は早々にシオに話してしまったのだけれど…シオからしてみたら女友達とはそういうものらしい。

 私はハリソンにも自分の出生の経緯を話した。
父親が分からないせいで周りの人間が全て血縁者に思え、異常に人を愛することを恐れていたと。
 そんな話を聞いた彼は「本当に君は臆病だったんだなぁ」と苦笑いをしながらも
すぐに携帯端末で政府の遺伝情報データベースにアクセスし、自分のIDを入力して遺伝情報を引き出した。
私は既にダウンロードしたデータを携帯端末に入れていたので自分のデータを引き出し、ハリソンのものとデータ照合してみる。

「…ホッとした?」
「ええ、とても」

 私たちは顔を見合わせて微笑んだ。照合の結果、私たちは他人だと証明されたのだ。
私は温かいお風呂に浸かった時のようにじわじわと体が温まるのを感じた。
心を冷たく凍らせてしまおうという無意識の警戒が今、解かれたのだ。

「これで二人で世界の果てまで駆け落ちしなくても良くなったね」
「ええ、もう私には何も怖いものなんてないわ」
「それは残念だなぁ。もう臆病なちゃんを見れないなんて」

 ハリソンは笑って私の頬を優しく撫でた。
私も彼につられて笑う。

「――ねえ、ハリソン。遊園地のパニックルーム、好評で期間を二ヶ月延長するらしいわ。
 また今度行ってみない?今度はレベル5で」
「いいね!次はちゃんの本気が見れるんだよね?
 じゃあ、最速クリア目指そうか」
「いいわね。楽しそう」

 ゲーム要素に目がない私たちは早速、次の休みに予定を入れる。
相手の心を利用するゲームはもう懲り懲りだが、二人で楽しめるゲームで遊ぶというのは
ゲーム好きな私たちにとってはこの上なく幸せなことだ。
 私はこれからも人との距離に悩むこともあるだろうし、相手の気持ちを理解した上で優しい言葉なんて言えない人間なのは変わらない。
けれどシオとハリソンのおかげで今後私は心から笑える日々を送れるだろう。
私にはもう怖いものなんて存在しないのだ。




-THE END-


久しぶり(?)の新作です!ネープル帝国が舞台の話はこれが初…ですかね?
共感型ヒロインが多い拙宅では珍しいドライ派ヒロインです。

この話に出てくる遊び人の三つ子のネタは学生時代からあったのですが、
遊び感覚で付き合う男を果たして皆様は好きになれるのだろうか?と思い、長い間寝かせていたネタだったりします。
ちなみに、その段階でのヒロインの設定(口調)とヒロインの友人の設定は
『不器用な彼女』のヒロインと夏香に既に流用していました。三つ子の話はもう書きそうにないなと思っていたので^^;
とはいえその時点でもヒロインの性格は全然違ってましたが。

最近になって急にこの三つ子の話を書く気になったのは、ある番組で
「パートナーはいないが妊娠を希望する女性がネットで無料精子提供している男性と会って精子をもらい、
 女性が注射器で膣に注入して妊娠する、という状況が増えてきている」
というのを見たからです。
(その時はまだ事実婚では体外受精が認められなかったのでこういう手段に頼る女性が多かったのでしょうが、
 現時点では減っているかもしれません)
その問題点として、番組では相手が病気を持っている可能性や、生まれた子どもの知る権利にこたえられない、などをあげていたのですが
私はそれよりもまず先に「それって子ども世代になったら、街中に自分の知らないきょうだいがいる状況にならない?」と思ったのでした。
そこでその時に抱いた恐怖というか不安感を今回のヒロインさんに負ってもらいました。
なので父親の情報が分からない恐怖を前面に出したかったので、色々と荒のある世界観というか強引な設定になっております(;´▽`A``
そしてそんな背景を持つヒロインはゲーム中毒者になり自分の世界に閉じこもっているわけですが、
同じくらいゲーム好きな攻略対象とゲームするうちに、心を開放して人を好きになれたらいいな、という思いから
遊び人の三つ子のネタを思い出したのでした。

さて、ハリソンについてですが、内容で散々言っている通り、繊細で無邪気な子どものまま大きくなったイメージです。
叔母の女の顔を見てしまったことで女性に対し不信感と嫌悪感を抱くことになります。
でも恋愛対象は女性ですし自分から触れることは結構好きです。
安心感を抱かせてくれる相手がタイプですが、自分では気づいていません。
ヒロインは二面性が殆どないのと自立心が抜きに出ているので彼はそういう所に惹かれます。

今回は心のまま妄想を吐きだすように一気に書きあげたので、かなり展開を端折ってはおりますが
楽しんでいただけたら幸いです。
ハリソンを許し、愛してくださったお客様、ありがとうございました!



裕(2014.7.30)





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