第3章 第2節



 レディネスの家系は神と交信する役目を担っていた。
当時子どもだったレディネスも何度か神と石を介してではあったが会ったことがある。
 しかし、今から500年ほど前、魔王軍の本拠地があるイビリア大陸一帯を守護していた神がいなくなることが分かった。
以前、サウスランドの神が消滅したことが原因でその地に生きる者は殆ど魔力を失った為、
イビリア大陸一帯でも魔力喪失の可能性があると危ぶんだレディネスの父親は、何もしないよりはと思い立ち、
神の不在になった後、交信用として神から授かった聖なる石を砕いて核とし、大陸一帯の様々な地域の天然石を集めて結晶化させ、
その土地の魔力を守るべく祀りたてて守護石として崇めることにしたのだった。
 その後、調査によって守護石自体の力では魔力をこの地に留めておく程の効果は計算上有り得ないことが判明し、
神の下界への転生も確認されたことから、未だに神の慈愛が大陸を守っているという結論に達した。

「――ティン島の守護石を使えば……」

 そう言ってレディネスはカウンターの上に転がっていたペンを取り、
地図にカイトたちにはよく分からない文字や記号で計算式のようなものを書いていく。
その後、懐から開発中の兵器の設計図らしきものを取り出して数値を確認し、再び地図に計算の続きをしていった。

「キャスカ、貴方って一体……」
「しっ……もうちょっとだから待っててくれるかな、子猫ちゃん」
「あぅ……」
「おえっ……何なんだお前はっ」

 カイトの突っ込みは無視して彼の手は動き続け、次々と地図の海の部分が黒いインクで埋められていく。
筆を走らせる彼の眼はいつもの眠そうなものではなく、真剣そのものだ。

「――相変わらず魔物の割に機械と計算が好きなようだな」
「まぁね。魔法と違って効果がコンディションに左右されないし、計算通りに動いてくれるのはありがたいね。
 変に知識のある人型魔物はプライド高い奴が多いから扱いにくくって。
 今やってる兵器の開発だって反対が多くて人集めするだけでも大変だったんだから」

 漸く手を止めたレディネスは顔を上げてアステムに答えた。
そうして指を三本立ててデルタを見る。

「――3つだ。バリアを破るには守護石3つは必要だね」
「ふむ……。だったら傭兵団領内にある石で事足りるな」

 デルタは目を細めて地図を眺めた。
そして、三箇所に○印をつけていく。

「アローア洞窟の紅色水晶、カッシート遺跡のアクアオーラ、レラの村にあるレピドライト。この3つが傭兵団領内にある守護石だ」
「――っカッシート遺跡、か」

 遺跡名を聞いてカイトは驚きの表情を浮かべるが、すぐ険しい顔になる。

「――あぁ。あまり行きたくはないだろうが行ってくれよな。
 さて、アローア洞窟の紅色水晶はわかるだろ? 一番近いそこから回収してくれ」
「ああ。……しかし、カッシート遺跡は近年風化が激しいのもあって厳重に警備されているが、入ってもいいのか?
 それに守護石を持ち出すことによってバランスが崩れたりはしないか?」
「ふむ。それにレラの村も住人が少ないし依頼も滅多にないから地図上の位置はわかっていても、よく知らないな」

 アステムは腕を組み、リットンは首を捻った。

「カッシート遺跡の方は手配しとく。それに守護石がなくなったところで変わらんさ。壊れるときは壊れる。心配無用だ。
 ……が、レラの村はいつの頃からか守護石を悪魔の石だと恐れて地下に封印していると聞くからな。
 封印を解こうとするお前らに襲い掛かってくるかもしれん。
 マラダイの地下水道から封印されている洞窟に行く方が事を荒立てないとは思うが、今でもその洞窟への横穴があるかどうかは分からん。
 ……まぁ、そこに行くまでには調べておくからお前たちは一つずつ回収に当たってくれ」
「はい」

 は力強く頷く。
その眼にはもう迷いや恐れはない。
自分の為だけではなくデルタやパッシの為にも早くエウリードを止めなければ、という気持ちが今の自分の胸の中を占めているのだ。


「――

 明日から任務開始と話がまとまって解散した後、ギルドを出ようとした時にパッシが追いかけてきて声をかけた。

「何ですか?」
「結構適当だったんだが、お前たちが任務でいない間に“どこにも所属してない奴らが活動し始めてるらしい”っていう話をしたのと、
 ギルド長がお前の身元引受人になってくれたから、もう変な噂はなくなったと思うぜ。
 ……まぁ、結果的に嘘が本当になっちまったけどな」
「庇ってくれただけでなく身元引受人にもなってくださるだなんて……そんな、
 私の知らないところでそんなことまでしてくださって……私、お二人になんて言ったらいいか」

 咄嗟にギルドの奥を見たが、もう既にデルタの姿はなかった。
礼を言おうとしていたの表情は曇る。
しかしパッシは気にするなと眉をあげた。
カイトもリットンも身元を引き受けてるから、と後ろの2人を見て言う。

「パッシさん……、本当にありがとうございました。 また改めてお礼に伺います」
「だから気にすんなって。は自分のことと任務の遂行のことを考えろよ」

 今は兄のことで色々と思うところもあるだろうに、自分のことを心配し優先してくれる彼には感謝する。
彼は次期ギルド長としてデルタの威厳や責任感をしっかりと受け継いでいた。

「――兄貴の馬鹿な計画に巻き込んで悪かったな」
「いえ、気にしないでください。私の方も皆さんを巻き込んでますし、それに……今、私、幸せですから。
 皆さんに仲間と認めてもらえて大切に想われて、一緒に仕事ができて………本当に、幸せなんです」

 は自分の後方で待ってくれているカイト・アステム・リットン、そしてキャスカの方を振り返って笑った。
そんな彼女の様子にパッシは14歳とは思えないような大人びた笑みで頷いてみせる。

「……そうか。そう言ってくれると、助かる。
 親父も覚悟を決めたし、俺も……決めたから。 ――絶対、エウリードを止めようぜ」
「……はい」

 瞳に深い悲しみと強い決意の火を灯したパッシに向かっては控え目に敬礼をする。
そして静かに踵を返し、仲間の元へと戻って行った。













よーし、比較的早く更新できました!
といっても前回の更新の際に、レディネスの計算部分まで書いていたので早くて当たり前なのですが^^;

次第にキャラたちのイベントと関わってくるので適当なことは書けず、
色々と考えながら書いているので頭がこんがらがりそうで、
何度も各キャラの設定と今後の流れを記述したネタ帳を見て確認しながら書いております^^;

さて今回の話で思ったのが、パッシがねー攻略キャラじゃなくてがっかり(笑) 
ヒロインさん17歳、パッシ14歳で年の差3歳というのはかなり私の萌えな関係なんですけども
14歳の現時点ではちょっと…恋愛は無理かな^^;というわけで。関わりもあまりないしねぇ。
でも将来はいい男になると思います。

というわけで、今回はレディネス贔屓に見せてパッシ贔屓の話でした。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!


吉永裕 (2008.9.25)


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