夢見堂 a la carte
〜記憶辿り?〜
オレはいつから能力を得ていつから使えるようになったのかは分からない。
もしかすると生まれた時から持っていたけれど使い方が分からなっただけかもしれないし、
能力持ちの多い夢見堂のメンバーと出会って芽生えた能力なのかもしれない。
とはいえ、オレが己の能力を完全に把握したのはほんの数年前だ。
それまでは無意識に能力を使っていたらしい。ほぼ家族限定ではあったが。
子どもの頃からオレは曾爺さんや曾婆さんの探し物の相談をよく受けていた。
最初は「どこにやったかなあ」という彼らの独り言を真に受けて、聞き返したり一緒に探したりしていたが
その内彼らが「夢で見た」と言って探し物を見つけ出すことが増えた。
そんなことが度々起こるようになりそのことをたちに世間話として話題を振ったところ、
それは能力の一種ではないかと紫朗が言った。
以後、オレは自身が記憶辿りの能力者だと思っている。
そう思うことでたちに近づきたかったのかもしれない。
彼女らが半ばコンプレックスにしている能力とやらを持つことでオレも彼女らの苦悩を少しでも理解したかったのは確かだ。
けれど、オレの能力はコンプレックスを抱くほど他人に影響を与えもしないし、自分も影響を受けなかった。
なので自分が考えていたよりも彼女らには近づけなかった、ということが己の能力に対する唯一のコンプレックスなのかもしれない。
「よっ、まだいたんだな。
今、サビさんが出てくとこ見たけど何かあったのか?この間の依頼で何か不満があったとか?」
「いいえ、その逆よ。改めてお礼に来てくれたの」
武道場からの帰りに珍しく遅くまで電気がついている夢見堂に気づき立ち寄った。
その前に店を出る草薙さんを見かけたのだった。
彼はオレに気づかず背を向けて歩いて行ってしまったけれど、その後ろ姿はどこかしんみりとしていたように思えた。
オレにとって草薙さんは憧れの存在だ。
強くて余裕のある大人だが、決してオレたちを子ども扱いしないし化け物扱いもしない。
何より、の能力をすぐに信じてくれたいい人だ。
オレもあんな大人の男になりたいと思い、中等部から武道場に通い始めた。
警備隊では格闘技は必須技能だということも大きかった。
しかしながら体を鍛え、技術を磨いたところで本当に守りたいものを守れるのかは分からない。
オレが守りたいのは人の心。脆い精神だ。をはじめとする夢見堂のメンバーたちをオレは守れるようになりたい。
「――トラ、ありがとう。そしてごめんね」
「ん、どうした。急に」
「ちょっとね、草薙さんと出会った時のことを思い出したの」
「そうか。…大丈夫か?」
「心配しないで、平気よ。
――ねえ、トラやみーくんは私の為に夢喰いをしなかったんでしょ。
後悔してない?苦しんでいない?」
「オレは何ともないってーの。テンが良く言ってるだろ”リンは図太いのが取り柄”…って言わすなよ。
こんなの長所でもなんでもねーのに」
「ふふっ、クロちゃんは照れてるだけで本当は強いって言いたかったんだよ。分かってると思うけどね。
トラは優しいのに強いって皆知ってるよ。
…トラは私を一人にしないように、一人で苦しまないように記憶を共有したままでいることを選んでくれた。
人の辛さや苦しさも分かってて受け入れようっていうトラの心はとても優しくて強いんだよ。
私たちはそんなトラに力を貰ってるし守られているの。…ありがとう」
そう続けては薄らと涙を浮かべながら笑って見せた。
過保護であると自覚しているけれど、やはり彼女は守らなければと思う。
優しく清い世界ならともかく、ここはテンが以前客に言ったように冷たくて息もできない場所になる可能性もある世界だ。
無意識の害意から、またマジョリティを異質な目で見る者たちからオレはたちを守りたい。
早く誰かを守らなくてもいい世界になってくれと思う。
だからオレは将来は警備隊に入隊して社会の秩序を守るつもりだ。それが極身近かな地域のことだとしても。
能力以外でオレがやれることといえばそのくらいだから。
夢見堂メンバー、3人目トラの話です。ここからWEB拍手お礼画面になかった話です。
あまり描写はできていないんですが、見た目は強面だけど心の優しいというテンプレそのままな子。
近所のお爺ちゃんお婆ちゃんのアイドル。
ちなみにトラの皆の呼び方は
対 ヒロイン→名前呼び捨て
対 シロ→紫朗
対 クロ→テン
対 ミケ→みー
対 サバ→サバ子
対 サビ→サビさん
…こうしてみるとサバちゃんをサバ子と呼ぶ子が多いな。
私の趣味です。本当はそれぞれ違う呼び方をしようとしていたけど、サバ子呼びが可愛く思えて通しました。
短めで記憶辿りの施術しておりませんが、なんとなく能力を掴んでいただけたらと思います(丸投げすみません)
ここまで読んでくださってありがとうございました!!
裕 (2015.8.23)
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