「――転送完了しました!成功です!!」
「皆様、ご無事で……っ?」

 眩しい光に包まれ思わず目を閉じたレイラが次に目を開けた時、その視界に入ってきたのは薄明かりに照らされた無機質な壁だった。
あっという間にヤンと同じ水色のコートを来た研究所員たちが自分達を取り囲む。

「エドワード様とそのアーク軍の兵士は予定には入っておりませんでしたが……、それよりカルトス様とレノン殿はどうされたのですか!?」

 その言葉でレイラの目から再び涙がこぼれる。
カルトスとレノンの並んだ姿が頭に焼き付いて離れなかった。
手で顔を覆って嗚咽を漏らすレイラの隣にククルは黙って座っている。
誰もが皆、彼らとの別れを納得していなかった。

「……実は…」

 ずっと黙っているわけにもいかないので、同僚の手を借りてゆっくり立ち上がったヤンは事の次第を話した。
全てを聞いた所員たちは言葉にならないような声を上げて嘆き悲しみ始める。

「――すまない…」

 辺りに響くすすり泣く声に耐えきれず、ククルは手を地についた。
しかし彼を責める者は誰もおらず、先程まで彼を拘束していたエドワードが彼の肩を優しく叩く。

「王が決めたことだ。貴殿が気に病む必要はない」
「だが、一般兵の俺だけが救われて、お前たちの王は敵国の兵を助けようと危ない地上に残ったんだ!
 アーク国が攻めなければ、今頃あの二人はここにいたんだろ!?」

 ククルの悲痛な叫び声を聞き、レイラはゆっくりと顔を上げた。

「――どうしてあの方はそんなことができるのかしらね…。
 敵国の王の娘と結婚し、いいように協定を結ばされ、それでいて私に優しくしてくれた。
 そしていち早く民を安全なところへ逃がし、自分を囮にして敵国の兵までも守ろうとするなんて……私には、考えも及ばない。
 ……嗚呼、私は…あの方に馬鹿と言ってしまった。
 馬鹿なのは…私なのに……」

 今にも血が出そうな程に唇をかみしめるレイラがいたたまれず、エドワードは隅に用意していた毛布を彼女の肩にかけた。
ヤンは所員に湯を沸かし温かな食べ物を用意するように伝える。

「ごめんなさい……」

 レイラは所員たちに頭を下げた。
肩に掛けられていた毛布がずるずると床に落ちる。

「私はこの国にとって害にしかならなかった……。
 アーク国が崩壊した今、もう私などただの使えぬ女です。捨て置いて構いません」
「――レイラ様、そんなこと言わないでください。
 忘れたんですか?カルトス様の言葉を。
 新しい国を作るのに必要なのは、貴女なんですよ」
「でも……」

 ヤンはホットチョコレートの入ったカップをレイラに差し出す。
そしてにこっと笑った。

「カルトス様と同じ夢を見ていた貴女にしかできないことだと思います。
 どうか、遺された私達の為にも生きてください」
「ヤン……ありがとう」

 レイラは受け取ったカップにゆっくりと口を付けた。
ホットチョコレートは身体が溶けてしまいそうな程に温かくて、美味しかった。




――第三章 最終話へ






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