隣の石田くん   第17話?




 空が茜色に変わる頃、悠樹くんと手を振って別れ、帰途につく。
心なしか身体が飛び跳ねているような感じさえ覚えるが、ふと駅近くの公園にある人物を見つけ、立ち止まる。

「――石田くん?」
「…及川」

それは今日のこのデートを企画してくれた石田くんだった。
しかし、彼はうな垂れた様子でベンチに座っている。

「…どうか、した?」

あまりにも元気がない様子だったので、私は隣に座って小首を傾げる。
だが、彼はふっと口を緩めて

「今日は楽しかったか?」

と逆に尋ねた。
素直にうん、と頷き感想を述べる。

「久しぶりに沢山話せたし…、あ、映画は緊張して全然内容覚えてないんだけど、その後、雑貨とか見て回ったりしてね、凄く楽しかった!
 石田くん、本当にありがとう!!」
「…そっか。よかったな」

少し笑って見せるが、やはりどこか元気がない。

「――石田くん…何かあったの?
 あ、あの別に私に言っても何の解決にもならないかもしれないけど話を聞くくらいならできるし…、私でよければ……」

そう言って彼の横顔を見つめていると、ふと彼がつぶやく。

「――彼女に振られた」
「…え……」

何を言ってあげたらいいのか分からなかった。
こんな石田くんの前で能天気に惚気に近い話をしてしまった自分に、一体何が言えるというのだろう。

「…今まで“重い”って言われて別れることはあったけど、今日は“愛されてる気がしない”…だって。
 ――大切にしてたつもりだったのに、俺のどこが悪かったんだろ…」

膝に肘を乗せて俯く彼の背中がとても小さく見えた。
これまであんなに広くて大きくて、雨が降ろうが槍が降ろうが弾き返してしまいそうな力強さを持つ彼の背中が、今は酷く小さく窄んで見える。

「…あ、ほらっ最近は文化祭の準備で忙しかったから、かまえなかったかもしれなけど、
 でももう終ったし、それを言ったら彼女さんも分かってくれるよ!」
「…言ったけどダメだった。会えないことだけが理由じゃないみたいだったけど…
 教えてくれなかったから、結局、あいつを何で傷つけたのか分かんねぇんだ。 ――俺、サイテーだ…」
「石田くん…」

泣き出してしまいそうな震えた声で呟くと、彼は目元に両手を押しあてて沈黙する。
そんな姿を見たら、もう何も言えなかった。
彼が彼女を大事に思っているのは、第三者の私でも分かっていた。
メールしている時のデレっとした顔や、放課後、彼女の学校まで迎えに行く時の嬉しそうな態度、
惚気話をする時の幸せそうな表情――

 ――私は分かってるよ、石田くん。
 どんなに彼女が好きか。どんなに大切にしてたか。

「…石田くんは…これでいいの……?」

気がつくと彼ではなく、自分が涙を流していた。
何だか互いに一方通行な2人の関係が、他人ながら悔しくて。
こんなにも彼は想っているのを分かってもらいたくて。
口を開いた途端、涙が零れた。

「――な、泣くなー!何でお前がっ!!」

そんな様子に驚いて、慌てて石田くんが私の頬に手を当てて涙を拭う。
しかし一度溢れ出てしまった涙は止まることはなく、彼のゴツゴツした指も濡らしていく。

「っ…だって……まだ2人とも好き合ってるのにぃ…」

逆に慰められながら、私は狭くなった喉の奥から言葉を搾り出した。
すると石田くんに上から押さえつけられるように頭をぐしゃりと掴まれ、私の頭が彼の胸につくような形でうな垂れた状態になる。

「…バカやろ……お節介だな、お前は」

――でも、もう…終ったから。
ありがとな、及川。

頭の上から微かに聞こえてきた石田くんの声は、
痛々しくて、優しかった。













今回のこのイベントがずっとずっとず〜っと書きたくて!
(そんな不幸設定を背負っていたとは…可哀想な会長w)

好きな彼とのデートシーンはもう前回ので十分でしょう、ということでカット^^;
今回のメインは会長なので…
ヒロインさんの惚気話でどんなデート(後半戦)だったかは、皆様のご想像にお任せするということで…。

というわけで、ヒロインさんの恋同様、皆様忘れがちかもしれませんが会長もずーっと彼女がいたのでして。

振られた理由などもいつか…出てくる……かしら^^;


吉永裕 (2008.12.14)



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