「――ククルさんって、エドワードさんと負けず劣らずな苦労性じゃないですか?」
「なんだそれ」
「私の名前が入っているのが気に食わんな」

 少し離れた場所で二人の様子を見ていたククル、ヤン、エドワードの三人は鼻をすすりながら食堂を後にする。

「カルトス様から許可が出た時点でレイラ様をモノにしとけばこんなことには」
「アホか。元主に対してそれはねーよ。それに妹みたいなものだったしな。
 カルトス王が戻って来て、ホントに良かったぜ……」
「そうだな」

 ククルは大きく伸びをする。
これまでは国の為、レイラの為に生きてきたが、これからはカルトスに救われた命をこの場所で生きる者達の為に使おうと思った。
レイラが愛し、育むこの土地をいち早く復興させ、カルトスと彼女が幸せに暮らせる為に。

「――あ、そう言えば、最近メイドさん達と仲良くなったんですよ。
 レノンさんも戻ってきましたし、今度人数揃えて城の周囲の調査って言う名目でハイキングでも行きませんか?」
「お前は忙しい中でよくそんな時間がとれるな」
「今までおっさん集団の中で働いてきましたからね。こんな時くらい女性と関わって癒されたいんですよ」
「逞しい奴」

 共に協力し生きる仲間となった彼らは屈託なく笑い合う。
そこに一人の研究所員が駆けてきた。

「エドワード様、南海岸に数名のアーク人が打ちあげられているのを調査隊が発見しました。
 その中に金髪緑眼の青年がいるとのこと。意識がない者が多数ですが命に別状はないそうで、現在、こちらへ運んでおります」

 その言葉を聞いてククルはハッとする。
そして「さすがは光に愛された王子だ」と呟くと、レイラの元へ走って行った。

「……ククルさん、元気になって良かったですね」
「ああ」

 エドワードが頷くと、向こうから漸く両親に解放されたレノンがやってきた。
ヤンとエドワードは彼と握手を交わす。

「ヤン殿、あの時はすまなかった」
「ホントにねー、あれは痛かったですよ」
「……」
「こら、疲れているレノンをこれ以上困らせるな」

 そう言うと三人は笑い合う。

「本当によく戻った。
 ――ラスティア山を目指した王の狙いは正しかったのだな」
「はい。山の七合目辺りまで津波が来ましたが、頂上付近にいた者は皆無事でした。
 しかし、崖崩れや食料不足で命を落とす者もおり……現在の人数しかここまで辿り着けませんでした」
「そうか……。だが、それは仕方のないことだ。
 お前やカルトス様の力ではどうにもならないこと故、気に病み過ぎてはならぬぞ」
「はい」
「――あの…唐突で申し訳ないですが、レノンさんの目ってそんな色でしたっけ……?」

 ずっとレノンに違和感を感じていたヤンは何かに気付くとポンと手を叩き、彼の目をじっと見つめる。
彼のその言葉でエドワードもレノンの異変に気付いた。
これまで茶色だった瞳はほんのり赤みが増している。

「お前の虹彩はそんなに赤みが強かったか?」
「鏡を見ていないのでよくは分かりませんが……カルトス様も以前そのようなことを言っていた気がします。
 丁度その頃から若干ですが回復魔法が使えるようになりました。
 もしかすると関係があるのかもしれません」
「へぇ…それは興味深いですね。
 ――ああ、早く技術を元の水準まで戻して研究したいなぁ」
「ふむ……。
 だが、魔法が使えなかったお前が使えるようになるとは、余程必要としたのだろうな」
「はい。周りが自分の体力を削って怪我人の傷を塞ぐ間、自分は何も役に立てなかったのが酷く口惜しく…」
「お前らしいことだ」

 そう言ってエドワードはレノンの背中を軽く叩いた。
華奢ながらも筋肉で覆われていた彼の体はすっかり骨が浮き出てしまっている。

「とにかく今日は粥でも食べて寝ていろ。病と死は魔法ではどうにもできぬ」
「は」
「じゃあ、食堂に行きましょうか。
 さっきまでカルトス様とレイラ様がラブラブしてたんでおかしな雰囲気かもしれませんけど」

 ヤンの言葉にレノンは微笑む。

「きっと元気になったらレノンさんもレイラ様に叱られると思いますよ。
 覚悟しといてくださいね」
「了解した」

 そうしてレノンを真ん中に挟んだヤンとエドワードは彼に肩を貸すとゆっくり食堂へ向かった。
レノンはレイラ達が作り上げた手作りの家や水道、畑などに目を細める。
地面にはポツポツと芽を出す草花が。
恐らく津波によって流された種があちこちで発芽し始めているのだろう。

「自分は戦うことしか能がないが……農夫をしながら暮らすのは楽しそうだな」

 珍しく独り言のようなことを言うレノンにヤンとエドワードは顔を緩める。
自分達は武器を持つよりも鍬や鋤を持つ方が性に合っているのかもしれない、とエドワードは思った。

「レノンさんは植物好きですし、すぐ慣れますよ」
「そうだろうか」
「だが、それも体力が戻ってからの話だ」
「は」
「――あ、あれは……」

 あともう少しで食堂の入口へ辿り着くという時、中から短い金髪の女性が顔を出す。
ククルから報告を受けたからか、それともカルトスと想いが通じたからかは分からなかったが、彼女は眩しい笑顔を向けた。

「――お帰りなさい、レノン!
 特製のお粥ができてるわよ」

 そう言って手を振るレイラにレノンは頭を下げた。
美しい金髪を揺らす彼女はまるで明け方の太陽のようだと思った。













―完―




……というわけで、無理矢理感あふれる終わりでした^^;
それまでもかなり酷い内容ばかり(協定とかバーン人移動とか津波後で塩にやられてるのにすぐに畑作れた件とか)だったのですが、この終わりは酷すぎるヽ(・∀・)ノ
でも、自分としてはカルトスとレイラの政略結婚コンビがちゃんとしたカップルになって欲しかったので満足しているのです^^;

端折って書いていないですが、最終的にアーク国のレジェンスやククルの両親なんかは助かり組です。
レジェンスの両親やシャル、ランは死亡組のつもりで書いています。
そしてレジェンスが持っていた荷物というかトランクの中にアーク国の宝玉が入っています。
どうしてそのメンツが助かったの!?なんて聞いちゃだめなんだぜ(笑) 心の清い人が助かるんだよきっと。宝玉様々(^u^)
ランくんは原作ではヒロインのヒーローになることで主役になれる子ですが、
ヒロインがいない世界ではただの商人なので、津波に呑まれてしまう可哀相な役です。この作品には全く書いてないけどね^^;

それ以外にも文章に書いていないことが沢山あります(;一_一)

アーク国の王が狂乱したのに、年若いカルトスが落ち着いているように見えるのは、弟が死んだ時点で狂っているから(これ以上狂いようがないと本人が思っている為)とか
転送魔法の説明(送信側の物質を一度原子や分子の状態に分解した状態、即ち物質の情報を転送し、受信側で再合成する)とか、
テーラーやアーク兵の乗っていた馬は道中で皆の貴重な栄養源になってしまったとか、
テーラーはサウスランドの神様の名前をもじってつけた(両親は嫌っているとはいえ、レノンとしては一度両親の生まれた場所を見てみたい的な思いがあるみたいな)とか
出てこないけどカルトスの馬の名前はミーティア(黒馬の牝)で、バーン人の出身地であるブルー諸島近辺の神のミーシャの名をもじってつけてるとか
レノンの目が赤くなったのはカルトスと共鳴しすぎたことも原因とか……。
こういうのって考えるのは凄く楽しいんですが、全てを文章中に入れようとするとおかしなことになってしまうので泣く泣く削除します^^;
直接的に書かなくても、表現で感じ取れるような文章力や構成力を身につけたいところですorz
いつかこういう裏設定的なものをまとめて、攻略本というかデータブックみたいなもの作ってみたいなぁ。

てなわけで、思いがけず本文も後書きも長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださったお客様、本当にありがとうございました!


吉永裕 (2010.11.3)



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追記:名前変換小説部屋にある ArcBarn in mirage (サイト8周年記念 2013.11.3公開)がこの話とリンクしていますので、よろしければ。
    主人公兼ヒロインは名前変換できるキャラ(デフォルト:ユウ)でエドワードと結ばれている結末後の話ですので、
    そういうのが苦手な方はご覧になるのをお控えください。