3.赤い宝玉



 安奈がレジェンスたちと出会ってから約1週間が経った。
その間も聞き込みを続けて朱玉(しゅぎょく)の情報を得た一行は、朱玉があると思わしきリース村にやって来たのだ。

「ホントにあるんでしょうか?」

 安奈はきょろきょろと辺りを見回す。
同じように周囲を確認していたシャルトリューは口を開いた。

「一見、小さな村ですが市場が賑わっています。この規模の村にしては食材が豊富ですね」

 彼の言葉にククルは頷く。

「どうやらここは豊作のようだな。他の地域は日照り続きで収穫量が落ちてるってのに」
「それって……やっぱり宝玉の力なんでしょうか」

 安奈は道端に並んでいる出店のような店を覘きながら彼らについていく。
これまでに寄った町よりも小さいが、村は確かに栄えていて活気に溢れていた。

「確証はないが、調べてみる価値はあるだろう」

 レジェンスがそう言うと、皆は頷く。
するとシャルトリューは全員の方を向いた。

「では、まずはただの観光客になりすましてこの村のことを探っていきましょう」
「そうだな。あまり目立った行動は慎むこと。それから、直接的な質問も駄目だ」
「もしかしたらボクらの敵になるかもしれませんしね」

 ククルとランの言葉に安奈とレジェンスは頷く。

「そうだな。宝玉の確証が得られるまでは言動に気をつけよう」
「わかりました!」

 もしかすると村全体が敵になるかもしれないという思いで、今までにないピリっとした雰囲気が安奈たちを包む。
しかし、観光客になりすますと言っていたが自分はどうしよう、と安奈は思っていた。
そしてあることを思いつく。

「じゃあ、私、広場で観光してます。そこで歴史のこととか聞くふりをして探りを入れてみます!!」

 拳を握り、意気揚々としている安奈の姿を見てレジェンスはくすっと微笑んで口を開く。

「アンナは、頼もしいな。よし、私が同行しよう」
「うん!頑張ろうね!!」

 彼の言葉に彼女は嬉しそうに頷いた。
この1週間、自分の意思もあるけれど彼と一緒にいる時間が一番長かった。
勿論、他のメンバーも皆優しくしてくれるし、機会があったら長く話すこともあり、自分としては全員同じように接してきたつもりだ。
 それでも振り返るとレジェンスと一緒に話をしたことや、夜空を眺めたことなど、彼に関することは些細なことでもはっきりと覚えている。
きっと彼と一緒にいる時の穏やかな時間の流れが好きなのだろう、と安奈は思った。


「気持ちのいい天気ね」
「そうだな」

 広場の中心に立っていた安奈はうーんと背伸びをしながら空を眺める。
そこには雲ひとつない青空が広がっていた。
そんな空と彼女を眺めるレジェンスも心なしか頬が緩んでいる。

「――あ、ここって昔から栄えてるのかな? 広場の銅像とか見る限り、何か古い歴史がありそうな感じだけど」

 安奈は広場の中心に立っている銅像や家の様子をじっと観察し、その銅像の風化の具合や家の壁などがかなり古いものだと察した。
そうして辺りをざっと見回すと、村で一番大きい木の下で絵を描いている老人を見つけたのでそちらへゆっくりと歩み寄る。

「すみません」
「何かの?」

 老人は手を止めて安奈を見上げた。
彼のキャンバスには木炭で広場の和気藹々とした様子が描かれている。

「この村の建物を見るに、長い歴史があって落ち着いた雰囲気のように思えるんですけど、市場とか栄えてますよね。
 昔からずっと栄えてるんですか? ……あ、もしかして何か特産物や有名なものがあるんですか?」

 無邪気な様子の旅人を微笑ましく思ったのか、老人は木炭を置き思考を巡らせる。

「そうじゃなぁ。昔は普通の村だったんじゃが……そうそう、ここ10年くらい前から豊作が続くようになったかの」
「そうか、ここは恵まれているのだな。そんなに肥沃な土地にも見えないし、水場も遠いというのに」

 老人の言葉を聞いてレジェンスは驚いた様子で頷いてみせる。
そして安奈も「へえ」と声を上げた。

「まるで魔法みたい。急に豊作が続くなんて。
 土地って作物を作り続けたら痩せてくものよね? ちゃんと毎年畑を変えて休ませてるのかな」

 そんな彼女の言葉に老人は感心した様子で頷いた。

「そのような土地はこの村にはないわい。 本当にお前さんの言うとおり魔法のようじゃな。
 ――ふむ……魔法、のう。 そういえば、北の洞窟にある石のおかげという噂もちらほら耳にするわい。
 まぁ、昔この村に立ち寄った怪しい男が言った言葉じゃから、誰も信じちゃいないがのぉ」

 老人は顎鬚を撫でるように触りながら「ふぉっふぉっふぉ」と笑い声を上げる。
彼の話にレジェンスと安奈は顔を見合せて一瞬ニコッと笑った。

「興味があるな……。その石は見ることは出来るのだろうか?」
「うんうん!! そんな凄い石、一度見てみたい!」

 今にも洞窟に走り出しそうな勢いで安奈が老人に詰め寄るが、彼はゆっくり首を振る。

「それは難しいじゃろうなぁ。あの洞窟には魔物が住みついておる。簡単には近づけないんじゃ」
「なに、魔物とな。周辺には魔物による被害はないのか?」

 魔物という言葉を聞き、レジェンスは真剣な表情で老人に問いかけた。
そんな彼の姿に安奈は彼の王子という側面を垣間見る。

「ああ、それは大丈夫じゃ。無暗に近づきさえしなければ、向こうからは襲ってはこない。
 比較的、おとなしい部類の魔物かもしれんのぉ」
「そうか、それなら良いが…」

 老人の言葉を聞き、肩の力を抜いて再び微笑むレジェンス。
そのような彼を見て安奈もホッとした。

「そっか。でも、それなら近づかない方がいいね。一度見てみたかったのに、残念……」

 先程の石について話を戻し、安奈はがっかりした様子で項垂れた。
そんな彼女の肩をレジェンスは軽く叩く。

「仕方ない。観光を続けよう」
「そうだね。おじいさん、面白いお話してくれてありがとう!」
「こんな老人の話でよければまた来ておくれ」
「はいっ!」

 そうして別れの挨拶をして安奈たちは老人から離れる。
何だか思いがけず演技をした自分たちが面白おかしく思えて、安奈は宿に戻るまでの間ずっと笑いが堪えられずに肩を震わせていた。
レジェンスも笑いを堪えているような様子である。

「うまくいったね! ――っふふっっあははっ……もぉ、レジェンスったら意外とノリノリじゃない!!」
「アンナこそ、あんなに無邪気な笑顔はなかなか作れないものだぞ。そなた、演技がうまいな。ふふっ。
 ――とりあえず、宝玉の場所もわかったし簡単には手に入らないこともわかった。
 これで今日の仕事は終わりだな。では宿に戻ったら明日の計画を考えよう」
「うん!!」

 そうして2人は笑いながら宿へ戻っていった。



 次の日、一行は朱玉があると思われる洞窟へやってきた。

 「ここが例の洞窟か」

 暗い奥を眺めてレジェンスが呟くと、シャルトリューは頷いて口を開く。

「不思議な力を感じます。どうやら、噂は本当のようです」
「つまり、本物の朱玉ってことですね」

 ランは真剣な表情でトンファの位置を確かめる。
もしかすると魔物と戦うことになるかもしれない、と誰もが思っていた。
老人は比較的おとなしいと言っていたが、彼らのテリトリーに足を踏み込めばきっと攻撃の一つや二つしてくるに違いない、と安奈も思う。

「気をつけろよ。どこから魔物が襲ってくるかわからないからな」

 ククルのその言葉で全員は洞窟に足を踏み入れる。
一人取り残されるのも怖かったので、安奈も彼らの後ろに続いた。


 洞窟内はひんやりとした空気が辺りを包んでいる。
しかし微かに何かが中にいるような気配も感じた。

「――何だかドキドキしてきた」
「大丈夫か?」

彼女の言葉で前を歩いていたレジェンスが歩みを止める。

「う、うん!ちょっと洞窟の中が暗くてジメジメしてるから気色悪いな〜って思って」
「そうか。今の所、魔物も出て来ていないしアンナは何も心配しなくていい」
「うん。ありがと、レジェンス」

 彼の言葉と優しい笑顔に励まされた安奈は笑って頷いた。
王子という身分であるにもかかわらず、彼とは全く関係のない自分を気遣い、守ろうとしてくれるレジェンスに安奈は頼もしさを抱く。
足もとが湿っていると腰に手を添えてエスコートしてくれたり、優先的に安奈の足元を照らしてくれる彼はまさに紳士であり、
恐らく少女なら誰もが一度は夢見る理想の王子様の姿だった。
 しかしその後もまだ朱玉らしきものは見当たらず、薄暗い洞窟の中を一行は更に進んでいく。
すると突如――

「ギャオーン!!」

 洞窟内に響き渡る声。壁面に共鳴してその不気味さは増して聞こえる。
その恐ろしさに安奈は思わず身をすくめた。

「大丈夫だ、アンナ」

 魔物であろう声に怯えて顔を蒼白にした安奈をレジェンスは抱き寄せた。
思いがけない彼の行動に安奈は先程以上の驚きを隠せず戸惑う。

「れ、レジェンス!?  あの、放して? 戦いの邪魔になっちゃう」
「平気だ。それに、そなたを1人にする方がずっと心配だ」
「レジェンス」

 先程の優しい笑顔ではなく、強い瞳で洞窟の奥を見据える彼がとても凛々しく見えた。
安奈は彼の胸に押しつけられたような状態で小さく「ありがとう」と呟く。
 そうして首を動かして辺りを見ると、暗闇の先に光がいくつか見えた。
どうやらそれは魔物の目らしい。
それを見たククルは大きな剣を鞘から抜き、肩に担ぐようにして持つと左手を腰に当てる。

「キラーウルフが4匹か。まぁ、何とかなるかな」
「しかし、ここは狭くて暗い洞窟の中です。むやみに壁を壊さないように」
「了解です!!」

 余裕を見せるククルにシャルトリューは冷静に忠告すると、彼の隣にいたランも頷きトンファを抜いた。
そうして彼らは戦闘体制に入る。

「アンナ、心配するな。私がついている」
「うん」

 そうしてレジェンスはその言葉の通り、ククルたちの隙をついて襲ってきた魔物を、安奈を片手に抱いたまま持っていたレイピアで素早く倒した。
その後、全ての魔物を倒したことを確認し、彼は安奈から手を放して顔を覗き込む。

「怪我はしてないな?」
「うん。……ありがとう」

 ちゃんと顔を見て礼を言いたかったにも関わらず、何故か胸がドキドキとざわついて安奈はレジェンスの顔を真っ直ぐに見れない。
魔物が目と鼻の先まで襲い掛かってきた恐怖なのか、それとも地に倒れている血を流した魔物たちの姿に怯えているのか、
もしくは――レジェンスに対してのものなのか、今の安奈にはこの鼓動の早まる意味が分からなかった。


 魔物を倒した彼らは、更に奥へと歩を進める。
次第に安奈は表現し難い空気の流れのようなものを感じ始めていた。
引き寄せられるような不思議な感覚。

「……何か、変」
「大丈夫?」

 ランが心配して声を掛けてくれたものの、この不思議な感覚が収まる気配はない。
すると突然、シャルトリューが立ち止まる。

「どうやら、宝玉まで近いようです」
「……魔物の気配もするぞ」

 シャルトリューとククルは低い声を出した。
彼らの声のトーンに安奈の緊張は高まる。

「宝玉が魔物を惹き付けているのかも知れないな。
 不思議な力を持つと言われている石だ。油断せずに進むぞ」

 そうして一行はカーブしていた洞窟の奥へと進んだ。


「――あれか?」

 先頭のククルが足を止めたのを合図に安奈たちも歩みを止める。
目の前の行き止まりにひっそりと光を放つ石が岩の上に乗っていた。

「あれが朱玉?」
「アン、ちょっと待って!!」

 宝玉の方へ行こうとする安奈をランが制する。

「どうやらこの洞窟の主が来たらしい」

 レジェンスがの言葉と同時に、グルルルルと唸り声が辺りに響く。
そして5人の前には狼の3倍はある大きさの魔物が現れた。

「少し手強そうですが、何とかなるでしょう」
「ランはアンナを頼む。ククル、シャル、行くぞ!!」
「はいっ!」
「仰せのままに」

 そしてククルは大きな両手剣を構え、レジェンスは細いレイピアを構える。
シャルトリューは精神集中し、呪文を暗唱し始めた。

「はぁっ!!」

 ククルは前に出て魔物の攻撃をかわしながら注意をそらして反撃し、その合間にレジェンスが光の弾のようなものを魔物に放つ。
攻撃を受ける魔物は次第に弱ってきたのか動きが遅くなるものの、それでも激しく彼らに襲いかかっていく。
そんな状況をハラハラしながらランの後ろで見守っていた安奈の耳に、シャルトリューの声が微かに聞こえた。

「シャルトリュー・ノルディックが命ず。かの者の動きを封じたまえ」

 彼が呪文を唱え終わると手の先から光がほとばしる。
すると魔物は身体を硬直させ、ピクピクと小刻みに震え始めた。

「何が起こったの?」

 安奈はランに今起こったことを聞く。

「あ、アンはシャルトリューさんの魔法を見るの、初めてだっけ?」
「魔法!?」

 知識として知ってはいるものの、実際にそんなものがあるのか考えたこともなかった安奈は驚くが、
先程、レジェンスが魔物に投げつけていたように思えた光の弾も魔法だったのかと思い至り、彼女はふんふんと何度も頷いた。

「さっきの魔法は相手の動きを封じるものだよ。こんな狭い洞窟じゃ、攻撃系の魔法は使えないんだって。
 シャルトリューさんの魔法って強力だから」
「へえ」

 よくは分からないが、この世界には魔法が当たり前のように存在し、
シャルトリューやレジェンスのようにそれを使える者もいるのだろう。

「よし、トドメを刺すか」

 魔法について考えを巡らせていた安奈の耳に突如入ってきたククルの声で、彼女は慌てて顔を上げた。
そして未だに魔法の効果で動けない魔物を見つめる。
何か確信があったわけではないし、魔物の気持ちが分かるなどということがある筈もないが、
老人の言っていたことを思い出したのと、直感的な感覚を信じて安奈はククル達の前に飛び出した。

「ちょっと待って!!」
「何だ?」
「殺さなくてもいいでしょ? 今、あの魔物は動けないわけだし。早く朱玉を回収して、ここから出ようよ」

 彼女のその言葉に全員が言葉を失う。

「つまりこの魔物を助けろと?」

 キョトンとした様子で問いかけるククルの言葉に安奈は頷き、口を開いた。

「うん。だって、この魔物は今まで人間に悪いことをしてきたわけじゃないでしょ?
 たまたま私たちが彼の縄張りに来ただけ。……だから殺さないで欲しいの」

 綺麗事かもしれない。それでも意味もなく生き物を傷つけて欲しくなかった。
安奈には何となく魔物の怒りが伝わっていた。
それは憎しみとか単なる殺傷衝動とかではなく、自分のテリトリーに入ってきた者たちに対する一種の本能的な防衛反応だと。
 それに宝玉を手に入れた後のことが気になった。
宝玉の力によって栄えていたリース村は、これから一体どうなってしまうのか。
――そんなことを考えたら、これから自分たちは“この大陸を救う”という大きな目的の為に他の色々なことを犠牲にしていくような気がして、
それはあまりにも自分勝手だと思えたのだ。
だから今目の前にいる魔物は助けたいと思った。 小さなことだけれど、今の自分にできることはこのくらいしかできないから。

「貴女は優しい人ですね」

 安奈の深刻な表情とその想いを感じ取ったのか、シャルトリューは苦笑しながら口を開いた。
他のメンバーも笑って武器を収める。

「そ、そんな優しいとかじゃ……」

 安奈が手を振って否定していると、後ろからククルが頭をポンと軽く叩いた。

「じゃあ、さっさと朱玉を手に入れてここから出るぞ」
「うん!」

 笑って頷くと全員が朱玉の方へ振り返るが、一人レジェンスは笑顔で手を差し出す。

「さぁ、行こう。アンナ」
「うん」

 自分がお姫様にでもなったかのような気持ちになりながら、彼女は彼の手を取り、朱玉の所へ向かった。
そうして目の前の朱玉にそっと触れる。

「……そう、この感じ。体が引っ張られるような不思議な感じ。 やっぱり朱玉から放たれていたのね」

 そう呟くと、一同は不思議そうな顔で安奈を見つめる。

「お前、何か不思議な力でも持ってるのか?」
「え? 皆はしなかった?」

 ククルの質問に思いがけない様子で答えた彼女に、更に彼らは首を捻る。

「もしかしたらアンナは強い魔力を持っているのかもしれませんね。 この朱玉に秘められた魔力と同じ程の……」

 ひっそりと呟くシャルトリューの言葉を聞いた全員は驚き、中でもランは「凄いよ、アン!」と興奮しながら笑顔を向けた。

「でも自分自身は全然……そういう魔力とか分からないんですけど」
「そういうものですよ。魔力は目には見えない想いの力。 貴女が真に求める時、きっと魔力は目に見える形で現れるでしょう」
「それが魔法、ですか?」
「ええ、そうです」

 穏やかな表情で頷くシャルトリューの言葉を、安奈は呆然と頭の中で繰り返す。
魔力は目には見えない想いの力――か。
 いつか自分も魔法を使えるようになったらもう少し皆の役立てるのではないかと思い、安奈はシャルトリューの言葉を信じた。
自分にも魔力があると思うだけで、何だか少し強くなった気がしたのだ。

「では、朱玉探しはこれで終了だな」

 そうしてレジェンスが小さな箱に朱玉を収め、その場から立ち去ることになる。
その前に、安奈は未だに動けないものの少し落ち着いた様子の魔物の元へ向かった。

「ごめんね、私たちはあの石がどうしても必要だったのよ。
 最初から貴方や仲間たちに危害を加えるつもりはなかったの。――どうか人間全てを嫌わないで」
「グルル……」

 安奈の想いを感じ取ったのか、その魔物は小さく声を上げた。
そうして彼らは足早に洞窟を後にしたのである。



「まずは1つ目だな」
「あとはアーク国に3つ、バーン国に4つか。まだまだだな」
「結構大変そうだね」

 宿屋に戻ってきた一行は今後のことを話し合う。
今までのことを思うと安奈は先が思いやられた。
 町や村で情報収集をし、残りの宝玉を集めるなんて一体あとどのくらいかかるのだろう。
両手で頬杖をつきながら彼女ははぁ、とため息をつく。

「でも、今回は位置の把握に時間がかかりましたけど、他の3つの宝玉は代々守り継がれているって話ですし大丈夫ですよ!」

 安奈を励ますかのようにランは元気のいい声でそう言うと、彼女を除いた全員が頷いた。

「そうですね。宝玉を守っている町はホーリー家と親交がありますし、
 王子が旅をしていることも連絡が行っているでしょうから、きっと協力してくれる筈です」

 ランとシャルトリューの言葉に背中を押されたような気持ちになって、一気に気力が復活した安奈は笑顔でぐっと拳を握って顔を上げた。

「そっか!! だったら後は目的に向かって頑張るだけね!!」
「そうだな」

 レジェンスの頷く姿を見た安奈は「頑張るぞ!」と言い、拳を高く掲げる。
そんな彼女の様子に一同は笑みを零した。
しかし、ふとあることを思い出し、安奈は深刻な表情を浮かべて彼らに向き直る。

「あのさ、朱玉を持って行ったら、この村はどうなるの?
 次の日、突然飢饉とか……起こったりしない?」

 心配する彼女の言葉に一同はうーんと表情を曇らせるが、ククルは顔を上げた。

「確かにこれまでよりも収穫量は落ちて、今みたいに活気溢れる村っていうわけにはいかないかもしれない。
 だが、宝玉がどういう状況であの洞窟にやって来たのかは分からねぇけど、それまでこの村人はやっていけてたわけだろ?
 どこに住んでいようと人は自然には勝てねぇ。自然とうまく折り合いをつけながら、良い時があって悪い時もあって、
 それを乗り越えて生きてかなきゃいけないものなんだよ、人間っていうのは。
 この村はここ何年も良い時しかなかっただけで、これからは悪い時もやってくるだろうがそれは生きる上では当然なことだ。
 そもそも本当に朱玉が原因で村が栄えていたかどうかも確証はないしな。
 でももし朱玉のおかげで恵まれていたとして、このままずっとここに朱玉があったとしたら、
 何十年後かにはこの村人たちは恵みを過信しすぎて働かなくなるかもしれないぜ?
 ――自分たちの行為を正当化したいわけじゃねぇけど……今後、この村はここに住む人間自身の力で作っていく、それだけのことだよ。
 そして俺たちはこの大陸を守る為に今回ばかりは自然に勝つ程の大きな力が必要だから、宝玉に頼ってる。
 ここで立ち止まるわけにはいかねぇ」

 真剣な表情で応えてくれた彼の話に納得し、安奈は深く頷いた。

「それに、もし住人の努力によってもどうにもならないほどの状況になった時は、国が救済策を出します。心配せずとも大丈夫ですよ」
「そうですか」

 シャルトリューの言葉で彼女は肩の力を抜いたようにホッとした表情で笑った。

「アンって凄く優しくて真面目なんだね。今回のことでよく分かったよ」
「本当だな」
「そういうわけでもないけど」

 ランとレジェンスの称賛に照れながら安奈は首を振る。
ひとまず、リース村のことは様子を見ていくしかないと思った。
ククルの言う通り、その年によって豊作の時もあれば凶作の時もあるし、ある日突然、自然災害に襲われるとも限らない。
リース村もそんな普通の村に戻っただけだ、と思うことにする。
ここにいる王子一行は大陸全ての者たちを救うという強い覚悟のもと、危険を承知で旅をしているのだから。
もし自分たちのせいでリース村の人々が苦しむようなことがあれば、大陸を救った後に自分ができる援助をしようと決める。
伝説と言われている朱玉を手にした今、その伝説を現実のものにする為、一刻も早く前に進むしかないのだ。
自分にできる最大限の力を持って王子一行に協力しよう、と安奈は改めて思った。
















ひとまずここで今回は打ち止めです^^;
分岐させるよりもずっと楽に書けたので、今後はもう少し早いペースで更新できたらなぁと思いますが
私の言うことは当てにならないと恐らく常連の皆様は思っていらっしゃると思うので
当てにせずにのんびりまったりお待ちくださいませm(__)m

吉永裕 (2009.2.27)



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