――次の日。
俺と坂本、香川、真田の順に人数が増えていったにもかかわらず、車内は空いていて全員座れてしまった。
夏休みの最後の日だから、人が大勢外出するものと思っていたのに少しも混雑していないので
俺たちの話す声はかなり響いていたようだ。
香川や坂本は特にご機嫌で、時折周りを気にして慌てて口に手をやって声を抑えるが、
それでもどこかワクワクした気持ちは抑えられないらしく弾けんばかりの笑顔を浮かべる。
「高校最後の夏だもん、楽しまなきゃね!」
そう言って目的の駅に着くと坂本は一番にホームへ降りた。
「何でこんなに空いてるの?」
坂本が遊園地に着いた途端に漏らす。確かにそこは夏休みにしては空いていた。
「ラッキーじゃない。待ち時間が短くて済むよ」
と俺が言うと、ポカーンと口を開けていた彼女がそっかぁ、と笑顔になる。
そんな親友を見て香川も微笑んだ。
白いシャツの彼女の笑顔は、いつも以上に輝いていて、太陽の光のように眩しく思えた。
「どのアトラクションに乗る?」
香川がそう言うと、絶叫系が好きな坂本は案の定
「勿論、アレよ!」
と県内一を誇る角度で落下するジェットコースターを指差す。
そこで俺は真田の脇腹を肘でちょんとついた。
「真田、行くか」
そう言って俺は真田とそそくさとジェットコースターに方へ向かう。
実は真田は絶叫系のアトラクションが苦手なのである。
あの落ちるまでの時間が大嫌いらしい。
「…すまん、拓。香川はともかく、坂本に知れたら…あいつ腹抱えて笑うに決まってるからな」
そんなことを言いながら既に顔色がすぐれない真田が先にジェットコースターに乗り込んだ。
「いえいえ。男には誰しも人に知られたくない弱点の1つや2つ、あるもんだよ」
『ガタン』
音がした途端、一気にジェットコースターは発進する。それでもまだまだ落下した時のスピードには及ばない。
それでも隣の真田の顔が次第に強張ってくる。何だか見ていて気の毒になってきた。
そんなに嫌なら無理に乗らなくてもいいのに…と思ったが、男の意地ってヤツかと笑ってしまう。
「――あ、落ち…――っぅ〜〜っっ!!!」
真田の声にならない悲鳴と共に速度を増して下降していくジェットコースター。
しかし何故か後ろの方から笑い声が聞こえてくる。
どこかで聞いたことのある声――言わずと知れた香川の声なのだが。
その彼女が狂ったかのように笑っているのだ。
確か、彼女たちは一番怖いと言われている最後尾に座っていた筈なのに、香川は心から楽しんでいるようだ。
「あー、楽しかった」
「私は恥ずかしかったわよ!ずっと冴子、笑ってるし。そっちの方が怖かったわ!!」
出口へと向かう彼女らは興奮冷めあらずという様子だったが、真田は悲惨だった。
「あぁ…気持ち悪ぃ……」
一足先に出口を出た真田はしゃがみ込んで俯いている。
「大丈夫か?次は落ち着いたヤツにしような」
そう言っていると坂本たちが寄ってきたので真田は慌てて立ち上がった。
本当に気の毒なヤツだと俺は真田を見て思う。
「次はお化け屋敷に行ってみよう!ここのお化け屋敷、リアルだって雑誌に載ってたんだぁ」
坂本はそう言うと元気のない真田の背中を叩き、「どぉしたのよ!だらしない!!」と一括すると彼の手を引いてお化け屋敷へと向かう。
真田もそこまで言われては男が廃ると思ったのか、今まで丸くなっていた背中を伸ばして坂本について行っていた。
そんな2人の様子を見て俺の隣にいた香川がクスッと笑う。
どうかした?と聞くと彼女は更に笑みを零す。
「実はね…美佐緒ちゃん――」
「え!? 坂本が真田を?」
俺がそう言うと彼女はうんうん、と可愛く何度も頷いた。
どうやら坂本が真田を意識し始めたのは真田が香川に告白をした時かららしい。
あの後、真田を追った坂本は何も言わずに傍にいただけだったらしいのだが
それまで知らなかった彼の弱い所や潔い所を知り、彼女の中で真田という人間が少し変わったのだろう。
それまでは気の合う友達、だったのが、好きな人に――
「だったら応援しなきゃ」
俺がそう言うと香川もうん、と大きく頷いた。
何だか2人だけで同盟を組んだような、そんな連帯感というか親密感が沸いて、俺は秘かに緩まる口元を押さえられずに
色んなアトラクションを見るフリをしてわざとキョロキョロと顔を動かす。
そうして俺たちはお化け屋敷の所にやってきた。
俺と香川は顔を見合わせる。
「行こうか」
「うん」
そう言って真田たちより先に扉をくぐった。
俺の心臓はアトラクションとは別の理由でドキドキする。
微かに俺の中に下心というか、変な期待があったのは認めよう。
しかし――
――香川に“普通の女の子”を期待した俺が甘かった。
聞こえてくるのは後からやってくる坂本と真田の叫び声だけで、香川は顔色ひとつ変えないのである。
しかも
「あの角を曲がった辺り、怪しい」
と推測すると本当に何かが起こるので、俺は香川にお化け屋敷を案内してもらっているような感じで出口までやってきたのだった。
「どうだ?何かあったか?」
出口までやって来た真田がこっそりと俺に尋ねるが、中でのことをそのまま話すと
「……まぁ…頑張れ…」
と同情される始末だ。
彼女は絶叫マシーンとか、お化け屋敷などの系統は大好きな女の子だったらしく、
その後も「きゃあ」という恐怖の声を一度も発することはなかった。
−つづく−
わぁ…ホントにどんどん更新が遅くなってしまってすみません(><)
2ヶ月ぶり!
申し訳ないです…。
さぁ、ドンドン青臭くなってきました^^;
高校生というよりは中学生みたいなヤツらですみません(;´▽`A``
予定では8話で終わるはずだったのだけれども…、
話の流れや長さで切っていった結果、あと4話は続きそうです^^;
あんまり劇的な内容はないですし
全然切なかったりキュンとしたりとかない平坦な話なので
退屈かもしれませんがどうぞもう少しお付き合いくださいませ…^^
それでは、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
是非また遊びにいらしてください♪
吉永裕 (2006.11.10)
次に進む メニューに戻る