隣の石田くん  第11話?



 「…お、お帰りなさいませ。ご主人様…」
「ダメ、まだ恥じらいがある。もっとこうっ“お帰りなさいませ♪ご主人様っ☆”よ!」
「あうぅ…私には……無理だよぉ。似合わないし…」

開店5分前、鏡の前で友達と挨拶の練習をする。
どうにも恥ずかしさでメイドになりきれないのだ。

「美桜!あんた、生徒会、副会長でしょっ!!!!
 会長と副会長のいるうちのクラスが校内売り上げ1位にならなかったら恥ずかしいと思わないの!?」
「そ、それは…そうだけど」

半泣き状態で私は鏡越しにホスト姿の会長を見る。
何やら彼は来てくれたお客さんに来店のお礼を言って回る役目らしい。
しかし、ポラロイドカメラで2ショット写真を1枚200円で受け付けるようで、恐らくそちらの方で彼は忙しくなるだろうと予想がつく。

「――さぁ、今日1日くらい恥を捨てていくのよっ!我がクラスの為に!!!」
「…わかった…」

力なく頷くと、友達に背中を押される。

「さぁ、開店第一声は美桜だからね!」
「えぇ!?」

そうしてガヤガヤと生徒達の声がドアの向こうから聞こえてくるのを不安に思いながら
「お待たせしました〜♪」と係の女の子がドアを開けたのを見届けると、最初のお客様を迎えるべくドアのすぐ傍に待機する。

「お帰りなさいませ、ご主人――」

ピシリと私の笑顔が凍りついた。

「…及川……っ似合ってるよ」

くくっと笑いながら教室に入ってきたのは、悠樹くんと彼の友達。

 ――さ、最低。

泣きそうだったが、裏で控えている友達の視線を感じてニコッと笑顔を作る。

「こちらへどうぞ☆」

そう言って2人を窓際の席に案内すると、膝を曲げてオーダーを取る。

「じゃあ、アイスコーヒー2つ」
「はい、かしこまりました♪」

自分でも気持ち悪いと思うような高い声を出しながらクルッと悠樹くんらに背を向ける。
辺りを見回すと、既に9割の席が埋まっていた。
やはり、生徒会長効果とメイド効果なのだろうか。

「美桜、御指名!」
「は?」

オーダーを伝えて接客に行こうとすると、カメラ係の子に呼び止められる。

「美桜の写真が欲しいんだって」

「え!?…こ、困る!他に可愛いメイドさん沢山いるじゃない!!」

こんな恥ずかしい姿、後世に残したくなんかない。

「指名料で+50円貰っちゃったからさ〜、美桜じゃないと駄目なんだよね♪」
「…わ、わかりました」

クラスメイトの静かな笑顔に背筋の凍るようなものを感じ、教室の片隅にある写真コーナーへと向かう。
すると既に会長が女の子達に囲まれていた。

「あのっ…肩に手を置いてもらっていいですか!?」
「お姫様抱っことかしてもらいたいんですけど!」

という1年の女子たちの勢いを見て「ひょえ〜」っと思った。
凄いな…あのパワー、と思う。
そんな女の子達の要望に石田くんは「よしっ」と気前よく応えてあげている。

 …ホントにホストみたいだなぁ。

そんなことを思いながら見惚れていると、後ろから名前を呼ばれた。

「じゃあ美桜、こっち来て〜」
「はい」

そうして石田くんらが写真を撮っている隣のスペースに移動すると悠樹くんの友達がスタンバイしている。

「あ…どうも」
「いえ、こちらこそ…」

よくわからない挨拶をしつつ、何も要望がなかったので棒立ちで写真を撮った。

私1人だけの写真なんて…何で欲しいんだろう、と思いつつ「御指名ありがとうございました」――そんな言い方もどうかと思ったけど――と言って
透明の袋に写真を入れて彼に手渡すと、はにかみながらその人は「俺、生徒会企画にも参加するから」と言った。

「あ、ありがとうございます」

そう言ってお辞儀をすると、カーテンの向こうから悠樹くんが顔を出し、彼に声をかける。

「終わった?」
「うん」

そうして彼は悠樹くんに写真を見せる。

「及川、ホント、その恰好似合うよなぁ」
「似合うと言われてもあんまり嬉しくないんだけど…」

苦笑するとアハっと悠樹くんが笑った。

「でも、何でも似合いそうだけどな、及川は」
「…あ、ありがとう」

そう言って2人は席へ戻って行く。


「…よかったな、似合ってるって言われて」

隣で一部始終を聞いていたらしい石田くんがそっと耳打ちする。

「べ、別に…っメイドの恰好褒められても嬉しくないもん!」

プイっと顔を背けると石田くんはピシッとデコピンをしてきた。

「…確かにお前は何でも似合いそうだよ」
「…そりゃどうも」
「でもミニのメイド服はやっぱり似合わないだろうな」
「どうせ可愛い服は似合いませんよ」
「そういう所が可愛くないんだって」
「…元々可愛くなんてありませんから」

そう言うとふぅっと呆れたように石田くんは笑った。
何かそれが大人びて見えて、私より上にいるみたいで、
…なんかちょっと悔しくて。

『パシャ』

机の上に置いていたカメラを取って目の前でシャッターを押した。

「っ!――っこの、及川!」
「さぁて、どんなマヌケ面してるかしら」


――数秒後、出来上がった写真には、やっぱり大人びた石田くんが写っていた。








次第に登場キャラたちが不可思議な関係になってきましたが
今後、関係がどうなっていくか…どうぞお楽しみに^^


吉永裕 (2008.12.14)



次に進む      メニューに戻る