第3章 第10節



 サンティアカを出発した一行は順調に歩を進め、6日後にはレピドライトが封印されているという洞窟へ続く横穴の入口に辿り着いた。
カイトは所々ひびが入った壁に伸びている蔦に手を伸ばし、かき分けるようにして蔦の向こう側を覗く。
するとパッシが言っていたように薄暗い道が奥へと続いていた。

「じゃあ、行くか」
「はい」

 キリッと締まった表情を向けたカイトにはしっかりと頷く。
そうして一行は辺りを警戒しながら横穴へと入っていった。

「レラの人間がこの道を使ってないとも限らないな」
「そうだね、ここで出くわしたら厄介なことになりそうだよ」

 カイトとリットンの会話を聞き、は以前リットンが言っていたことを思い出す。

「レラの村……私、あまり詳しいことが分からないんですが」
「俺たちもそうだ。
 ――分かっていることと言えば、昔からレラは川と山に挟まれている土地の為に天候に生活が左右されやすく、
 恩恵も受けただろうが水害や落石などの被害が多い場所だったらしい。
 土地を離れる者も多かったが、自然との共存を望む者、神を恐れる者たちはあの地に留まったそうだ」
「自然との共存を望む人が残るのは分かりますが、神を恐れる人たちはどうして留まったんですか?
 やはり守護石があるから?」

 はふとした疑問をアステムに投げかける。
すると彼は静かに頷いた。

「古代、レラの住人たちは守護石を守る種族に生まれたことを誇りに思っていたという。
 守護石は神と同じような存在であり、同じような力を持つと信じられていた。
 しかしある年、流行病と天災に立て続けに襲われたことによって、厚かった信仰はそのまま強烈な猜疑心に変わってしまったらしい。
 “この石があるからこの村はこんなにも不幸に襲われるのではないだろうか”“守護石どころかこの石は悪魔の石だ”――とな。
 狂信的な思考は村人全てに広がっていき、守護石を恐れた村人たちは封印することにした。
 今の村は山を切り開いて新たに作ったものらしい。守護石に触れることができない為に移動させられず、自分たちが住む場所を変えたのだろう。
 ……本当かどうかは分からないが、一昔前は生贄を捧げていたという噂もある。
 こういう村は規律が厳しく、村の外に出る者や外部者を非常に嫌がる。守護石や村の歴史が掘り返され、世間に知られるのを恐れるからな。
 だからレラの村は閉鎖的なのだと知人が昔、言っていた」
「そんな……」

 そんなアステムの言葉には思わず青褪めて足を止めた。
もしアステムの言うことが真実だとしたら――
 激しい思い込みや迷信に取りつかれてしまうことはなんて恐ろしいことなのだろうと彼女は目を伏せた。
それ以上に気の毒でもある。

「――レラの住人たちがそのように思うのも無理はないと思うよ。
 現に私たちもアローア洞窟の紅色水晶をずっと恐れていた。
 私たちは任務以外で紅色水晶に近づくこともないけれど、レラのレピドライトは生活に近い場所にあったのだから、尚更気になるだろう」
「……はい、そうですね」

 彼女の気持ちと同調するようにリットンは言葉をこぼした。
だけでなくカイトやアステムも静かに頷き、キャスカのパタパタという羽音だけが洞窟内に響く。

「――とにかく、レラの人間には見つからないように気をつけて進むぞ」
「はい」

 再び一行は前へと進み始めた。


 その後、暫く無言で歩き続けたが、突然、リットンがピタリと足を止める。

「どうした?」
「――多分、ここにレピドライトがあったんだ」

 ランタンを持ったリットンは走って移動し、ある場所に片膝をついた。
残りの者も彼に駆け寄り辺りを照らす。
するとそこはそれまでよりも少し洞窟内が広くなっていた。
 だが、リットンの指差している付近には守護石のレピドライトの気配はない。
更に言うと彼は“あったんだ”と過去形を使っている。
一体どうしたのだろう、と思っていたがすぐにはその理由を察した。
地面や壁の彼方此方に大型の獣型魔物と思われる爪痕や足跡が残っていたのである。

「……この様子じゃ、恐らく魔物に荒らされたみたいだな」
「――チッ、兵器開発に必要な守護石が」

 瞬時に人間の姿に戻ったレディネスは舌打ちする。

「酷く暴れてるみたいですね」
「レピドライトの聖気に当てられたのかもしれないな」
「……」

 各々が言葉を発する中、リットンだけは恐ろしいほど真剣な表情をして沈黙していた。

「リットンさん、どうかしましたか?」

 が声をかけると、彼は表情を崩さずに皆の方へ振り返る。

「――嫌な予感がする。
 私が外の様子を見てくるから、皆はここで暫く待機していてくれないか」
「え、どうして……? 様子を見に行くにしてもリットンさん一人じゃ危険ですよ!」
「いや、ここは私が一人で先に行った方がいい。――魔硝石の気配がするんだ。
 魔硝石は人間は勿論、魔物ですら気が狂うこともあり得る幻覚作用を持つ。
 もしかするとここを荒らした魔物が魔硝石を持っていて外で暴れているのかもしれない。
 まず耐性のある私が様子を見てくるから、暫く――そうだな――20分経っても私が戻ってこなかったら、
 その時はやって来た道を急いで戻り、マラダイからギルド長に偵察部隊を出すように伝令を飛ばして欲しい」
「――お前は大丈夫なのか?」

 リットンと同じように真剣な表情のカイトは真っ直ぐリットンを見据えた。
彼は少し眼力を弱めて頷く。

「私の身は大丈夫だよ。心配なのは私が加害者になるかもしれない程、外の魔硝石の気配が強いということさ。
 そんな中に皆を連れてはいけない」
「……わかった。だが深追いせずにある程度、様子見を済ませたらすぐ戻ってこい」
「了解した。――では、行ってくるよ」

 手短にカイトと話をつけると、リットンは踵を返して洞窟の先へ向かった。
は不安な面持ちで次第に遠ざかっていくランタンの光を見つめる。
微かに風を感じる為、恐らく洞窟の出口は近いに違いない。
外に出るのに5分もあれば足るだろう。
様子見で20分もかかるなんて有り得ない、きっとすぐにリットンは戻ってくる――はそう思っていた。
 しかし、彼が戻ってくる気配はなく既に15分を経過しようとしている。

「……時間が経つのが遅く感じますね」

 無言で待っているのが耐えられず、は独り言に近いような言葉を発した。
アステムとカイトは「そうだな」と同意する。

「リットンは魔硝石の影響に関しては大丈夫と思うけど、魔硝石を取り込んだ魔物と出くわしてたとしたらヤバいね」

 レディネスの冷静な声には思わず振り返った。

「魔硝石は脳を麻痺させて、結果、リミッター解除の効果をもたらす。
 つまりは後先考えずに身体能力や筋力の限界を越えて行動できるし、体への負荷や痛みも感じない。
 たじろぎもせず力任せに突っ込んでくる奴ほど怖いもんはないよ。獣型魔物は知能がないだけ特にね」
「……」

 不安の増したはカイトやアステムの顔を見る。
彼らも深刻な表情を浮かべていた。

「あと5分待ってもリットンさんが戻ってこなかったら……私たちも外の様子を見に出ませんか?
 危険なのは分かってますが……こんな状況でリットンさんを置いて行くなんてできません」
……」

 カイトはどうするべきか考えているようだった。
そんな彼の背中を押すように、レディネスが言葉をかける。

「……ま、応援を呼ぶとしてもある程度の情報は必要だよね」
「そうだな」

 アステムも同意を示した為、カイトはに頷いて見せた。
胸を撫で下ろしたも頷く。

「じゃあ、少し見てくるか」
「はいっ」

 そうしてリットンを除いた一行は外へ向けて走り始めた。
しかし暫く進んだ所でたちは異変に気づいて足を止める。

「何かが焦げてるような臭い……?」
「――これは人間の焼ける臭いだ」
「えっ!?」

 レディネスは顔をしかめて鼻の下を擦っている。

「村が魔物に襲われたかもな」
「可能性はある」
「急ぎましょう!」

 がそう言うと再び一行は駆けだした。
そうして一気に洞窟の出口へ辿り着き、外へ飛び出る。

「……あれがレラの村か?」

 思わず足を止めたカイトは呆然と目の前の光景を見つめた。
山の麓に森で囲まれたレラの村は、辺りは夜で暗いにも関わらず炎と煙で赤黒く浮かび上がっていた。





いつもながら久しぶりの更新ですみません……orz
しかも今回は台詞が多いし…。
文章が浮かばないタイプのスランプのようです。
(何書いても文章が長たらしくクドくなるスランプもあります^^;)

さて、今回も共通ルートのみです。
次第に自分でも訳が分からないような内容になってきております( ・д・)
一応内容や進行はプロットの通りなのですが……設定そのものが完全に自己満足だよなぁ、という感じがしてきました。
いや、これまでどの作品も自己満足の塊なんですけど(;´▽`A``
これから先は更にぶっ飛んだ内容になってきます。
基本的にヒロイン最強(至上)主義な作者なので、そういう意味でパワーバランスとかぶっ壊してます。
か弱いヒロインが好きな方には大変申し訳ないです……。

…そんな感じで、次回は結構シリアスな戦闘シーンになるかと。
次回はグロ指定が入かもしれませんが、よろしければまた忘れた頃に遊びにいらしてください^^;
更新はできるだけ早くするように励みます!
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!!!

吉永裕 (2009.9.22)


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