8.真実
カルトスらと決着をつけることになったレジェンスたちはラスティア山の麓の町の宿屋に泊まることにした。
バーン国一行も同じ町の違う宿に泊まっていることだろう。
「よく休むといい」
「うん」
安奈を気遣うように優しく声をかけたレジェンスはそっと彼女の背中に触れた。
そんな彼の顔を見れずに安奈は部屋へと向かう。
他の者も彼女の意気消沈した様子に気づいてはいたが、何も言うことができずに各自、無言のまま自分の部屋に入っていった。
「――明日、全てが終わる。戦うことで……」
先程のバーン国の者たちとのやり取りを思い出し、安奈は苦しそうな表情を浮かべてため息をつく。
命を落とす程の戦いにはならないかもしれない。
もしかしたら政治的な取引のような話し合いをするだけかも――そうは思いながらも、安奈は自ら首を振った。
あんなピリピリとして今にも剣を抜きそうだった彼らを見てしまったら、平和的な話し合いなんて確実にできそうになかった。
「もし、激しい戦いになったら……」
ポツリと呟いた自分の声に恐怖が湧きあがってくる。
誰か酷い怪我をするかもしれない。
最悪、死の危険もあるかも――
ドクン
突如、思考を遮る程の胸の痛みが安奈を襲った。
「っ……また――」
昼間に襲ったものよりも更に激しい痛みに安奈は思わず意識が飛びそうになる。
しかしその瞬間、目の前に懐かしい映像が次々と浮かび上がってきた。
台所で料理を作る母親の背中を見ながらままごとしていた幼い自分、女友達と手紙をやりとりすることに夢中になっていた小学生の自分、
好きな男の子に告白することすらできなかった学生時代の自分、希望の大学に入学して嬉しそうにスーツを着て入学式に出席する自分、
そして大学へ向かう途中に事故に遭った自分――
――そう、今なら思い出せる。
見通しが悪くていつも気をつけていたのに、あの日は急いでいて周囲を確認せずに曲がってしまったのだ。
そうして「あっ」と思った瞬間、出会い頭に車とぶつかった。
その後のことも思い返せる。
急に辺りがシーンとなり、自分がまるでその場に存在しないかのように客観的に世界を見降ろしているような感覚。
そんな中、辺りをきょろきょろと見回していると、足元に倒れている自分が見えた。
頭から血を流し倒れて動かない自分の姿に慌てて手を伸ばしたが、突然、何らかの力によってその場から引き離されて光に包まれたのを覚えている。
――これまでの全てを思い出し、安奈はある結論に落ち着いた。
この世界は自分が生まれ育って来た世界とは根本的に違う、別の世界だということ。
そして、何が原因かは分からないものの、恐らくあの事故によって自分の精神もしくは魂だけがこの世界に飛ばされたのだということである。
これまで幽体離脱や魂の存在など信じてはいなかった安奈だが、
自分がこの世界の住人ではないと分かったと同時にこの世界の異質さを頭が勝手に理解していた。
ここは本や映画に出てくるファンタジー世界そのものだから。
「――この世界は魔法の存在する世界。
そして魔法とは、人々の強い想いを具現化したもの……」
安奈は以前にシャルトリューが話していたことを薄らと思い出す。
自分は生きたいと思っていた、いや、当然のように生きていると思っていた。
だから魂だけの状態でもこの世界では人として形作られたのだ。
恐る恐る安奈は部屋の鏡へ近づき、ゆっくりと自分の顔に手を伸ばす。
記憶を無くした状態ではどこか自分ではないように思えていたこの顔も、今では懐かしく思える。
すると、次第に鏡の中の自分がぼやけてきた。
そして浮かんでくるのは幾重ものチューブやコードに繋がれている自分――あぁ、あれは向こうの世界の自分だ、と思った。
自分、というよりも自分の身体という方が正しいような気もする。
そこに何故か聞こえてくる医者の声。
「明日が峠です」
その言葉が終わるより先に両親はわっと泣きだした。
そんな姿に安奈の目からも涙がこぼれる。
しかし、涙の流れる感覚で意識がこちらの世界に戻った安奈はハッとした表情を浮かべた。
「――もし、私の本来のカラダが死んだら……魂もなくなる筈よね?
そしたら、今ここにいる私は……消える!?」
きっとあのまま向こうの世界で大学生をしていたらこんなことなど考えもしなかっただろう。
だが、実際に自分が今、身体を離れて別の世界で生きている状態なのだから魂やら精神やらはきっと存在するのだと安奈は実感していた。
そして次第に嫌な予感が膨らむのに比例して、胸の痛みだけでなく頭も痛くなってきた。
きっと感覚は共有する部分があるのだ、と自分の頭に手を添えながら安奈はうずくまった。
「私……2回、死ぬことになるのかな」
向こうの世界にいる友人や家族を思い浮かべた安奈の頬に再び涙が流れる。
身体の震えも止まらない。
「――レジェンス」
不安と恐怖に押しつぶされそうになった彼女は思わず彼の名を呟く。
その瞬間、安奈はあることに気づいた。
当たり前のことだが、自分が死んでしまったらもうレジェンスとは一緒にいられないのだ。
彼を城から連れ出すという約束も果たせない。二度と彼の優しい笑顔も見れない。
――そんなの嫌だ。
半狂乱状態で安奈は部屋を飛び出し、レジェンスの部屋へと向かう。
死よりも彼と離れることを恐れる自分の感情を今になって漸く彼女は理解した。
遠くからでも彼だと見分けられるのは、彼の言葉や仕草に顔が熱くなるのは、彼が理想の王子様だからではない。
彼の立場や境遇、性格や外見、雰囲気、全てを含めて“レジェンス”という一人の人間を自分は愛してしまったのだと。
リメイクなのに遅くてすみませんっっ!
R指定の部分まで書けませんでした^^;
が、キャラによって今後の展開を変えようと思っています。
皆が皆、R指定な最後の夜の過ごし方しなくてもいいじゃない、と思って。
…と書くと嫌な予感がされるかたもいらっしゃるかもしれませんが、
殆どがR指定なしの内容になると思います(;一_一)
でも、そっちの方が自然だと思うんだよね……。
原作の方は分岐小説だし皆、統一というか平等にしなきゃ的な気持があるので
有り得ないキャラでもそんな展開にしておりましたので、ずっとそれが引っ掛かっていたのでした。
なので、リメイクではそのキャラらしさを追求していくつもりです^^;
…というわけで既に言い訳がましいですが(汗)、読んでくださったお客様、ありがとうございました^^
次をお楽しみに(?)
吉永裕 (2010.1.4)
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