隣の石田くん 第16話?
――2日あった文化祭も無事に終わり、その翌日。
私はむすーっとした表情で家を出る。
「じゃあ、11時に駅だからな」
生徒会企画後、私は石田くんにそう言われた。
参加者に捕まらなかったものの、いつの間にか参加者バッジを胸に付けていた石田くんから手に輪ゴムをつけられていて、そのまま終了。
そうして「俺がお前を捕まえたんだから、明後日は俺の用事に付き合えよな」と、何ともジャイ●ン的な勝手な言い分を吐き、去っていったのだ。
ったく、あの野郎――!!!!
腹を立てながらも駅に向かう。
すっぽかしたら卒業まで、いや、卒業しても町で会った時などにずっとネチネチと文句を言われて殴られそうなので仕方なく行くのだ。
第一、石田くんは主催者側であって、参加してただなんて聞いてないし。
ってか、今日は「映画を見に行きたい」と彼の前で言わなかったっけ、私!?
いくら命の恩人だとしても…っ……いや、命の恩人だしなぁ…仕方ないかなぁ…。
いや、それでも酷い!
そんなこんなで「石田のバカ野郎」と思いながら足を止める。
待ち合わせ場所に着き、携帯電話を取り出して見ると時間は11時前5分。
まだ来そうにないけど、絶対来るよね。
あいつが呼び出したんだから。
実は、私は彼の連絡先を知らない。
生徒会に入って各自の携帯番号とアドレスが載った連絡網を東ちゃんが作ってくれたのが、
何か連絡する時はその紙を見ればいいと思って携帯に登録していなかったのだ。
そしたらその紙はポケットに入れたまま洗濯されてしまい…判別不可能に。
まぁ、生徒会の他の誰かに聞けばいいやと思いつつ、ずっと聞いておらず、今に至る。
すると――
「及川!」
あれ、と思い、声のする方へ振り向いた。
何故ならこの声は――
「――悠樹くん?」
駅の西口の方からやってきたのは悠樹くんだった。
そうして私の所までやってくると、「お待たせ」と声をかける。
…もしかして石田くんったら生徒会メンバー全員呼び出したのかな?
だったら「俺に付き合えよ」なんて言い方しなくてもいいのに。
そんなことを思いながらも、正確な状況が分からずポカーンとした表情の私を見て悠樹くんは問いかけた。
「脩二から何も聞いてないの?」
「うん」
「急に用事できたから、代わりに俺が映画に付き合ってやってくれ、って」
「え…」
ちょっとちょっとちょっと……!
石田くんってば!!! もしかして…もしかしなくても……気を利かせてくれたの!?
――何か…凄く似合わないし、ワザとらしいけど………素直に嬉しいよ。
「っていうか、脩二の代わりが俺でよかった?」
「え、あ、うん!勿論!! やっぱり1人で映画見るよりも誰かと一緒の方が断然楽しいし。
悠樹くんと外で会うことって今までなかったし、ワクワクしちゃうよー」
赤面していないかとても気になったが、努めて平静を装う。
「あは。一緒に遊んだことってなかったっけ? じゃあ今日は楽しむか!」
「うん!!」
そうして2人はやって来た電車に乗り込み、2つ下った駅で降り、
駅の近くにある大型ショッピングモールに併設されている映画館へと向かう。
何だかこれってデートみたい…!
建物のガラスの窓やドアに映っている自分がいつもよりもニコニコしているような気がした。
もっと可愛い服を着てくればよかった、と思ったけれども
そんなことすらどうでもよくなってしまうくらい、悠樹くんの隣を歩けることが嬉しかった。
映画館に着き、チケットを買う為に窓口に並ぶ。
だが、平日ということもありとても空いていた。
代休様々だ。
「見たかった映画ってどれ?」
「あのアクション映画」
「へー、及川ってアクション好きなんだ。 …だから企画ではあんなにアクティブな動きができたわけ?」
昨日の私の姿を思い出したのか、悠樹くんはクククと堪えながらも笑っていた。
「べ、別にいつもあんなことしてるわけじゃないよ!
ただ、子どもの頃、周りが男の子ばかりだったから中に混じって結構やんちゃなことをしてただけで…。
――ほら、昔取った杵柄ってヤツよ」
恥ずかしがりながらまくし立てるように答えると彼はあはは、と更に笑った。
「昔取った杵柄ね…。そういう言い回しが及川っぽいな」
そう言って彼は穏やかな表情を浮かべる。
「まぁでも、そう言えば中学の最初ら辺は男勝りな感じだったかな。
高校に入るくらいから何かちょっと変わった感じ? 今は大人しくて秀才なイメージだもん」
「…秀才かは分からないけど…やっぱりあの頃は男勝りでしたか……」
悠樹くんの言葉で以前の自分を思い出す。
――そう、あの頃はまだ煩かった。
からかったりちょっかいを出してくる男子に言い返したり、あの石田くんにだって殴られた時は殴り返したりしていたのだ。
それでも次第に落ち着いてきたというか。
きっと周りが落ち着いて私を相手にしなくなったから私も反応しなくなっただけなのだろう。
「うんうん」と頷きながら再び心の中に収めて鍵をかけるかのように、私は頭の中から過去の記憶を追い出す。
あの頃の自分にはもうなりたくない。
最近は悠樹くんと関わる機会が増え、生徒会メンバーも気心の知れたメンバーばかりなので
またあの頃のガサツさと強さが戻りつつあるけれども。
でも、悠樹くんが好きなのは「可愛い女の子」だから――
昔のガサツな自分も、今の大人しい自分も、彼の好きなタイプではない。
分かってはいるけれど……でも、これが「私」なのだからどうしようもない。
無理して可愛い女の子ぶってみても、逆に見苦しいだけ。
こればっかりは、もうホント。
持って生まれた性質と、育ってきた環境によるものだから……。
そう思って既に「付き合いたい」などという気持ちよりも「友達として傍にいれたらいいや」的な諦めの気持ちと、
それでも「やっぱり好き」という諦めきれない気持ちが同時に胸の中に存在する。
自分でも制御できないこの2つの心が、時々激しく胸を占拠するのだ。
これ以上、好きになってはダメ。傷つくだけ
私も幸せになりたい
そんな気持ちが諦めを強めたり、好きを強めたり。
でも今日1日で……私の「好き」が――止まらなくなってしまったら…?
「はい」
「あ、ありがとう。ってかお金…」
気がつくと、悠樹くんがチケットを買ってくれていた。
「たまにはいいトコ見せないと。今日は俺のおごり」
「あ…ありがとう…。でも、“たまには”って…。 いつも悠樹くんは――…頑張ってるじゃない」
私、知ってるから。
生徒会の文化祭予算を増やしてもらう為に先生を説得してくれたこととか、家に帰ってまで文化祭で使う小物を作ってたこととか。
「生徒会がうまくいってるのも悠樹くんのおかげだよー。 だってほら、石田くんの相談相手って悠樹くんしかいないし、
悠樹くんが止めてくれないと、東ちゃんが遠野くんを殴り倒しちゃうし、ミヤだって色々助かってるって言ってたよ?」
「…はっ。そこまで褒められると照れるな」
そう言うと彼は嬉しそうに笑った。
悠樹くんは穏やかだし、特に目立つ存在ってワケじゃなくて言うならばナンバー2的なポジションにいつもいるけど、実は頼られるのが好き。
そして頼もしいワイルドな男に憧れている。
――こんなことを知ってて利用してる私って……怖い。
いや、実際に褒める所はいっぱいなんだけど。
そう思いながらも、これらの情報は実際に悠樹くんから聞いたことだ。
時々彼の方から「俺ってさ〜」と自分のことを話してくれるのが凄く嬉しい。
「お、時間だ。行こうか」
「うん」
そう言って目的の映画の所へと向かう。
やはり中も人が少なく、どこでも座れるような状況だった。
「私、この映画に出てる敵役の俳優さんが好きなんだ」
まだ時間があったので、私はパンフレットを見ながら俳優を指差す。
「あ、俺もこの人好き!…って及川、渋いのが好み?」
「あは、結構そうかも。 若くて恰好良い俳優さんよりも、30歳以上の脇役やるような人の方が何か気になる。
皆からは好みがおかしいってよく言われるけど」
「いいじゃん、脇役。ってか年上好き? 頼むから不倫とかに走らないでくれよ」
「心配しなくても、人のものには興味ないから。 でも年の差婚はするかもしれないけどね」
そんなことを話していると、ライトが消される。
辺りが暗くなると何だかそわそわしてしまうのは私だけだろうか。
スクリーンに流れている宣伝の音が煩いのでムードも何もないのだけれど
それでもすぐ隣に好きな人が座っていると思うと何だかドキドキしてしまう。
今日は、ホントに石田くんに感謝だな…。
――そうして数分後、本編が始まった。
お忘れの方もいらっしゃるかもしれませんが、
ヒロインさん、これでも恋する乙女ですから(笑)
腐れ縁が優先されつつある日常ですが、これでも恋しています。
ですが、次第にヒロインさんの会長に対する心の声が汚くなってきました(笑)
素はこうなのかもしれません…ね。
しかし、さすがに会長。なんかもうストレートすぎです。
見え見えすぎます。
でもそれも彼っぽいなぁ、と思いながらこんな強引な展開です^^;
吉永裕 (2008.12.14)
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