隣の石田くん 第7話?
「色は?」
「赤はまだあったから、黄色とピンクと白を追加で」
歩いて15分ほどの距離にある大きめの文房具屋で2人は飾りの花用の紙の束を手に持っている。
「…でもこんな本格的な文房具屋さんで買うより
百円均一とか、うちの近くのディスカウントストアみたいなトコで買った方がめっちゃ安いんだけど…」
腕を組んでうーんと唸っている私を見て、悠樹くんは「ははっ」と笑った。
「何か及川、主婦みたい」
「えっ!?」
おばさん臭いってことかな…。 ――な、何かショックだ…。
そんなショックを顔に表さぬように「主婦って言うかケチっていうか…」と笑うと紙をどさどさと買い物かごに入れていく。
「いや、悪気はないんだよ?しっかりしてるなぁ、って言う意味で」
「――え!? …あ、そ、そう?」
一瞬、声が上擦ってしまった。
そんな自分を隠そうとして
「そんな褒めても何もあげないよ〜」
と明るく言うと彼に背を向けて先を歩く。
そんなやり取りがまたできるようになるなんて――幸せだと思った。
悠樹くんとは中学入学当初から近くの席になったこともあって結構仲が良かった。
多分、石田くんに鍛えられて逞しくなったのだと思うが、私は基本的に男子の中にいても平気な方だったので
仲の良い友達と暴れた後に「及川、助けて」と言い、友達に追いかけられながらやってくる悠樹くんを見て笑ったりしていた。
そんな時間が楽しくて、幸せで。
…あぁ、私は彼の内側にいるんだなって……思ってた。
それでも私は永遠に友達の枠にしか入れなくて。
女としては、意識もされなくて。
そりゃ当然か、だって女の子として接してなかったもの。
女の子として接するよりも、男友達のように接した方が近くにいられると信じてたから。
そんなこんなで日々が過ぎていくと、彼の本当に内側に入った女の子が現れた。
小さくて、可愛くて、ちょっと生意気で、そんな生意気さがまた可愛くて。
――あぁ、悠樹くんは私と正反対の子が好きなんだなぁと思って。
そして……人知れず落ち込んだ。
どこかでいつかは友達以上になれると思ってた。
ほら、漫画とかドラマとかでよくあるじゃない。
将来、きっと振り向いてくれるって――信じたかったんだな。
それからは、彼女さんとその友達に無視されたりコソコソ陰口を叩かれたりした。
きっと彼女は私の下心を見抜いていたんだろう。
――だから、彼らが付き合い始めてから私は一切悠樹くんと関わらないことにした。
女子達に無視されたりするのが苦痛だったわけじゃない。
彼に迷惑をかけたくなくて。
迷惑な奴だって……嫌われたくなくて。
「何だか及川とこんな風に話すのって久しぶりじゃない?」
「うん、そうだね。クラスが離れてから全然話さなかったもんね〜」
帰り道、ポツポツと小さな雨粒が鼻先に落ちたのを感じた。
それでも何だかとても温かい気持ちで包まれている。
「俺さ、脩二に誘われて生徒会に入ってよかったって思ってるんだ。
皆、地元が同じっていうのもあって凄い楽しいしさ。
それに脩二って一緒にいるだけで何かやってくれるんじゃないかって気分にさせてくれるだろ?」
「ホントホント!! 生徒会メンバーで集まってると何か楽しいんだよね。
それにお互いのこと、昔から知ってるから凄い楽だし。
石田くんも会長になるべくして生まれてきたような人だから、まぁたまに無茶言うけど、結構頼りにしてるんだ、私」
今頃、生徒会室で作業をしているであろうメンバーを思い出してクスクスと私は笑う。
そんな私を見てつられたのか彼も微笑んだ。
しかし急に雨足が強くなったかと思うと
『ザー』
と、スコールのように激しい雨が降り始める。
「わ、嘘!? 紙、濡れちゃうかな?」
「一応ビニールで包装されてるけど…走るか?」
「うん!」
そう言うと、彼が私の持っていた買い物袋をひょいと奪い、「行くぞ」と声をかける。
うん、とはにかみながら頷くと、2人はダッと駆け出した。
バチャバチャと地面に張られた水溜りが音を立てる。
「雨、すごっ!」
視界が遮られてしまうような雨の激しさに思わず叫ぶと
「全然前見えないし!」
と少し前を走っていた悠樹くんも叫んだ。
「及川、お前雨女だろ!!!」
「悠樹くんの方が雨男でしょ〜!?」
そんなことを言いながら走り続ける。
学校が見えてくる頃には制服も、髪の毛も、靴下も、靴の中もシャワーでも浴びたかのようにびしょびしょで
もうどうでもいいや、と思うような気にさえなった。
そしたら何だかもう頑張って走るのが馬鹿らしくて可笑しく思えて。
「もう限界っ!走れない――!!!」
そう言って私は立ち止まって腹を抱えて笑う。
すると悠樹くんも立ち止まって振り返った。
「自然のシャワーみたいだね〜」
手を空に向けて広げ、天を仰ぐと何だか雨と一体になっているような気がしてきた。
心がとても開放感に満ちている。
「時間があったら皆でドロだらけになるくらい真剣に鬼ごっことかしたいよね」
そう言ってニカッと笑うと、悠樹くんはうんと頷いた。
そして一歩近づくと笑みを向ける。
「…脩二がどうしても及川を生徒会に入れたかった気持ち、分かるな」
普段は冷静で脩二のことをセーブしてくれつつ、楽しむトコは一緒にとことん楽しんでくれる。
――あいつにとって最高のパートナーって感じ。
「俺も…負けられないな」
そう言ってずぶ濡れの悠樹くんもニカッと歯を出して笑った。
さて、今回は好きな人との関係をクローズアップ。
何だかヒロインさんが幼児退行してしまってる感じですが、中学時代はそんな感じで結構明るくてサバサバしてました。
高校に入ってからはだいぶ落ち着いた…筈ですが
まぁ、ジャイ●ンの生徒会長に(暴力は受けつつも)対等なんだから、やはり色んな意味で強い人だと思います。
吉永裕 (2008.12.14)
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