「最後にあれに乗りたい!!」
坂本が指差した先には、全国でもトップクラスの高さを誇る観覧車があった。
辺りはもう暗くなていて、時計は8時半を回っている。
「…じゃあ、私は……」
香川はチラッと坂本と真田の横顔を伺っていると、真田が口を開いた。
「なぁ、坂本。一緒に乗らないか?」
「え?あ、うん。いいよ!」
坂本はしょーがないなぁ、と言いながらも笑顔で彼についていく。
「真田くんも、もしかして美佐緒ちゃんが…」
香川は嬉しそうに2人の後姿を見つめる。
俺はきっと真田が俺を気遣ってくれたのだろう、というのに気づいていたが
「うん、もしかしたらいい感じなのかもね」
と応えた。
そうして、先に坂本と真田がゴンドラに乗り込む。
仕方がないので、といっても俺は嬉しいのだが、俺と香川が一緒に乗ることになった。
「今日、夏休み最後だから花火が上がるらしいよ」
向かいに座っている香川が外を見ながら言う。
何だか緊張と密閉されているような空間にいるせいか息苦しく感じながら「そうなんだ」と相槌を打ち、自分も話し始める。
「本当に今日は楽しかったね。何もかも忘れてはしゃいだって感じでさ」
「うん、ホントに! また来れたらいいのになぁ。 いつかまたこのメンバーで来ようよ」
ニコッと笑いながら香川が言う。
話していないとゴンドラ内は静かになってその沈黙が重くのしかかってくるような気がしたので、俺は何かと話題を見つけて話し続けた。
内容は取り留めのないことだったが、俺たちはちょっとしたことで笑い、楽しむ。
「あ、もうすぐ花火始まりそ――ッ!!」
香川が言い追わないうちに物凄い音がして辺りが一瞬明るくなった。
「――す、凄いびっくりしたけど、こんなに近くで花火見たのは初めてよ。
音も大きかったけど花火も大きいのね。綺麗…」
「うん…。俺もこんなに近くで見たことなんて一度もないよ」
そうなのだ。
今まで遠くの方からしか花火を見たことがなかったので、今夜の花火は格段にインパクトがあった。
心臓が震えるくらいの爆音の後、大空一杯に青や緑、黄色や赤の花が開く。
開いた瞬間も綺麗だと思ったが、消えていく時の瞬きが星のようで更に美しいと感じた。
「そこじゃ見えにくいでしょ?こっちにおいでよ」
興奮気味な香川が手招きするので、言葉に甘えて彼女の隣に座って見ることにした。
花火は次々に打ち上げられて、空に様々な模様ができていく。
それを嬉しそうに眺める香川もいつになく魅力的に見えた。
「すっごく感動した! 私、今日の花火は一生忘れないと思う」
「俺も俺も!恥ずかしいけど、俺、涙出そうだったよ」
「恥ずかしくなんてないよ。私も泣きそうだったもん。
感動するって凄いことだよね。何か自分の体が自分でないみたい」
「うん」
そう言って香川の方を向くと、同時に彼女もこちらを向いていた。
思っていたよりも接近していたらしく、彼女が慌てて立ち上がったのだがバランスを崩したようで、
カクンと床に尻餅をつくような形になる。
「大丈夫?」
「あ、うん。私は平気」
えへへ、と彼女は笑って見せる。
俺はそんな彼女に手を差し出した。
「…あ、ありがとう」
「――俺…」
おずおずと伸ばされた手が触れた途端、自分の中で何らかの力が働いた。
俺はポロリと言ってしまったのだ。
ずっと言えないと思っていた言葉が。
「香川さんのことが好きなんだ」
「え…」
香川のボーっとした顔を見て、俺はやっと自分が何を言ったかを覚る。
「ごめんっ! 何でもないんだ。今の、忘れて」
彼女が口を開こうとした時、酷く焦った俺はまくし立てるように叫ぶ。
そうして丁度いいタイミングでゴンドラが下に着いた。
「お疲れー。こいつ、花火の音に驚いて椅子から落ちたんだぜ」
「ちょっと、それは内緒って言ったじゃない!」
真田と坂本がワイワイ騒いでいる中に俺たちは無言で合流する。
そうして「いい加減、帰宅しなければ家族が心配するだろう」と坂本が言うのでそれを合図に俺たちは急いで駅に向かった。
俺と香川は何も話さず、さよならの挨拶さえできなかった。
あんな感動した後に俺の一言で全てを台無しにしたのだ、俺と彼女の友情はきっと終わってしまっただろうと思い、
俺は彼女の顔も見れなくなってしまったのである。
夏休みが終わると、俺たちの学校は何やら殺気を帯びてきた。
夏休み前に教科書の内容を終わらせ、秋からはセンター試験形式のテストとその対策が全ての授業で行なわれることになるのである。
そんな学校にいる為、休み時間は真田たちと世界史の問題を出し合っていたのだが、
楽しみながらする分、よく頭に入ったので俺たち4人は世界史が得意科目だった。
更に、香川のノートには授業中に先生が何気なく話したことや、同じ時代に栄えていた近隣諸国の状況などを細かく書き込んでいるので
普通の簡単な問題に飽きた真田はいつも捻った問題を香川に出してもらっていた。
そんな中でも、俺と香川が自主的に会話をすることはない。
話をするまい、と思っているわけではないが、もし彼女が自分に話しかけられた時に嫌そうな素振りをしたら、と思うと
怖くて話しかけられないし、会話に入ることもできないのだった。
勿論、彼女は嫌な感情を露骨に表すようなことはしないし、
好きでない人に告白されても友達として付き合うことができる人であるのは知っている。
しかし、俺はあの日のことを思い出しては後悔し、今まで以上に臆病になっているのだ。
そんな俺たちの関係の変化を真田や坂本は聞いてこない。
多分、香川は坂本に、坂本は真田に相談してそうなので、原因は知っているだろう。
だが何も言わないということは、俺を同情しているのか、
陰で情緒のない奴と蔑んでいるのか、まぁ、俺の力ではどうしようもないくらい
香川は気分を害している若しくは傷ついているということになる。
こんな俺を一生彼女は許さないんだろうな、と思うと俺は次第に彼女から遠ざかっていくのだった。
−つづく−
あわわわ(><)
約半年ぶりですかΣ(・口・)
更新遅くてすみませんっっ!!!!!
原本があるので、いつでも終わるわぁ〜と他の連載を先回ししてしまって
こちらが凄く停滞してました^^;
さて、一応ここで大きなイベント終わりです。
どこまでも青臭い奴らです。
というわけで、もう少し続きますのでどうぞ興味を持たれた方は
暫しお待ちになってくださいね…^^;
それでは、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
吉永裕 (2007.5.15)
次に進む メニューに戻る