第4章 第7節
*注意: 人によってはグロいと思われる描写があります
この場所のこともエウリードに関する記憶も全くなかったではあったが、急に悪寒が走った。
目の前にいる男性は話に聞いていた通り半身が機械の人間だった。
生身の部分と金属の繋ぎ目にあるネジのようなものがグロテスクだ。
およそ正規な手術を経たものではないのだろう。
「、キミは強い子だけど悪い子だね。もう少し早く帰ってくると思ったのに。……沢山の人や魔物を殺して、ね」
「エウリード!」
を真っ直ぐ見つめるエウリードに向かってカイトが飛び出した。
そのカイトを制するように間に何者かが割り込む。
「――貴女は」
その者を見ては息を呑んだ。
カイトも少し冷静になったのか黙って距離をとる。
「その体、どうして……?」
カラカラになった喉から辛うじては声を絞り出す。
エウリードを守るように立ち塞がったのは、の複製であった。
しかしながら、彼女は首から下が機械の体になっていた。
顔の皮膚もどこか人工物らしさがあるし、何より瞳に生気がない。
まるで作り物のガラス玉を入れているような……。
「オマエノ……セイダ!」
複製がに向かって駆け出した。
その瞬間、カイトとアステムが前に出て、複製が腰の後ろから両手で取り出したナイフをそれぞれ受け止める。
彼女は激昂していて肩で息をするかのように興奮している。
「レラの村の爆発で体が吹き飛んだんだよ。
機械魔獣が頭を持ち帰ってきたから、残っていた君の細胞を培養して脳死状態だった脳に移植したんだ。
死滅していたと思われる細胞が再生したのか、最後の記憶は残っていたようだよ」
複製の代わりに説明をするエウリードの言葉を聞いて、ヒュッとの喉から音がした。
自分では意識がない時のことである。
確か強い光が放たれたところで意識を失ったのだ。
レディネスから後で聞いたことには、の中にいた女神が力を貸して無意識に転送魔法を使ったのだろうということだった筈だ。
その転送魔法の余波で爆発が起こったのだろうか?
「ロコ、ワタシヲハコンデココデシンダ。ワタシモ。デモワタシハマスターガイキカエラセテクレタ」
「とはいえ体は機械化したけどね。脳はほらあそこ」
エウリードが指差す先、部屋の右奥には縦型の箱のような機械でできたフレームと、布を被せられた水槽のようなものがある。
フレームと水槽からは幾つものコードが繋がれている。
もしかして、あそこに…?と想像したは一歩下がる。
そんな彼女を威嚇するように複製がナイフを振りかざすが、カイトが抑えた。
「脳の電子信号を変換してアンドロイドに送っているんだよ。
それでほぼ機械制御なしで体を動かせる。
僅かながら記憶も残っているみたいだ。研究しがいがあるね」
涼しい顔でエウリードが水槽の上の布を外した。
薄暗かったがそこには握りこぶし程度の肉の塊が浮いている。
とカイトは吐き気を催して口を手で押さえて目をそらした。
リットンは驚きの表情のまま硬直し、アステムとレディネスは憎悪の火を湛えた瞳で見据えている。
「この人でなし」
冷たく言い放ったレディネスにエウリードはふん、と鼻で笑う。
「確かに僕も既に人ではない」
そんな冗談を言いながらエウリードは複製の少女に「やれ」と命令する。
それと同時に彼女は腕を捻ってカイトの拘束を解いて、そのままカイトに両手のナイフで斬りかかる。
完全に機械の体となったことで力負けしているのか、カイトは押されてバランスを崩した。
アステムとリットンが彼のサポートに回り、とレディネスはエウリードへと向かう。
「エウリード、もうこんなことは止めて!パッシさんとギルド長がどんなに悲しんでいるか…っ!」
「……もう久しすぎて顔も声も忘れたよ」
エウリードも腰に装着していたのであろう金属棒を取り出す。
そしてカチリと何かのボタンを押すと、棒が一段階伸びて電気を帯び始めた。
「、近づかないで」
レディネスは彼女を制する。
金属棒の長さはの持つ刀の半分ほどではあるが、その仕組みが分からないので警戒しているようだ。
レディネスがの前に立ってエウリードに向かって銃を構える。
カイトの持つ回転式拳銃とは違い、突入前に使用した照射銃のような機械めいた見た目だ。
すぐに撃たないのは周辺の機材への影響と、エウリードの半身機械の体なことが理由だろう。
下手に傷つけて火事や爆発でも起きたらその上階の手術室を使えなくなってしまうからだ。
エウリードとレディネスは向かい合い様子見しながらじりじりと距離を詰めたり離れたりしている横で、
カイトが複製に吹っ飛ばされて出入り口付近まで飛ばされる。
その音でとレディネスが気をとられた隙に、エウリードが突入時に座っていたモニター前の機械へと駆け寄った。
チィッっと舌打ちしながらレディネスが後ろから羽交い締めをしようとしたところで右腕に金属棒に当てられる。
「ぐわっ」
短い叫び声を上げたレディネスの右腕はだらんと垂れ下がり、彼はそのまましゃがみ込んだ。
彼の持っていた銃が床を滑り壁に当たって止まる。
レディネスの頭が揺れている。どうやら右腕だけではなく体全てにダメージを受けているらしい。
「キャスカ、そのままで!」
は手をかけていた柄を握って抜き付けた。
気持ちは焦っていたが刀を抜く瞬間、頭の中が静かになる。
一挙動をスローモーションのように感じながらも、次の瞬間にはエウリードの左腕が吹っ飛んでいた。
それと同時にアステムが複製の左腕にレイピアを突き刺して動きを制し、リットンがその手に握っていたナイフを蹴り飛ばした。
そして飛ばされていたカイトが拳銃で複製の右肩と右肘を一発ずつ撃ち抜く音が響いた。
これでもう終わりだ――が刀を納めようとした時、体勢を崩したままエウリードが残った右手で盤上の飛び出たスライド式スイッチを一気に上へ押し上げた。
頭の中に電流が走る。大ボリュームの騒音を聞いた時のようだった。
ただ耳ではなく脳内に痛みが響いて細胞を揺らして痺れさせていく。
は言葉にならない悲鳴を叫び、そのまま白目をむき泡を吹いて倒れた。
「彼女に一体何をした!?」
リットンがに駆け寄る。ぐったりとしてぴくりとも動かない。
心臓は僅かながら動いてはいるがこのままでは危険かもしれないと思い、そのまま彼女を抱えて立ち上がる。
一応癒やしの魔法を唱えてみるが変化は見られない。急いで出入り口付近まで下がった。
「言うことを聞かないから壊しただけだよ。心配いらない、人としての最低限の行動はできるさ。
ただ意思のない人形みたいになるかもしれないけど。よければアンドロイドに改造してもいいよ」
「お前、ふざけるなよっ!オレが、オレたちがどんな気持ちであいつを守ってきたか、あいつの笑顔に救われてたか――」
レディネスが左手でエウリードに殴りかかった。
その後ろでは複製をカイトとアステムが抑えこんでいる。どうやらうなじ部分にある起動用電源をオフにしているようだ。
抵抗していた複製が突如ガクンと体を揺らした後、静かになる。
「のマイクロチップを爆発させることもできるんだよ?」
その言葉で皆は目を見開く。
「この部屋全てを巻き込むくらいの威力はある筈だ。――皆で死ぬかい?」
「……エウリード、お前がそこまで堕ちているなんて思わなかった。
誰かにだまされてるんじゃないかとか、事故で精神的に可笑しなことになったのかもしれないと期待してた俺が馬鹿だった」
カイトは銃を構えてエウリードの眉間に照準を合わせた。
アステムもレイピアで首を一突きできるように構え、リットンは抱えているの頭を大丈夫だと言いたげに優しく撫でた。
レディネスは先ほどエウリードが持っていた金属棒を持ち、エウリードの右手に既に当てている。いつでも電気を発生させられるように。
「起爆装置はどこにある?少しでも動いたら感電させるからな」
レディネスがエウリードの右手を人質に恫喝する。
もういっそこのまま気絶させるかと考えていると、ある音に気づく。
レディネスは固く結んでいた唇の力を緩めた。
何とか今回も3連休中に書けたんですけど、戦闘シーンって書けないね……。
いっそエウリード戦と複製戦で目線を分けて2回に分けて書いた方が良かったのかなぁ。
同時に戦ってるよって感じを出したくてえらいぎゅっとしてしまって
説明台詞と一文の行動だけのなんだこれ?みたいなページになってしまった自覚はあります、すみません。
それにしてもヒロインさんは毎回気絶して戦い終了まで起きてることがないですね(^_^;)
すみません。
今回もご訪問、ご覧になってくださった皆様、今回もありがとうございました!
次回で最終話?で、11月3日のサイト20周年にエピローグ公開にて完結させたいと思います!!
どうぞお楽しみに!
裕 (2025.9.15)
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