第3章 第9節
マリーで過ごした日の夕食は、朝食の時のように静かだった。
各々何か物思いにふけっているような様子だったが、食事が済むと皆が席を立つ前にリットンが話があると言い、
そしてこの任務を終了したら一時仕事を休止しようと思う、と話した。
するとアステムも同じく任務が終わったら旅に出るつもりだ、と言った。
そんな彼らにカイトは深い理由も聞かずに笑顔で頷く。
はもしかして自分がエウリードの陰謀に彼らを巻き込んでしまった為に
こんなことになってしまったのだろうかと不安に思ったが、何も言えずに俯いた。
部屋に戻るとレディネスが「皆、それぞれの人生抱えて生きてるんだから」と励ましのような言葉をかけてくれたので、彼の言葉を信じることにする。
いつまでも彼らを巻き込んでしまったことを申し訳なく思い続けるのは、何だか失礼な気がしたからだった。
皆は仲間である自分を助ける為、そしてティン島を守る為に危険を承知でこの任務を受けたのだ。
変に気を遣い、ウジウジとしていては逆に迷惑だろうし、士気も下がると思った。
それに自分も傭兵である。
任務と言われた以上、いつまでも私情にとらわれていてはいけないのだ。
そうして改めて気を引き締め、は仲間たちと共にサンティアカへと戻る。
途中で満月の夜があった為にリットンが魔物化したが、何も知らなかった時とは違って彼が人知れず皆の傍から離れる後姿を見て寂しいとは思わなくなったと同時に、
皆を気遣う優しさを持ったリットンと、彼を優しく見守っている他のメンバーに出会えたことをは心から嬉しく思った。
そんな彼らと共に仕事をするのはこれが最後。
何があってもこの任務を無事に完了させよう――と、視界に入ったサンティアカの灯りに目を細めながらは強い決意を胸に抱えて深く頷いた。
夜遅くサンティアカに戻った一行がギルドに立ち寄ると、テーブルの上のジョッキや灰皿を片付けていたパッシが顔を上げた。
そしていつもの笑顔で「おかえり」と彼らを出迎える。
「無事、2つ目の守護石を手に入れたぜ。今頃はレディネスが兵器に組み込んでる筈だ」
声のトーンを落としてカイトがパッシに言うと、彼は親指を立てて頷いた。
そうしてカイトらにカウンターの席を勧める。
「じゃあ、これが石集めとしては最後の任務だな」
周りに誰もいないことを確認し、パッシはレラの村へ行く為の地図を差し出した。
それには普段見たことのない道が線で示されている。
その道を指差してパッシは説明を始めた。
「この灰色の線で描かれているのが地下水道だ。かなり前に造られたものだが、今でも使われてるから管理もされてるし多分しっかりした造りだと思う。
サンティアカからマラダイ、マラダイからレラの村付近を流れる川まで地下水道が造られている。
地下水道から川へ出る手前に横穴があって、その通路がレラの封印の祠のある洞窟に通じているそうだ。
カモフラージュの為に普段は蔦や草で横穴の入口は覆われてるらしいから、今回の任務では逆に迷うことはないと思う。
但し、その通路はもう何年も使われてないらしいから老朽化している可能性があるし、魔物が住み着いてるかもしれないから迅速かつ慎重に行動しろよ。
――というわけで、今回はマラダイまで行った後、マラダイの地下水道を通って北上、出口付近に進行方向から見て右側に横穴があるから横穴に入る。
そして封印されてる守護石を気づかれずに回収、帰還してくれ」
真剣な表情で説明していたパッシを見つめると、カイトはふっと優しい表情を浮かべた。
「了解。……何だかお前、親父にどんどん似てきたな」
「へっ、40過ぎたおっさんに似てきたって言われても嬉しくねぇよ」
顔を歪めながらそう言うパッシだがどこか嬉しそうだ。
カウンターに座っている面々はくすっと笑みをこぼす。
「そういやお前、もうすぐ15歳になるんだっけ」
「ああ。そしたら俺も見習いから正式な傭兵になる。仕事斡旋するだけじゃなく、自分で請けることもできるようになるぜ」
「お前は斡旋業や管理職の方が向いてると思うがな。人を見る目はあるし」
「おだてても報酬は上げてやらねーぞ」
目の前のギルド長代理の少年は嬉しそうに笑って見せた。
真っ直ぐに上を見つめる者は皆、何故こんなにも瞳を美しく輝かせるのだろう、とは思う。
そしてそんな少年少女たちはとても微笑ましくて力強く、しかし時に儚く脆い。
生まれたばかりの火種のような彼らを守り育て導くことが、少し先を歩く自分たちの役目なのかもしれないとは感じていた。
――そう、カイトやアステム、リットンそしてレディネスが自分を導いてくれているように。
「じゃあ近い将来、パッシさんと一緒にお仕事することもあるかもしれませんね」
「おう、それまでにはの足手まといにならない程度には戦えるようになっとくぜ」
パッシは年相応の少年らしい笑顔を浮かべる。
はそんな彼に楽しみにしている、と言った。
「じゃあ、明日の朝にでも出発するか。カッシート遺跡に行く程じゃないが5日間はかかるし、準備はちゃんとしとかなきゃな」
「はい」
「んじゃ、気を付けて行ってこい」
そうしてパッシに見送られ、ギルドを出た一行は各々役割を分担して買い出しに行き、準備を済ませ、
予定通り次の日の早朝にサンティアカを発った。
ぐはっ、更新が…遅くて本当にすみません^^;
小説の更新の合間にやりたいこと(ゲーム作ったりエイプリルフール用の企画を進めたり)して気分転換というか気力回復していましたので
本来優先しなければならない連載中の小説が…置いてけぼりになっておりました^^;
企画も無事ひと段落しましたし、これからはもっと早い周期で書くと思いますので(書きます、とは言えない…)
どうぞ今後もまったりとお待ちいただけたらと。
さて、今回は共通ルートのみです。
前回の分岐後の話が全キャラ方向性が違うので…どうすりゃいいのとかなり迷いました。
無難な感じがするのはその為です^^;
分岐小説ってホントに難しい……。かといってキャラごとに小説を書いていたらいつ終わるかわからないいぃぃぃという感じなので
分岐小説が終わったら、またリメイク版『アークバーンの伝説』のようにキャラごとに書いていくかもしれません。
まぁ当分は無理ですけど^^;
というわけで、3章ももうすぐ終わる…かな……。
3章終了まであと2〜3話くらいだと思うのですが。(といっていつも守れたことはないのですけども)
次に書きたい小説のネタもあるし、何とか今年中には終わらせることができるように頑張りますっ!
…というわけで、いつもいつも更新が不定期かつしかも遅くてお客様には申し訳ない気持ちでいっぱいですが、
それでも読んでくださる皆様には、本当に感謝しております。
読んでくださってありがとうございました!!!
吉永裕 (2009.4.10)
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