3年生になると俺たちの通う学校は以前にも増してテストの回数が多くなり、テストの難易度も上がっていった。
俺は進級してから予習をサボりがちになったので国語と英語の成績が少しだけ低下していた。
そのことを担任教師から言われる度に何も考えず「努力します」と答える俺は今までと変化していない。
ただ、再び同じクラスになった香川とは、俺たちの共通の友人を含めた4人で話す回数が増えていったし、
そのときまでには自分の彼女に対する想いもはっきりと自覚していたので、俺はできるだけ彼女の傍にいられるように努力しているつもりだ。
しかし、彼女は秘密を作るのが苦手な性分なのか、何でも包み隠さずに話すので近づけば近づく程彼女のこと情を知り、傷つくことも多かった。
特に、彼女が友達と好きな人の話に夢中になっている時が一番つらかった。
彼女がどれ程相手を想っているか、どうしたら相手に想いが伝わるか、など分かり過ぎる程に彼女はストレートに話し、相談した。
そんな姿を見ていると、その想われ人が羨ましく、そして憎らしくも思える。
「私、友達以上に思われないんだ」
と少し寂しげに、しかし明るい声で香川が言う。
そうして仲のいい女友達にはなれるけれど、彼女にはなれないのよ、ともう一度言った。
「冴子が告白したら絶対大丈夫と思うけどなぁ」
俺の幼馴染の坂本美佐緒が彼女に告白するように促す。しかし彼女は首を横に振る。
「でもね、駄目だった時は今までの友達の関係が崩れるでしょう?私、それだけは嫌だから…」
「…もしそうなっても、香川さんが普通に接すれば向こうだって今まで通りにするとは思うけど」
俺はどう言うのがベストなのか分からなかったけれど、とりあえず香川を励ますことにした。
一応、彼女の友人として。
「まだ告白もしてないのにフラれること、考えるなって」
彼女のいる真田文孝が香川の頭をグッと掴んだのを見て、俺は瞬間カチンとした。
しかしその一方で、「おはよう」と香川の肩をポンと叩くこともできない自分の臆病さに苛立ち、真田を羨ましく思う。
その次の日、香川が博物館と美術館の入場券を持ってきた。そして明日は芸術の目を養わないか、と俺たちに向かって言う。
案の定、静かな所が嫌いな坂本は断った。真田は少し迷って
「明日行く気になったら行くよ」
と言って一応券を受け取った。俺は勿論行くことにする。
「明日は美術館、印象派展なの。それにね、博物館は南アメリカ展なんだって。すっごく楽しみ!」
「へぇ、そうなんだ。あ、そうだ。お金はどうしたらいい?いくらだった?」
そう尋ねると香川は両手とも横に振って笑顔で応える。
「いらないよ!これ駅で貰ったんだもの。逆に付き合ってもらう分、私が払いたいくらいよ」
俺はこういう彼女が好きだった。
そうして明日の集合時間と場所を決めた。
俺と香川と真田の3人で行くのは分かっているが、何となくデートのようで俺はドキドキする。
その日の帰りに玄関で香川と会った。彼女は図書室に行っていたらしい。
彼女が手に持っているピンクと黄色のチェックの鞄から本が5冊程見える。
「凄いね。それ全部一週間以内に読むの?」
俺は本当に驚き感心して言葉を漏らす。
「うん、週末は本を読むことにしてるの。どれも面白そうだったから全部借りちゃった」
「本が好きなんだね」
「うん。だって自分の知らないことばかりだし、物語とかって疑似体験をもたらしてくれるでしょ」
そう言う時の香川の瞳は、彼女の後ろで輝く夕日よりもずっと激しく眩い光を放っていた。
「小澤くんは勉強してたの?」
「うん、今のままだったら志望校に受からないから」
「ふーん、頑張ってるんだね。私、努力する人って尊敬しちゃう」
香川がそう言うと、たとえお世辞であっても嬉しく思われ、顔がにやけてしまう。
それを覚られたくないのと、落ち着く意味も込めて咳払いを2回する。
「だけど、勉強してると周りとか自分の身だしなみとか気にしなくなっちゃうから、
後で自分の姿を思い出すと凄く恥ずかしくなるんだ。頭、ポリポリ掻いたりするし…。
だから図書室って苦手でさ。いつも教室で勉強してるんだ」
そう言って俺が軽くははは、と笑うと香川は突然立ち止まって少し真剣な目で、しかし最高の優しい笑顔を向ける。
「何かに頑張ってる人は、誰だって素敵だよ」
そう言うと、少し自分が言った言葉が恥ずかしかったようでエヘヘ、と照れながら俺の隣に小走りでやって来た。
俺はその言葉が自分だけのモノだと思い喜ぶ。
自分だけに向けて発せられた香川冴子の言葉だと俺は思い込んでいたのだ。
−つづく−
第4話を書く時に、メモ帳に第3話が書いてあったので
てっきり第3話は更新してると思って第4話を書き上げて更新しようとして
「あれ〜!第3話更新してなかった!!」と慌てて同時公開することにした私です。
すぐに終わると思っていながら、更新が物凄くおそ〜くなってしまってすみません。
第4話の時点で物語の約半分まできました。
恐らく10話までは行かないでしょう。(←すみません、超えました^^; 完結後に追記)
ちなみに、「何かに頑張ってる人は、誰だって素敵だよ」は私の持論。
こんなことを好きな人にさらっと言える人になりたいです。
好きじゃない人には言えるクサイ奴なんですけど。
長々と話が続きますが、読んでくださってありがとうございます。
それでは、第4話でお会いしましょう^^
吉永裕 (2006.7.1)
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