第3章 第4節



 紅色水晶の周りに全員が集まると、レディネスは覗き込んだり下から見上げたりして石の形を調べていく。

「まるごと持って行っても構わないけど、それはそれで大事になりそうだから核だけ抜き取ろうか」
「抜き取る? そんなことできるの?」

 驚いた様子で尋ねるに、彼は「うん」と頷いた。

「スピード勝負なんだけどさ。でも、この人数だったら大丈夫と思うんだよね」

 レディネスは説明を始める。

「まずが水晶を切る。この角度で切りつけてここからここを目指して切ったら綺麗に2つに割れる筈だよ」

 彼はそう言うと、水晶の2つの角を指さして手刀で切りつける角度を説明した。

「その後、カイトとアステムが割れた2つの石を空中でキャッチして、オレが核の石を別の石と交換する。
 それが終わったらリットンが2つの断面に炎魔法をぶつけて表面の分子を融かし、それからすぐにカイトとアステムは石を貼り合わせる」
「……そんなことできるの?」
「そこまでしなくてもいいんじゃないか?」

 驚いたり呆れたりする者のいる中、レディネスはにやっと笑ってみせる。

「これ以上、この島に変な噂が増えても面倒だし、それに盗みっていうのは気付かれずスマートに行うのがセオリーだと思うけど」
「確かに突然石がなくなったら混乱は起きるかもしれないけど……盗みっていう表現はちょっと」
「嫌だな、子猫ちゃん。仕事は楽しまないと。
 誰にも気づかれないように守護石を回収し、バリアをぶっ飛ばすほどの兵器を開発し、
 人知れずエウリードを倒してこの島に平和が戻る――どこまで隠密にやれるか試したいと思わない?」
「あぅ、……それはそうかもしれないけど」
「――、もう諦めろ。こいつ、その呼び名は変える気はないらしい」

 顔を引きつらせながらカイトがの肩をポンと叩く。
も苦笑して力なくうな垂れた。

「で、どうなの? やってくれるんでしょ?」
「……仕方ない」
「まぁ、いいんじゃねーの」
「だが、少しシミュレーションさせてくれないかい?」

 そうしてリットンはレディネスやカイト、アステムとタイミングを話し合う。
レディネスは紅色水晶がかなり重いらしいので、そんなに長くは抱えていられないという話をした。
そこで彼らは約2秒ほどで核の交換から接合までをするイメージを頭に描いていく。

「私が魔法詠唱を完了して実際に炎を召喚するまで約5秒くらいだ。
 、私が頃合いを見て君に目で合図するから、いつでも切れるように準備していてくれるかい?」
「はい。じゃあ、キャスカも準備しといてね」
「勿論。抜かりはないって」

 リットンと打ち合わせを終えてがレディネスの方を振り返ると、
彼はコートのポケットから小さな石を取り出して親指でピンと弾き、顔の前でパシッと掴む。

「じゃあ全員、集中して行くぜ」

 カイトの一声で、当たりはピリッとした雰囲気に変わった。
シーンとした中でリットンは深呼吸をすると魔法の詠唱を始め、は刀の柄を握り態勢を整える。
レディネスは右手にナイフを裏手に持ち、左手に交換用の石を持って水晶を見据え、
カイトとアステムは石の左右に分かれていつでも割れた石をキャッチできるように手を出し、足を踏ん張って構えている。

 ――数秒後、右手に炎が集まり始めたリットンはを見て頷いた。
その合図で彼女は少し助走をつけて飛び上がり、斜め上からノの字のような角度で刀を振り下ろす。

「――っはぁ!」

 の掛け声とともに紅色水晶は割れるように2つに切り裂かれた。
そうして中心に核として存在していた小さな赤い石が現れる。
 その姿を確認すると、即座にレディネスはナイフの先で石を弾くように抜き出して、左手で代わりの石を穴へ押し込んだ。
交換を終えた彼が姿を消すように飛び上がった次の瞬間、リットンから放たれた炎が石の表面にぶつかり、
その炎を押し出すようにカイトとアステムはグッと力を込めて石を重ね合わせる。
 そんな数秒の様子をはスローモーションのように感じながら息をするのも忘れて見守っていた。
そして“バシャ”っというレディネスの着地音で、ハッと我に返る。

「……凄い」

 思わずは言葉を漏らした。
何故ならカイトとアステムの抱えている紅色水晶は、全く傷一つついていないように見えたからである。
それはレディネスの立てた計画が見事に遂行されて成功したことを意味していた。

「手を放しても大丈夫だと思うよ。この石には負けるけど魔力含有量の多い石を埋めたし、磁場も狂ってないみたいだ」

 抜き出した石を見せながらレディネスがそう言うので、カイトとアステムはゆっくりと手を放す。
すると紅色水晶はぼんやりと光を放ち、今までと同じように宙に浮いた。

「成功みたいだね」

 レディネスはにっこりと笑顔を浮かべ、カイトは驚いた様子で石をいろんな角度から見る。
そうしてに切りつけた部分を確認して指で触ってみると感嘆の声を上げる。

「……すげーな。切れ目とか全然わかんねぇ」
「この世界の物体の殆どは構造や繊維に沿って切れ味のいい刃で勢いよく切って、すぐにそれを合わせたらもう一度くっつくようにできてるのさ。
 ただ、人間の組織のような柔らかいものとは違って、今回のような鉱物だと結合する為の熱量が必要になるんだけど」
「キャスカはいろんなことを知ってるのね」

 感心した様子でが呟くと、彼はフフンと笑って彼女の肩に手を回した。

「じゃあ、子猫ちゃん。今夜はもっといいことを教えてあげ――」
「黙れ」
「離れろ」
「さて帰ろうか」

 先程の核を取り除く作業よりも素早い動きでカイトとアステムはからレディネスを離し、
さっとリットンがの手を取りエスコートする。

「あ、あの……?」

 キョトンとして首を傾げていただが、1つ仕事が終わってホッとしたのか
全員の顔を見たらおかしさが込み上げてきて声を出して笑った。
そんな彼女の様子にカイトたちもキョトンとしていたが、楽しげな彼女の笑い声につられて皆も笑った。








あぁ、分岐したかったのに分岐までいきませんでしたΣ(゚Д゚|||)
期待して読まれたお客様がいらっしゃったらすみません!

さて、結構めちゃくちゃなことを当たり前のように言っている『missing』ですが……
物体の構造とか深く考えてはいけません。おかしなことに気付きそうになってもスルーです。スルー(笑)

…なんて丸投げするのも申し訳ないですので、できるだけそれらしく“すっと入ってくる”ような
説得力のある文章を書くべく今後も精進していきたいと思います。


では、読んでくださった皆様、ありがとうございました!


吉永裕 (2008.10.18)


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