第4章 第3節
クントで一晩過ごした後、レディネスは結界破壊用の兵器の最終調整をする為に魔王軍の隠し施設のある場所へと戻っていった。
どこにあるの?とが尋ねたが、隠し施設なんだから教えられないと言って教えてくれなかった。
しかしながら数日で行き来できるのだから帝国軍領に近い傭兵団領のどこかにあるのだろう。
そしてレディネスを除いた4人はギルド長から受けた帝国軍領のティン島支部のあるガラの様子を見る為に
ダンジルという町を経由することになった。
勿論、表向きはクントの火竜岩をガラのギルドへ運ぶ任務だ。
なので彼らはクントで馬車を借り、荷台に火竜岩の原石とも言える岩の塊を積み込んで出発した。
アステムが手綱を握り、その隣にカイトが座って前方の安全を確認する。
そしてリットンとは荷台に乗り、後方の警戒にあたった。
そこまで周囲を警戒しなければならない程の治安ではないらしいのだが、
どの領地であろうとも落ちぶれた山賊もどきの傭兵崩れが出現するのは変わりないらしく、
荷馬車ごと奪ってしまえば後はガラで大量の火竜岩を売りさばくだけなので狙われやすいとのことだった。
そういうこともあり火竜岩の運搬という表向きは簡単そうな任務でも、
アステムやカイトという街の警備任務並みのレベルの傭兵が雇われていても何らおかしく思われないのだそうだ。
そんな話をリットンから聞いては二度ほど頷いた。
火竜岩の運搬とは聞いていたけれど、馬車で運ぶとは思わなかった。
てっきりそれぞれが持てる量を背負っていくのかと思っていた彼女は世間知らずな自分が少し恥ずかしくなる。
荷馬車を走らせながら敵襲を交わすのは難しいだろう、と思う。
狭い場所で道を塞がれて待ち伏せされたら一巻の終わりだ。
そうなると馬や荷物を守りながら相手を倒さなければならない。
勿論、敵側も馬を逃がしてはどうにもならないので直接は手を出さないだろうが、戦闘の激しさに怯えて逃げることだって有り得る。
守らなければならないものがある戦いと、身一つでの戦いは全く違うものだ。
今回はそういうことが起こらなければいいけれど……というの願いが女神に通じたのか、
一行はダンジルを無事に経由し、ガラまで予定通りの日程で辿り着くことが出来た。
ガラは帝国軍領支部が置かれていることもあり厳重な門扉が構えている。
たち一行が近づいたところで待機所にいる軍人2人が出てきてギルドの書状とメダルの提示を求めてきた。
荷台に乗っていたとリットンも彼らの前に整列する。
その後、それぞれが書面にサインをしてから街に入ることを許可される。
しかしながら10日程前の帝国軍帝位継承で新女王が即位したことによる体制の大変革が起こっているらしく、
暫くの間、来訪者は決められた場所にか行くことが出来ないそうだ。
なので今回たちはギルドとギルド直営の武器屋や道具屋、決められた食事処と宿泊施設のみ立ち入りを許された。
そういうわけで街をうろつくことも出来ない為、彼らはギルドへ直行して任務遂行し終えると最低限の道具などを調えてそのまま宿泊施設へと向かった。
「街は混乱状態だな。人々の噂を信じるなら帝位継承と言いながらも先代の優生主義に痺れを切らした第一王女が簒奪したような話だが……」
「帝国軍はアンドロイドを量産予定だったそうだがそれも停止命令が下ったらしい」
「本土に住む人たちは工場からの排煙や排水による健康被害が多いとも聞きました」
カイトたちは一室に集まり、ギルド内で耳に挟んだ話や宿屋の店主から伝え聞いた話をし合った。
内容はそれぞれ違うが、どれも前皇帝の時代は酷かったという話ではある。
しかしながらそれを憂いて立ち上がった新女王がいるというのは心強い。
周りに協力者がいるのか、帝国民の支持はいかほどかも分からないが、どうか明るい未来へと進んで貰いたいとは思った。
そしてできればレディネスを含む魔物たちとの距離を縮めて貰えたら、長い間続いている争いがなくなるのではないだろうか、とも。
そうなったらティン島はもっと自由に行き来できるようになるし、もっと栄えてより良い島となるだろう。
自分は女神とは違い世界全ての安寧と平和を願うほどの心の広さと視点を持ち合わせてはいないが、
まずは身近な人たちに安心して笑って生きていて欲しい、とは願うのだった。
その後、リットンが噂も含めたガラについての調書を纏めて封筒に入れて蝋封をする。
はその際の彼の所作を見るのがとても好きだ。
赤い蝋燭に火を点して封筒に数滴垂らし、その上か指輪印章を押しつけて暫し待った後、そっと離す。
そこには円の中に鷲の絵が浮かび上がっている。
は知らなかったが、この印章はギルド長から預かっているものらしい。
恐らくがレラの村騒動で寝込んでいる間に渡されたようだ。
その鷲の封印がされた手紙を受けとった傭兵団所属の傭兵は必ずサンティアカのギルドへ送り届けなければならないことになっている。
勿論、その存在自体を他者に知られることも厳禁だ。
そんなことが最初の傭兵登録の書面に書かれていたことをは薄らと思い出す。
その時は自分がそんな大きな仕事を受けるなど思ってもいなかった。
それが自分が島の存続を揺るがすような大事件の中心人物になってしまっていることを未だ信じられずにいる。
ギルド長への手紙は明日ギルドの傭兵団所属の傭兵に預けるらしい。
サンティアカに帰還する人を探せば一人はいるだろうとのことだ。
今日はもうどこにも行けないのであとは食事をしてゆっくり休むことになった。
そして翌日にはエウリードの施設へと出発する。
いよいよだ、とは思った。
あそこには自分の複製も恐らくいるだろう。
エウリードを止めてパッシやデルタの元へと連れて行くことが一番の目的ではあるが、彼女ともけりをつけなければ――
そう気を引き締めて眠りに就いた。
ななな7年ぶり?
更新が遅くて本当にすみません!おかしーな?この前こそ書いた気がしたのになぁ?
あっという間に完結まで行っちゃうぞと思ってたのになぁ……( ;∀;)
今回はエウリードの施設までワンクッション会です。
作者自身も忘れていたガラでの任務。
エウリードの施設へ侵入する話書いてたけど、前の話を見返したらギルド長から依頼されてたことあったじゃん!って。
もうだめだ、年々老いて行っている脳には覚えられぬ。
慌てて今回の話を書きました。この話、意外と色んな物語に関連する話なんですけど、関連する話自体を書けてないのでわからないですよね。
因みに、今回帝国軍が帝位継承に成功していますが、失敗した場合の未来が『Game addict』の世界へと繋がります。
自分だけが楽しい裏設定ってやつですね。
というわけで、更新が激遅くて大変申し訳ありませんでした。
今日はサイト開設17周年なのもあって頑張ってなんとか今日中の更新に滑り込んだ感じですが……
この後ももっと早く更新して来年には完結させるんだ……!(毎年言ってます、すみません)
ではでは、ここまで読んでくださったお客様、ありがとうございました!!
裕 (2022.11.3)
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