は冷静に考えることにした。

サルサラと伊絽波を救いたい。
それは何事にも変えられない想い。
でも…本当に2人とも私は助けられるのだろうか。


「…イロハちゃん…」


「…サルサラ…」













































 
 誰よりもサルサラを救いたい――はそう思った。

「…でも、まず私が元気にならなきゃ。
 …そうだ、この部屋にも結界張ろうかな。そしたら悪夢も見なくなるかも…って駄目だ」

考えを自ら遮る。
結界を張ったらサルサラが来れなくなってしまうかもしれない。
結界用の札を手に持ったまま彼女は立ち尽くす。

――ちょっと待ってよ。
何かその言い方、まるでサルサラに会いに来て欲しいみた――


「っわぁ!?」

後ろに急に現れた邪気の塊。
最初はそんなに感じなかったのに、次第に彼は力をつけてきているみたいだ。

「呼んだ?」
「いや、はっきりと呼んだわけじゃないけど…」

…貴方のことは考えていました。

「ねぇ、何で心の中で思っただけで、私に呼ばれてるってわかるの?」
「んー、前に言わなかったっけ?」
「多分聞いてない」
「そう。じゃあ教えてあげるよ」

そう言うとサルサラはボスンとのベッドに腰掛けた。
仕方がないのでもおずおずと彼の隣に座る。

「ボクと君の気ってね、正反対の性質を持つけど、いや寧ろ正反対で強大な力同士だからかな?
 とにかく、君とボクの気は共鳴しやすいんだよ」
「うん、それは婆ちゃんに聞いたことがある」

はコクコクと頷いた。
それを見てサルサラも頷き口角をくっと上げる。

「でね、がボクのことを考えるとの気にボクの気が共鳴して何かこう、引っ張られるような感じがするんだよ。
 ボク自身もよくわかんないんだけどね、今までこんなことなかったから」
「全然説明になってないんですけど。それに私はサルサラのこと、全然感知できないもん」
「まぁ、そう言わないでよ。要するにボクとは心が通じてるってことさ」

心が通じてる…。

かあぁとの顔が赤くなった。
な、何でこんな言葉に恥ずかしがってんのよ私は!と自分自身の考えに突っ込みながら
は座っていたベッドから立ち上がった。
すると今まで無意識に握り締めていた札がハラハラと床に落ちていく。

「…何、これ?」

サルサラ自身、そんなことはわかっているだろうが、敢えて彼は笑顔で彼女に問う。

「…札だけど」
「何しようとしたの?結界張る修行でも?」
「…最近変な夢ばかり見るから…」

そう言ったの頭の中には夢の光景が次々と思い出されていた。

…あの夢に出ていた人物がここにいる。

サルサラが急に登場したことにすっかり動転して夢のことは忘れていたが、
ふとサルサラと目が合うと、夢での彼の姿が被った。
あ、やばい――と思うのと同時に再び湧き上がる感情と涙。
はサルサラの顔をまともに見れずに彼に背を向けてベッドにドスンと座る。

「…で、この部屋に結界張る前にボクが来ちゃったわけだ」
「…うん」

言葉が詰まって出てこない。でも、泣いてるなんて知られてはいけない。
何故ならサルサラはどうして泣いているのかもわからないし、仮にサルサラのことを思って泣いていると知ったところで、
きっと彼はそんな自分の感情を嘲笑うか寧ろ怒るだろう。
サルサラは人に邪気以外、何も望まないから。
だから彼に対する同情に近い気持ちは彼にとっては鬱陶しいものに違いない。
彼という人間が、あの夢でわかってしまった。

彼は絶対的な存在。
私と同じ人間として扱うことなんて許されないことだし、きっと無理なことなのだ。

それでもは彼を、サルサラを人として救ってあげたいと思っていた。
その想いが更に涙を溢れさせる。

、気の波長が乱れてるよ?…ボクのこと、考えてるでしょ。ボクの気が君にグイグイ引かれてる感じがするんだけど」

そう言ってサルサラはの肩を掴んで自分の方を向かせた。

「…泣いてるの?どうして?君が泣くことにボクが関わってるの?」

素朴に疑問を投げかける彼からは顔を背ける。

「サルサラには…関係ないでしょ。私がどうしようと」
「…その言い方、ちょっと腹が立つなぁ」

サルサラもプイと顔を背けた。

「君が何を考えてるのか…よくはわからないけど、ボクが関わってるならそれを知る権利はあると思うけどね」

思っていたよりもサルサラはに対して興味を持っていたようだ。
しかしそれはが自分に取り込めそうな巫女という立場だからに他ならないと彼女は考え、
その冷静な思考により、苦しい感情にぐっと掴まれていたの心は新たな感情により解放された。

“私はサルサラにとって利用できる巫女という存在”
――そんな今まで当たり前だと思っていたことにショックを受けている自分がいる。

「…ねぇ、サルサラ」

は心に浮かんでは消えていく言葉を頭の中で整理もせずにポロポロと話し始めた。

「…もし、私が…このまま逃げて、結界を張らなかったらどうなるの?」
「そしたら結界のヒビの入った所から段々ボクの邪気が漏れ出して、次第にこの世界にも邪気が溢れ出す。
 すると世の中は乱れて新たな邪気が生まれる。
 そしたらボクがその邪気を再び集め、いつか結界を壊す程の力が溜まったらボクは結界を壊し、この世界に復活できる」
「じゃあ、私が結界を張れずに吸収されたら?」
「その時はさっき言ったような過程を経てボクは復活するけど、復活までの時間が爆発的に早まるね。
 吸収された君はどうなるんだろうなぁ。経験がないから何ともいえないけど、
 身体はなくなっても、意思はボクの中に残って生き続けるんじゃないかな」
「…じゃあ、もし私が…私がサルサラの仲間になったらどうなる?」
「イロハと同じような立場になるだろうね。身体も意思も君のモノで自由だ。
 でも、ボクを復活させて貰うよ。そしてボクが復活してからもボクの傍にはいてもらう。特殊な契約の元にね。
 たとえば、ボクの邪気がないと君は生きていけない、とか」

ということは、吸収されたらサルサラと一心同体。仲間になれば自分は自分のままで傍にいられるということか。
まさに邪な考えがふとの脳裏に浮かんだが、巫女としての理性がすぐにそれを脳の片隅に追いやった。

「…私のこと、何で穢さないの?そっちの方が私の身体も力も好きなように使えてサルサラにとっては有利でしょう?」

冷静になり、以前考えていたことをは話した。
さすがに「私の浄化可能域を超える程の邪気が集まっていないから今までそうしなかったのか」とは聞かなかったが。

「…君を穢してもね、楽しくないからだよ。

フッとサルサラの目は優しいものへと変わる。

「君の人形みたいな顔なんて見たくないのさ」

その言葉とは裏腹に、今まで優しくを見つめていたサルサラの瞳が淋しさを帯びたものへと変わったが、
彼女がそれに気づいてじっと彼の瞳を見つめた時には、彼の目は普段の挑戦的な目に戻っていた。

サルサラの言ったことが本音なら…嬉しいのに。

次第に芽生えつつある同情とは違う想いの正体を今のはまだ知らない。

「じゃあそろそろ帰ろうかな」
「そう…」
「そうだ。部屋に結界張ってもいいよ。そんな小さな結界じゃ、ボク自身には何の影響もないだろうから。
 でも、君の悪夢は少しは減るかもね。それでが君が元気になるなら、結界を張ればいい」

気遣っているのだろうか。それとも獲物として私を生かしておきたいだけなのだろうか。
…それでもいい。嬉しかったことには変わりないから。

「…ありがとう」
「こんなことでお礼?っていうか敵のボクに?
――君って本当に変わってるね」

サルサラは穏やかに笑った。
その笑顔が続けばいいのにとは切に願う。

――また会いに来るよ、
「…うん」

そうしてにとっては甘く感じる言葉を残し、サルサラは姿を消す。

…貴方を救い出せたら…。

はサルサラの面影に想いをそっと重ねた。










次第にサルサラ寄りになってきた主人公ですが
どう終わらせるのがいいのだろう、と今何パターンか考え中です。
ベタに終わらせる方が良いのか、それとも現実的に終わらせた方がいいのか…。
まぁ、全部分岐させて読んで頂くのが一番いいかもしれませんね。
皆さんの好きなように終わった方が、気持ちいいでしょうし。
私もアイデアを出しつくした方がすっきりしそうだし。

段々物語の収集がつかなくなってきておりますが、
何とか終わらせますので、これからも宜しくお願い致します。


吉永裕 (2006.2.2)


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