隣のくん  第23話?




 『ピンポーン』

「お、来たな」
「…お邪魔します」

これまで散々同じクラスや隣の席になったけれど、彼の家に行くのは初めてだ。
何だか昨日の情けない姿を見られたこともあり、避けていた時とは違うぎこちなさを自分でも感じる。

「広い…」
「物がないだけだろ。おい、何ボケッとつっ立ってんだよ」
「じゃ、お邪魔します…」

2階にある彼の部屋は青と白で家具が揃えられていて、とてもシンプルかつオシャレな部屋だった。
そんな部屋の真ん中に箱に入ったクリスマスツリーが置かれている。
比較的大きめで飾りも多く、何だか本格的だ。
昔からくんの家は大きいし、数年前に建て直してかなり綺麗なので
お金持ち的な感じはしていたが、家具やこのようなアイテムを見ると頷けてしまう。
ついでに、あのジャイ●ンな態度も。

「凄いねー!普通の家庭でこんな大きなツリー飾るなんて」
「そうか?」

そう言いながら彼がツリーの土台のパーツをセットしていく。
私は箱から飾りを取り出す。
昔から何故かふわふわした雪に見立てた綿が好きだった。
それでもテレビや漫画で見るように恰好良く飾り付けることができず、子どもの頃は何度も試行錯誤したものだ。
あの頃よりいくらか器用になっている私の手は、次々にツリーを装飾していく。

「…なぁ、お前さ……」
「何?」

皆で遊ぶ予定のゲームを用意しながらくんはゆっくり口を開いた。
私も作業を続けながら返事をする。

「昨日、泣いてたの…あれ、手紙が原因じゃねーだろ」
「なん…で?」

一瞬ピクリと手が止まるが、再び動かし始める。

「よくよく思い出してみたら、生徒会室出た時から泣いてた」
「そうだったっけ?」

変なところで細かいんだから、と思いながらとぼけて見せた。
正直、思い出したくない。
実際に今日はどんな顔をしてくんに会ったらいいのか分からないのだ。

と喧嘩でもしたのか?」
「…別に」
「…ふーん」

静かな部屋に穏やかな2人の落ち着いた声だけが響く。

「そういや、今日はにプレゼントやるのか?」
「やらないよ!そんなことしたら好きだってバレちゃうじゃない」

思わずブッと噴出した。
くん1人にだけ特別なことをしたら、明らかに変じゃないか。

「…何だよ、ずっとこのままでいいのか?」
「…いいの。 友達が一番楽だし、それに彼女になんてなれないし、なりたいって気もないし…。
 第一、いつも言ってるけどくんが好きなのは私と正反対の――」
「ま、確かにお前は外見も可愛い系じゃねーし?  性格も強がってばかりで可愛くねーけど、
 …でも、いいところだってちゃんとあると思うぜ」

くんの優しい声に驚いた私は手を止め、彼の方を向いた。
彼は黙々と作業を続けている。

「理想がどうであれ、好きになる時は誰が相手でも好きになるんじゃねーの?
 そういうのって理屈じゃねーだろ。 …だから自信持てよ。お前、自分で思ってるよりずっといい女だと思うし」
「……くん…?」

思わず彼に近寄る。

「そんな急に優しくしてくれるなんて……よもや不治の病とかに侵されてるんじゃ…?」
「馬鹿か、お前は」

ペシっと額を叩かれた。

「お前のその気持ちって奴が自縛霊みたいで気になるんだよ。
 あいつは押しに弱いんだから、さっさと意識させた方がいいと思うんだがな」
「…簡単にそんなこと言って……。 振られた時はどうすんのよ、友達でもいられないじゃない」

そう言うとくんはふう、とため息をついて立ち上がった。

「じゃあお前、このままずっと告白もせず諦めもせず、あいつが誰かに惚れて付き合うのを傍から見続けるわけ?」
「…それは……」
「…まぁ、どうするかはお前の勝手だけどよ。 でも俺は自分にも相手にも友達と偽って傍にいるなんて嫌だぜ。
 ましてや行動もしてないのに最初から諦めるなんて、意味わかんねぇ」
「……」

くんの言葉が胸に突き刺さったような感じだった。
これ以上好きにならないように、相手に同じものを求めないように自分の気持ちを偽り、
相手にも警戒心を抱かせないように友達と偽る気まずさ。
最近、くんと一緒にいる時のドキドキと共存する落ち込みそうな気持ちはこうした罪悪感だったのかもしれない。

「…コラ、一気に落ち込むな。 お前は極端なんだよっ、不器用な奴だな」

頭のてっぺんをペシっと叩かれた。
むぅ、と口を尖らせて上を向くと彼が手を差し出す。

「集合時間になるぜ、行くぞ」
「あ、もうそんな時間?」

躊躇無く彼の手を取った。
そして立ち上がる。

「――くんは…もう元カノさんのことはいいの?」
「…あぁ。きっぱり振られたからな。 ――原因も何となく分かったし」

そう言うとくんはすっと手を引き、こちらに背を向けてベッドの上に置いてあった彼のジャケットを掴んだ。

「そっか。くんは潔いのね…。私とは大違いだ」
「…ばーか」

床に置いていた私のコートが飛んできてバサッと腕の中に収まる。

「俺だって、人知れず色々ジタバタすることもあるんだよ。
 …それでも人には見せねーの。なんたって俺はカリスマ生徒会長だからな」

振り向いた彼はいつもの自信満々な表情で笑っていた。
そんな姿に思わずこちらも笑みがこぼれる。
彼も人知れず落ち込んだり迷ったりもするんだ、と内心驚いた。
そりゃ彼女さんに振られた時はかなりの落ち込みようだったけれど、いつも頼ってばかりだから、何だか意外だったのだ。
しかし、ふとそれが一番の彼の弱さなのではないかと思った。

いつも強い自分でいること、皆に憧れるような自分でいること――
それが人から自分に求められていることだと自覚している彼は、一体どこで自らの弱さと向き合っているのだろう。
一体誰を頼っているのだろう。

「――ねぇ、知ってる?
 硬いコンクリートのビルより、全部木で造られた五重塔の方が地震の時、壊れないんだって」
「…それが何だよ?」
「強くて頼もしいくんは確かに皆の憧れだけど、たまにはクヨクヨしてもいいんじゃない、ってこと。
 いつも私ばかり相談させられて悔しいし、私でよければ……」
「はっ! 残念ながら、相談相手は自分で選ぶぜ」

そう言って笑うとくんはドアを開け、レディファーストか先に行くように促す。
コートを羽織ってバッグを持ち、私は彼の前で立ち止まった。

「…私じゃ相談しても当てにならないってこと?」
「そうかもな」

そんな彼の返事にむぅ、と口を尖らせた私に
くんはまた笑って、今度は後頭部を軽く叩いた。









あぁあぁ…ムダに長い文章ですみません。
こんな1話まるまる取る予定はなかったのに^^;
これであと3話は続くかもです(><)
というわけで、またムダに長くなって話数が増える可能盛大。
とりあえず終わるまでにまだ3話以上と思っていただけたら…。
(全然役に立たない情報…)

それでは、終わりに向けてせっせと励みますので
どうぞ次回もよろしくお願いいたします。

ここまで読んでくださったお客様、ありがとうございました!!


吉永裕 (2008.1.24)




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