隣の石田くん
「おい、英語の訳見せろ」
昼休み。返事を待たずにノートがひょいと奪われた。
私は彼が苦手だ。
――隣の席の石田くん。
小学生の頃から高校の今までずっと同じ学校。
小学生の頃から今までずっと同じクラス。
…まぁ、田舎の学校だからクラス数が少ないので、ずっと同じクラスな人は彼以外にも1、2人いるのだけれど。
しかし何故か石田くんは隣の席になる確率が高い。
きっとこれを腐れ縁というのだろう。
「お前、いつも落書きばかりしてんの?ノートの端に猫やら犬やら…」
訳を写すと、彼は礼も言わずノートをポイと机の上に置く。
「集中力が切れた時にチョロッとね」
私はいつものように彼の方を見ず、弁当を食べながら応える。
その態度が気に入らないのか、彼は暫くじーっと私の行動を見ると勝手に私の弁当の中からおかずを1つ摘まんで自分の席に戻る。
「こらっ!」
というけれども、彼はいつも私の嫌いなおかずを持って行ってくれるので自分的には問題はないのだが。
…でも、彼のこういう所が苦手だ。
石田くんは小学生の頃から身体が上にも横にも大きくて、それだけでも怖いのにさらに態度もでかくて、
気に入らないとすぐにその大きな手で殴るし、本当にドラ●もんのジャイ●ンみたいな人で。
その頃は苦手どころじゃなく大嫌いだった。
隣の席になって数学の分からない所を教えてやったら
「何でこうなるんだよ」
『バキ』
と本気で殴られるし…。――本当に大嫌いだった…。
今は小学生の高学年から始めた水泳のおかげで、横に大きかった彼の身体は筋肉で引き締まってほっそりとしたし、
顔も次第に大人の顔になって、背丈もあるから高校に行く頃にはジャイ●ンからワイルドな恰好いい男になってしまった。
高校から彼を知った女の子からはかなりモテているが、小学生の鼻垂れジャイ●ンの彼を知っている私には
どうしても昔のイメージが抜けないし、イマイチ彼がモテるのが信じられない。
とはいっても、昔みたいに男女構わず本気で殴ったりはしていないので昔ほど嫌いではないが、
しかし、私に対しては昔からの知り合いの為か未だに力を抜いてはいるものの殴ることには変わりないし、
態度もジャイ●ンのままなので、どうしても彼の苦手意識はなくならなかった。
…なのに彼女にはメロメロで、何でも言うこと聞いちゃう都合のいい男だしねぇ…。
そう思いながらチラリと彼を見やる。
ニヤニヤしながら愛しの彼女へメールを打っているようだ。
中学の頃から石田くんは彼女ができると彼女にべったりで休み時間になると彼女の腰に手を回していちゃいちゃしていた。
その頃の彼女と今の彼女は違うみたいだけど学校が違う彼女とは放課後、しょっちゅう会ってるみたいだし、
常にメールだってしてるし、本当に彼女という存在なしでは生きていけないみたいだ。
あのジャイ●ンがこんなに女にだらしないなんてなぁ、と私は苦笑して窓の外を見る。
窓の外には次の授業の為にグラウンドに集まっている生徒達がいた。
自分の顔が穏やかになっていくのが分かる。
「――まだ片想いしてんのかよ?」
「ぅわぁっ!!!! 石田くん!?」
声に驚いて振り向くと、すぐ目の前に石田くんの顔があって二重に驚く。
「いきなり現れないでよ」
「いきなりじゃねーし!」
『バシっ』
……右腕に72のダメージ。
………石田くんへの友好度−20。
…………怒りのボルテージ+79。
しかし、ここで私が怒って彼に食い下がったら更に殴られるので、仕方なくその怒りをこらえる。
「…彼女とのメールのやり取りは終わったの?」
「何で分かるんだよ!?」
「あんなにニヤニヤしてたらわかるよ」
「そうかなー」
そう言って彼は窓辺に腰掛ける。
「で、お前はどうなんだよ。あいつのこと、まだ好きなんだろ?」
「…そうですけど、何か?」
「だってあいつ、彼女い――」
「わかってる! 石田くんには関係ないでしょ!!」
ダンっと机を叩いて私は立ち上がった。
「何だよ!俺が心配してやってるっていうのに」
『バシ』
と彼の言葉が終わる前に、再び腕を殴られた。
――やっぱり石田くんなんて大嫌い!!
こうやって私たちの腐れ縁は続いていくのです…。
名前変換小説リメイク品。
本当はSSの予定でしたが、お客様に「もっと読みたい」とありがたい感想をいただき、連載化したのでした。
この作品は名前変換小説の時と内容は変えなくてもいいだろう、と思いましたので描写もそのままです。
なので最初の頃は全然登場人物の名前が出てきませんね…。
一応、先走ってお伝えしますと、石田くんの本名は 石田脩二(いしだしゅうじ)、ヒロインさんの本名は 及川美桜(おいかわみお)です。
というわけで、まだまだ先は長いですけれども、続きをどうぞ^^
吉永裕 (2008.12.14)
第2話?に進む メニューに戻る