第4章 第4節


 たちは合流したレディネスに案内されながらガラから南南東に一週間ほど進んだ。
その間、エウリードの施設がどのようなところにあるのか、どんな施設なのかを聞かせてくれた。

 そこは死の森であった。
底なしのように見える毒の沼から立ち上る瘴気が辺りに満ちているせいで木々は葉や芽だけでなく樹皮でさえ溶け朽ちている。
 その毒の沼は元々は大昔に人と魔物が戦った際に命を落とした数多くの魔物の死骸をうち捨てていた場所であったが、
長い年月で環境が変化したらしい。
 乾いて土が積もり岩の一部となった場所は後の魔硝石の採掘場所となり、窪んで水が溜まった場所は黒いへどろの沼となった。
そんな死の広がる森の中にエウリードの施設はあるという。
 施設は結界で目視出来ないようになっていて、施設から誰かが出入りする際に結界が解除される。
結界を張る機器は施設の周りの地表に六箇所埋め込まれていて、高圧電流が流れているので下手に触らない方が良いらしい。
最悪広範囲の爆発が起こる可能性があるそうだ。
 施設内は貝殻のようにらせん状に通路が地下に伸び、恐らく最下層の制御室に行けばのクローンのような機械化された人間たちへの命令も止めることが出来るだろうとのことだった。
 ただ地下一階にある実験室にはの脳内のマイクロチップを除去する為の設備がある筈なので、そこでは戦闘をしないで欲しいとレディネスは言う。

 そして一行は森へと辿り着いた。
森の始まりはリオの森と同じようではあるけれども、更に進むと次第に何かの腐った臭いとタンパク質の焼け焦げたような臭いが混ざった非常に不快な臭いが漂い始める。
 解毒作用のあるハーブティーを事前にリットンが入れてくれたし、瘴気対策に浄化作用のある葉をアステムに渡されて口を覆う布に挟んでいるが空気が薄いような息苦しい気がしてしまう。

 木々が枯れ果てているにもかかわらず日の光は瘴気によって遮られているらしく、レディネスはランタンを掲げて慎重に前へと進む。
その後ろに続くを守るように左右にカイトとリットン、最後尾にアステムが配置されている。
それを心強く思いながらもはとんでもないところに足を踏み入れてしまったという不安や恐れに拳を固く握りしめるのだった。

 所々ぬかるみ不安定な足下に気をつけながらレディネスについて行くと、彼は静かに足を止める。
ここまで動物や魔物すら出会うことがなかった。それ程までに辺りの瘴気濃度が高いらしい。
は女神の加護があるせいか息苦しいだけではあったが、カイトとリットンは身体が重く倦怠感に襲われているそうだ。
恐らくエウリードの施設に入ってしまえば大丈夫だろうとレディネスが言うので、なんとか二人はこれ以上体調を悪くしないように買い込んでいた解毒剤と身体の再生力を高める薬草を流し込む。
 二人が一息吐くのを待ってからレディネスはある空間を指差した。

「あそこにエウリードの施設がある。
 勿論地下施設だから結界を壊しても建物らしきものがどーんと建っているわけではないけど。
 それでも入り口くらいは見えるはずだよ」

 そう言われてたちは彼の指差した方向を見据えたが、何かが埋まっているようにも見えないし自分たちのいるところと変わりない景色のように見えた。
 これが結界装置の効果なのか。本来ある筈の施設への出入り口は何も確認できない。

「心の準備はできた?突撃したら敵の機械化人が沢山襲いかかってくるかもしれない。
 勿論、のクローンも。
 それでもオレたちは最奥の制御室へ行かなきゃならないし、エウリードを見つけたら最悪殺さなきゃいけないかもしれない」

 一行の頭にパッシの顔が過った。
それでもギルド長に「止めてくれ」と言われた以上、自分たちは遂行するしかない――とカイトを始め、らパーティメンバーは覚悟を決めて腹をくくる。
皆が顔を見合わせて頷いた。
 それを合図にレディネスは一歩踏み出す。そして彼が背負っていた大きめの鞄から大きめの部品を3つ取り出して、あっという間に順序よく組み立てていく。
ほかの者たちが黙って見つめる中、すぐに青年の下肢ほどの太さの円筒形の銃が組み上がった。
 肩から背負うためのベルトをカラビナで繋げてレディネスは銃を肩から提げて、ポケットから小さな石を取り出す。

「お前、そのような大事なものをポケットに入れるなど……」

 呆れたようにアステムが声を漏らした。もそう思った。
けれどレディネスはいつも通りの様子で「オレが肌身離さず持つのが一番安全でしょ」と返した。
確かにそうかもしれない、ともは思った。
 いつもと変わらないレディネスがとても心強い存在だった。
そんな彼は銃の側面にある一つずつ石を丸いくぼみにセットしていく。
三角形の頂点に配置されたくぼみに紅色水晶、アクアオーラ、そしてレディネスの持っていた赤い守護石が填められ、薄く光を放っている。

、力を貸して。魔力放射銃に手を添えるだけでいいから」
「わかった」

 銃を施設が建っているであろう方向に構えたレディネスに請われたは彼の傍らに立った。
そしてレディネスに誘導されるままに銃の上部に手を置いた。

「守護石の力はの魔力と相性が良い筈だからただ信じて念じてくれるだけで良い。
 元々十分に破壊できる想定で作ってはいるけど、物語のクライマックスってこういうもんだろ?」
「もう、キャスカったら」

 緊張していた気持ちを和らげるためなのか、レディネスはバチンと効果音がつきそうなほどの見事なウインクをして見せた。
やカイトたちも思わず肩の力を抜いて笑みをこぼす。


「さあ行くよ、とその他の野郎ども。この島の存亡をかけた戦いの始まりだ」
「何だね、その言い草は。せめて姫を守る騎士と言ってくれたまえよ」
「最後までなんか締まらねえな」
「ふん、今回の任務もいつもと変わらんということだな」
「ふふっ、そうですね!いつもと変わらず頑張りましょう!!」

 皆がそう言うとレディネスがカウントを始めた。
は上手くいくように、と手に願いを込める。
3・2・1――

「照射!」

 レディネスが放射銃のトリガーを引いた瞬間、青白く太い光の光線が一見何もない宙へ放射される。
――が、空中で何かに衝突し、光が放散していく。

「大丈夫なの?」

 太い光が細い光となって放散していく様に不安になったはレディネスに思わず問いかけたが、大丈夫だと彼は自信げに頷いた。
彼の目線を追っても光を見つめると、放散した光が建物を包む結界の形状へと変化していく。
結界に光が沿って広がっていき、光の建物が現れた。
その後、光が一瞬収縮したように見えたかと思うと、ガラスが割れるように空間に歪みが入っていく。
そして――光とともに結界が破られ、無機質なドアがついた四角い建物が現れた。
結界発生装置があったと思われる場所からは細い黒い煙が上がっている。
レディネスがいうには強力な魔力で結界発生装置に電力を逆流させて停止させたような状況らしい。
 現れた建物は目に見えるのはそれほど大きくはないので、レディネスが以前開設してくれていたように部屋の殆どが地下に作られている構造物なのであろう。

――さあ、目指すは最下層へ!

「敵が体勢を整える前に突入するぞ!」
「はい!」

 全員はすぐに武器を構えて入り口へと駆け出した。
カイト、アステム、リットン、レディネスの後ろにも続く。
 簡単にドアの側で向こう側を確認した後、アステムが頷いた。どうやら敵の気配はないらしい。
全員が目で合図をすると、ドアの施錠をコントロールしていると思われる部分にカイトが銃を構え、数発発射する。
その後、レディネスが手動でゆっくりとドアを横に開いた。
 暗い通路の奥に下へと降りる階段が見える。中には特に光源は設置されていないようだ。
エウリードには部下があまりいないのだろうか。それとも光を必要としないような部下たちなのだろうか。
 下で待ち受けている可能性もあるが、もうここまで入ったらあとは突き進むしかない。
5人は一気に階段を駆け下りることにした。






2年と半年ぶり?でしょうか。すすすすみません、遅くて!
でも今年はサイト20周年を迎える年なので、そのときに完結させたい!!と思って尻をたたいてます。
間に合えー!!!!(この続きはまだ書けてない)

というわけですが、我ながら内容忘れがちなのでざっと読み返し。
書きたかったことと実際に書いてできたものと違うのは20年近く経っても変わらんなぁと残念になりつつ。
それでもクライマックスに向けてもう少しですので!最後はあっさり終わりますので!
もう少しお付き合いください!!!
ここまで見てくださったお客様、ありがとうございました!

裕 (2025.4.26)


次に進む     メニューに戻る