アークバーンという小さな大陸には伝説がありました。
「光と闇がひとつになる時
世界を変える力が手に入る」
…そうして、その絶大な力を求め、
長い間、光と闇の両国は争い続けてきたのです。
アークバーンの伝説 〜Chapter of the shining prince〜
1.プロローグ
「王子、少し休憩しませんか?」
「そうだな。宿まで距離もあるし、そうしよう」
安奈は隣を歩く高貴な雰囲気を持った青年に話しかける。
彼らの手には果物やチーズ、干した肉などの入った荷物が。
そうして2人は公園の噴水の淵に腰を下ろし、安奈は隣に座った青年を見つめた。
彼と2人きりで行動するのはこれが初めて。
出会ってからまだ3日も経っていないのだから、初めてなことは数多くあり、珍しくも何ともないが
この出会いはとても奇妙でかつ、運命的だったと思いながらこれまでのことを述懐する。
瞼を開いた瞬間に飛び込んできた眩しい光の愛おしさ。
この感覚はいったい何だろう――そんなことをぼんやりと思いながら、寝ていた体を起こす。
しかし目の前に広がったのは広大な土地と青い空。自分の足の下には鮮やかな草の絨毯が。
この状況に困惑しながらも立ち上がり周りを見渡すと、どうやらここは少し盛り上がった丘のような野原で、少し下った先に一本道が見えた。
周囲を見回したところで、何故自分がこのような場所にいるのかが分からない。
どうして自分はこんな場所で寝ていたのか、ここはいったいどこなのか。
とりあえず自分が今まで何をしていたのかを思い出そうとするが、暫く目を瞑った後、呆然と目を開けて地に両膝をついた。
今までのことを何も思い出せない自分に愕然とする。
もしかして誰かとハイキングにでも来ていて、何らかの拍子に頭でもぶつけて記憶が飛んでいるのかも、などと
今の状況が信じられず適当に理由を想像してみるが、次第に足もとからじわじわと恐怖と不安が襲ってきた。
よくテレビのバラエティの番組などで「ここはどこ?私は誰?」などというセリフを聞いたことがあるが、まさに今、自分はそのような状況ではないか。
そう思った瞬間、ハッとして自分の名前を思い出してみる。
……アンナ。そう、私の名前は星野安奈。
――でも、名前以外思い出せない。
名前を思い出せたことにホッとしつつも、自分の住所や年齢すらも思い出せないことが更に不安を募らせる。
若年性認知症という病気を聞いたことがあるが、もしかして自分もそうなのだろうか――そんなことを思っていたが、ふと、記憶はなくなっているが知識は健在だと気づきホッとするとともに、
混乱している割にはこんなことに気づく妙に冷静な自分に少し呆れながらもこんな状況の時こそ図太く前向きに考えなければ、と自分を励ました。
「ともかくもう少し情報が欲しいな」
孤独感を紛らわせるように安奈は独り言を言いながらなだらかな丘を下っていく。
そして道へ足を下ろして辺りを見回すが、遠くに木は見えても他に何も見えない。
とりあえず人のいるところへ行かなければと思い、太陽が傾いている方角へ伸びている道を進むことにした。
暫く歩いたが一向に町は見えてこない。
町どころか辺りは木や草が生い茂ってきて、このまま進むと森に辿り着くように思える。
とりあえず足の痛みが酷くなってきたので道端に生えていた大きな木の下に腰を下ろし、一休みすることにした。
今はいったい何時頃なのだろう、と思いながら空を見上げていると後ろからガサっと物音がする。
不安と期待の入り混じる中、安奈は慌てて振り向くと、そこには身なりの悪い男たち3人が立っていた。
「お、こんな田舎には似合わねぇ上等の女だなぁ」
真ん中にいた男が低い声を出して舐めるようにこちらを見つめる。
その瞬間、安奈の胸に嫌悪感と危機感が広がっていった。
彼らの下卑た笑い方はどう見ても悪者に見える。
「頭、こいつを町で売ったらいい金になりやすぜ!!」
どうやら物言いや風貌から、彼らは“山賊”というイメージがピタリとはまった。
そんな彼らの手には大きな剣や斧が握られている。
本物なのだろうか、と思いながら安奈はゆっくりと立ち上がった。
「そうだな。そこら辺の女よりずっと高く売れそうだな。だが、その前に味見しなきゃーよぉ」
頭と呼ばれる男の卑しい笑いを見て、安奈に嫌な直感が走る。
身の危険…ってやつ!? ――ぎくりとして踵を返し逃げようとしたが、呆気なく手下であろう男に腕を掴まれてしまった。
「…や…、だ、誰かっ!!」
「逃げられると思ってんのかぁ?」
グッと腕を持たれて片足が少し浮くような状態にさせられた彼女の頭の中には、これから先に起こるであろう悪夢しか浮かんでこない。
自分がどこにいるのかも分からず、しかも名前以外思い出せないようなこんな状況で、
尚且つこんな男たちに捕まるなんて――悔しいやら怖いやらで安奈は声を上げることができない。
そんな彼女の顔を汚い手がぐっと掴んで上に持ち上げた。
――その絶体絶命の時に現れたのが今隣に座っている青年と彼の連れの者たちだったのである。
彼らはあっという間に山賊たちを追っ払い、助けてくれた。
そうして話を聞くと、なんと彼らは旅をしているこの国の王子一行だという。
信じられない気持ちを押さえながら、彼女は彼らの自己紹介を聞いた。
金髪の美しい青年がこの国の王子のレジェンス・ホーリー、
大きな剣を楽々と扱い猫のようにつりあがってくりっとした瞳の青年、ククル・イッキは騎士団副隊長。
他には長身で長いローブと頭に頭巾のようなものを被った神秘的な青年は城専属の占い師というシャルトリュー・ノルディック、
そして大きな瞳と可愛らしい童顔の少年は商人のラン・イエーガ。
ひとまず彼らの親切心により次の町まで同行させてもらえることになった安奈だが、それでも胸には不安が付きまとう。
レジェンスたちと話していても自分は何も思い出せなかったのだ。
それ以上に金髪や緑色の瞳を持つ彼らの存在すら異色に思えてしまう自分は、いったいどこから来たのだろうかと考えてしまうのであった。
そしてその後、更に安奈を困惑させる事態が起こる。
漸く森を抜けて町の宿屋へ辿り着いた後、テラスで月を眺めていた安奈の体が突如透き通ったのだ。
安奈本人には自覚がなかったものの、その瞬間をレジェンス一行が目撃しており、
皆から心配やら疑惑やらを受けて、一気に彼女は不安の底に叩き落とされた。
それでも安奈が幸運だったのは、一緒にいたのがレジェンス一行だったということであろう。
彼らは記憶を失い孤独に過ごさねばならなくなった安奈を見捨てることができず、記憶が戻るまで旅に同行させてくれることになったのだ。
勿論、体が透き通るという不可思議な現象を起こす彼女に彼女自身だけでなく一行も不安と疑問を感じてはいたが、それ以上に彼らには大切な目的があった。
その目的の壮大さに比べたら、彼女の体が透き通ることなど大したことではないと思ったのだろう。
それにシャルトリューの「彼女に邪気は感じない」という言葉が太鼓判を押し、レジェンスが同行を申し出た為、もはや誰も安奈が同行することに反対する者はいなかった。
そのことに一番安堵していたのは勿論、安奈本人である。
記憶もなく、この土地について何も知らない彼女が一人で生きていくなど恐怖と不安しか浮かばないだろう。
しかし誰かが一緒にいるということ、更には彼女に非常に親切で紳士な者たちが一緒ということで彼女の心に希望の光が宿ったのだった。
自分は前向きで図太いと自覚している彼女も、彼らと出会っていなければとっくにのたれ死んでいたに違いない。
そのくらい孤独とは人の心に深く闇を落とすものであり、未知の土地は危険なのだ。
そんな窮地を救ってもらっただけに、レジェンス一行を安奈は心から信頼したのだった。
だがレジェンス一行も彼女が正体不明な存在であるにもかかわらずすぐに信用し、打ち解けていった。
それは彼女が前向きで溌剌とした性格で、人見知りすることなく彼らと接していったことによるところが大きいが、それだけではない。
安奈は感受性が豊かで共感能力に優れ、相手や、相手の状況などに応じて接し方や話し方を無意識に変えられる性格――もはや能力といった方が適切な武器を持っていた。
要するに、人の気持ちを考えて他人を優先して行動する優しい人だったのである。
その彼女の人の良さはすぐに相手にも伝わり、出会って2日目から一気に彼女はレジェンス一行のマスコット的存在になったのだ。
リメイク…というか別作品並みに書き方を変えておりますー^^;
名前変換小説の方を読んだことのある方はびっくらこいたのではなかろうか…と。
名前変換の方はゲームっぽさを意識したので、キャラの台詞を色分けしていて
その色分けによって誰が台詞を言ったのか、というような描写を省略しているので…全然文章の量が違うのです^^;
普通の小説を意識したので、できるだけ描写を細かくしようと思い、文章をかなり追加したり、原文と表現を変えたりしております。
…どっちが好みかは分かれるところでしょうけども……両方それぞれの良さを感じていただけたらと思います(;´▽`A``
追記:
分岐させるとちょっと書き難くなったのでリメイク版はキャラ別に書いていくことに急遽変更しました。
まずはレジェンスにしようと思います。
他のキャラが好きな方は本当に申し訳ありません!!!!
もし、このキャラを優先して欲しい、という希望がありました拍手かメルフォにてお伝え下さいますと優先いたします。
吉永裕 (2009.2.27)
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