「リットンさんのこと……ですか…………?」
「――あぁ、そうだ」

 静かに2人は雨で流れの速くなった川に立ち尽くす。

「この呪われた体質のせいで、俺は月に1度、魔物に近い身体になっちまう」
「そうだったんですか……」

 それで彼は時々ふらっといなくなってしまうのか、とは今までのことを思い出してゆっくりと頷いた。

「……俺は普通の人間じゃない。 簡単に人を傷つけるだけの力と魔力がある。お前も分かっただろう」
「あれは私が無闇に近づいたのが悪いんです! リットンさんは、苦しみながらも私のこと、守ろうとしてくれた……」
「――っそれは……っ」

 言葉を飲み込み、彼はに背中を向ける。

「リットンさん……!」
「来るなと言っただろ!!」

 近づこうとする彼女をリットンは制止する。
それでもは川の流れに逆らって彼の方へと歩を進めた。

「もう嫌なんだよ!」

 そんな彼女にリットンは泣きそうな声で叫ぶ。

「これ以上、大切な人を傷つけたくなんかない……。
 ――カイトの傷だって……俺がやったんだ。 胸から首まで引き裂いた。お前の傷の比じゃない。致命傷だった。
 ……なのにアイツもお前みたいに自分を責めて、何事も無かったように俺とのパーティを解消せず傍にいる……。
 、お前だって、こんな俺を……」

 項垂れたままの彼の手にはそっと触れた。
すると彼はビクリと身体を震わせ、慌てて振り返る。

「やめろ……俺は――」
「貴方が苦しむなら、満月の日だけは傍にいません。でも、それ以外の時は傍にいたいです。リットンさんは大切な人だから……。
 私、今まで貴方の優しさに何度も救われてきたんです」

 は穏やかな表情で顔を上げた。

「カイトさんもアステムさんも尊敬してます。……だけど私がいつも背中を追いかけてしまうのも、いつも振り向いて一番最初に探すのもリットンさんなんです。
 貴方を失うことは傷を負うことよりも魔物に囲まれることよりもずっと怖い。
 ――今、その想いが何なのかはっきり分かりました。
 私はリットンさんが好きなんです。貴方に女性として愛されたいと思っています」

 はっきりそう言うと、は懐に入れていた懐中時計を彼に差し出した。

「――帰りましょう、リットンさん」
「……っ」

 グッと手を引かれ彼の胸の中に収まる。
ギュッと抱きしめる彼の腕と、ポタポタと彼の顎から自分の頬に落ちる雫が彼の温もりを感じさせた。
 激しかった雨はいつの間にか止んでいた。
の濡れた前髪を、長いツメでゆっくりと慎重にリットンは整える。

「……こんな化け物の俺でもいいのか?」
「化け物なんかじゃありません。 リットンさんはリットンさんです。
 それにいつもの優しいリットンさんも素敵だけど、今日のワイルドな感じも恰好良いですよ?」
……」

 ニコッと無邪気な表情で笑った彼女を見て、リットンは泣きながら笑って見せた。
そして彼がすっと近づくと、次の瞬間、瞬きする間もなく唇が重ねられる。

「っあ……あの…………っ」
「――今日は放さないからな、

 唇を解放されるとは赤面して硬直状態になるが、ひょいと彼は彼女の顔を上に向け、耳元で囁いた。
すると――

「リットン!!! 待て!から離れろ!!!」

 と、後方からカイトの声が聞こえた。
その声を聞いて、リットンはチッと舌打ちする。

「やっと好きな女を手に入れたっていうのに……お預けかよ」

 そう言うと、彼はを小脇に抱えて飛び上がった。
そうしてあっという間に川岸へと辿り着く。
そこにはアステムとカイトが待っていた。

に変なことしてねーだろうな!?」
「……離れろ」

 すぐさまカイトたちがをリットンから引き離す。

「……あの、何がどうなってるんですか?」

 突然の展開にはキョトンとした表情で彼らに尋ねた。

「リットンは魔物化すると女好きになるんだ」
「カイト、言葉が露骨過ぎるぞ。 欲望に歯止めがきかないと言え」
「……見境が無いってことには変わりないだろ」
「うるせーな!野生に近くなって理性がすぐ吹っ飛ぶんだ、仕方ないだろうが!!」

 そんなことを言い合っていると、パッシがキャスカと共に遅れてやって来た。

「……お、大丈夫だったみたいだな? ほら、タオル」
「あ、ありがとうございます」

 呆然と立ち尽くしたままはタオルを受け取る。

「じゃあ、帰るぞ」

 そう言ってカイトがリットンの肩を叩いた。

「……ったく、どいつもこいつも物好きめ」

 独りごちながらもリットンはカイトとアステムの後についていく。
そんな彼らの後姿を見て、は微笑んだ。

「……色々ある奴らだけどよ、これからも頼むぜ」
「はい」

 パッシにそう答えると、も彼らの後に続く。
雲の晴れた空に浮かんでいた満月は傾き始めていた。



 ――次の日。
いつもの姿に戻ったリットンに部屋に呼ばれたは、彼の部屋のドアをノックする。

「どうぞ」
「失礼します」

 そうして入った彼の部屋は、いつものお茶の香りがした。
すると彼がやって来て、ティーセットが置かれたテーブルの方へとエスコートしてくれる。

「――腕の怪我は大丈夫かい?」
「はい、傷も浅いですし全然何ともありませんよ」

 彼女がニコッと笑うと、少しホッとした様子で彼も笑顔を見せた。
しかしすぐに表情が曇る。

「……君だけは傷つけたくなかった。 昨日は本当にすまないことをしたね」
「いえ、そんな謝らないでください。 リットンさんは……必死で堪えようとしてくれました。
 錯乱状態の中でも私の名前、呼んでくれましたよね? ――思い出してくれてありがとうございます」
。君は本当に……女神のような人だね」
 
 そう言うと、リットンはそっとの手を握る。

「私はこのお茶を飲み続けなければ自分の力を制御できない。 だが、今は君の存在が何より心強い」
「リットンさん……」
「――まだ、きちんと言っていなかったね」

 すっと立ち上がり、リットンはの傍らに膝を落とす。
そして彼女の手を握ると、じっと瞳を見つめた。 

「私は弱虫だった。 全てを話して君に恐れられるのが怖かった。
 君を傷つけることと同じくらい、君がいなくなることが怖かった。 ……それでも君は私を受け入れてくれた」

 ――、私は君を愛している。
そう言ってリットンはそっと彼女の手の甲に口付ける。

「私と一緒にいれば、君を不幸にしてしまうかもしれない。 それでも……。
 ――願わくば、このままずっと私の傍に」

 の青く澄んだ瞳から涙が一滴、零れ落ちた。

「はい。ずっと、貴方の傍に……」















というわけで、やっとリットンのイベントが終りました^^
実は女たらしの彼の方が好きだったりします。
どんだけ普段、抑えてるんだよ〜似非紳士!と自分で突っ込んだり。

とりあえず、リットンルートはカップル成立です^^;
カイトやアステムはまだまだ先ですが……今後、パーティはどうなることやら。

といっても、共通ルートではラブラブっぷりは全然ないですけどね。(当たり前ですが)
分岐した時のお楽しみ、という所でしょうか^^
といっても、アステムは物凄い後の予定なので……ラブも何もない気がしますが…………。


というわけで、次回はまた分岐なしの共通ルートになると思います。
どうぞお楽しみに♪

では、読んでくださったお客様、ありがとうございました^^



吉永裕 (2007.11.19)


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