第3章 第12節
*この話は、人によってグロいと思われる表現があります
「捜していたよ、私の本体」
夜にもかかわらずスコープをつけている自分と同じ顔をした女は冷たい笑みを浮かべる。
「貴女は、もしかして――っ」
「っ!」
何かを察したリットンが誰よりも早く手を伸ばしたが、その先には意識を失ったを軽々と肩に担いだ白い服の女が立っていた。
男たちは目の前で起こったことが信じられず茫然としている。
「――を離せ! そいつをどうする気だ!?」
背を向けた女にカイトは噛みつくように声を上げた。
気だるそうに振り向いた彼女は一言呟く。
「マスターの所へ連れ戻す」
「待て――っ!!」
カイトの制止も聞かず、を担いだまま女は大きく飛び上がった。
10メートル程の距離を難なく跳躍し、未だ燃えているレラの村へと向かっていく。
「クソ……っ!!」
間髪入れずレディネスはキャスカの姿になり、空へ羽ばたいた。
その後を追おうとしたカイトの腕をリットンが掴む。
「待て!今まで魔硝石に苦しめられてたのに更に危ない中に飛び込もうっていうのか?」
「俺も行く」
「アステム、お前もだろ。無茶を言うな」
カイトとアステムをリットンは言いくるめようと必死であるが、二人は一歩も引こうとしない。
「あいつがの複製っていうことは分かった。あいつの目的も。
だが、数メートル離れた場所にいたあいつが、一瞬での目の前に現れ即座に鳩尾に一撃喰らわせやがった。
その動きを目で完全に追えた奴はいるか?
村の中には魔硝石と守護石を呑み込んで暴走している化け物もいる。
魔硝石に耐久のないお前たちがいたら足手纏いだ」
突き放したようなリットンの言葉にも動じず、カイトとアステムは真っ直ぐ彼の目を見た。
「――もう、迷わない」
「過去とは決別する」
二人の顔を見たリットンは彼らから憑き物が落ちたように感じた。
危険なのは承知の上だが、追わせてやろうと思わずにはいられなかった。
何故なら、リットンも彼らの気持ちが十二分に分かったからである。
――過去の出来事よりも、今、彼女を失う方がずっと恐ろしい。
それ程までに大切な存在になっていたのだ。
は自分たちにとっては欠かすことのできない信頼できる仲間であり――
「俺たちの最後の女神だからな……仕方ないけど皆で取り返しに行くか」
「おう」
「行くぞ」
そうして三人もレラの村へと走り出した。
黒い煙と嫌な臭い、そして炎の熱で息苦しさを感じながら村の中まで進むと、家を切り崩していたレディネスと合流する。
「……頼むから敵にはならないでよ」
「ああ」
手短に互いの意志を確認し、彼らは大きい物音のする方へと急ぐ。
一方、は身体を取り巻く熱と強烈な異臭で意識を取り戻した。
周囲を見回すと村を見渡せる見張り台にいることが分かる。
何故このようなところにいるのか分からず記憶を辿ると、自分の複製があっという間に目の前に現れ殴られたところまで思い出す。
自分をここに連れてきたのはあの女だろうかと思い目を凝らしてみる。
すると煙の合間から焼け崩れた家屋と村人たちの死体が見えては思わず口を押さえた。
村人は老若男女関係なく死んでいた。
焼死した者もいれば、魔硝石の気にやられたのか白目を剥いて死んでいる者、誰かに傷つけられて死んだ者、中には互いに胸を刺し合った状態で息絶えている者たちもいた。
「どう……して、こんなことに……。
これが魔硝石の力なの……?」
力なく呟く。
しかし次の瞬間、ゾッとする断末魔が聞こえた。
その方向を見ると、そこにいたのは先程の女と頭に機械をつけた黒い熊のような大きな魔獣だった。
既に絶命した村人を踏みつける化け物のような魔獣を見たの目の前にある光景が現れる。
――焼ける家、黒い炎、地に倒れた人間、鼻をつく嫌な臭い、そして……あの黒い魔獣。
私はこの光景を以前に見たことがある……。
「……そう、あの時もこんな風に少し上の方から見ていた。
誰かに小脇に抱えられて身動きできずに……手を伸ばして……喉が千切れそうになるくらい叫んだんだ……」
動く者に襲いかかる黒い獣、目を紫色にして盗みを働いたり人を襲う村人たち、そして殺されていく村人たち。
それまで平和だった村が一瞬にして地獄の光景に変わる。
――私のせいだ。私のせいでお父さんもお母さんもお姉ちゃんも………村の皆も――
「――ぃ……いやあぁぁっ!!!」
過去と同じようには叫んだ。
この惨事を早く止めなければと魔獣と女のいる場所へ急ぐ。
するとそこにはカイトたちの姿があった。
彼らは必死に攻撃を繰り出しているが、圧倒的な魔獣の力と女のスピードに押されていた。
魔硝石の影響もあるのか動きがいつもより遅いカイトに魔獣が襲いかかる。
咄嗟には横から魔獣に体当たりをした。
大したダメージは与えられなかったが、魔獣がバランスを崩したことで辛うじてカイトは攻撃をかわす。
「――お前、もう目覚めたのか」
に気付いた女がチャクラムを構える。
その目には明らかな殺意が浮かんでいた。
「もうやめて!」
「邪魔をするなら半殺しにして連れていく。
――本来ならお前を八つ裂きにして殺したいところだがマスターの為に我慢してやっているのだ。
手を煩わせるな、本体!」
言葉が終わらないうちにチャクラムが飛んできての右腕を掠めた。
避けようとしてバランスを崩した彼女の横腹は瞬間、火傷を負ったような痛みを感じる。
白い服の女が投げたもう一つのチャクラムが僅かだが肉に刺さっていたのだ。
「――いい様だ。
ロコがあいつらを片付けるまで大人しくしていろ。お前が死ぬば私がマスターに罰を受ける」
その言葉ではチャクラムが刺さったまま魔獣の相手をしているカイトたちを見た。
レディネスとアステムが魔法、カイトとリットンが直接攻撃を仕掛けるが、魔獣の爆発的な身体能力に押されている。
「ロコ、魔硝石にもっと血を吸わせろ。さっきの聖気を消せる程にな。
そいつらと村人残らず全員噛み殺せ。八つ裂きにしろ!」
女の命を受けた魔獣の紫色の目が大きく開いた。
そして瓦礫の下で呻き声をあげていた老人に襲いかかる。
たちの目の前で飛び散る血飛沫と身体の一部。
止めたくてもたちの身体は何故か動かない。
防衛本能が働いているのか、それともただ恐ろしいのか。
背中が凍る思いで茫然と村人が襲われている様を見つめるしかなかった。
「ロコ、次はこいつらだ」
冷たい女の声が聞こえ、はハッと意識を取り戻す。
思わず先程の光景にカイトたちの姿が重なる。
「――やめて、……やめてよ!
これ以上、悲しみと憎しみを増やさないで……っ!」
は恐怖で収縮して硬くなった身体から絞り出すように声を出した。
村人たちも救えず皆まで失ってしまったらと想像するだけで今までの比ではない程の恐ろしさが襲う。
何とかしなければ。
皆を守らなければ――
――がそう思った次の瞬間、彼女の身体から眩しい光が発せられた。
月一更新を目指すとか言っといて簡単に破った私です、すみません……(;一_一)
半分以上は書いていたのですがね…最後の方がどうも進まず、
分岐までいけるか、と思ったのですが、次回最初で分岐させた方が読みやすいかと思いまして
今回はここで終了です。
次こそ全てが明らかになる…ハズ^^;
では、読んでくださったお客様、ありがとうございました!!
次回またお会いしましょう^^
吉永裕 (2011.7.3)
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